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この理不尽な世界では  作者: 水崎幸次郎太
第一章 異世界へ迷い込んだ青年
5/5

5.ルミナス帝国



 お久しぶりです。水崎幸次郎太です。更新しました。他の話よりちょっと長めになってます。モチベーションが上がったこの時期にかけるだけ書こうと思っています。よろしければ読んでいってください。よろしくお願いします。




 


 声を聴いた。前回も聴こえた、知らない声だ。しかし前回とは違い、声がぼんやりとだが聞き取れる。


『この世界の…私たちを…止めて…』


 …聞き取れても、なんの事だか分からないことには変わりなかった。






 目を開けると、そこは見慣れない部屋だった。




「んぁ…どこだここ…?また知らない天井だ…。…なんかもう驚かなくなったな」




 ソーマはベッドから上半身を起こし、辺りを見渡した。

 部屋には俺一人。服は誰かが着替えさせてくれたたらしく、薄い水色の病院服みたいなのを着せられていた。ベットの他には机と椅子、収納棚があるぐらいのシンプルな部屋。だが清潔感があり、部屋の広さも10畳ぐらいはあるんじゃないかと思うほど広い。客人用として使われているのだろうか。タケシん家とは大違いだ。

 ところで、なんでこんな所にいるんだ?俺は何してたんだっけ…?あぁ、思い出した。あの村が火事になって、それでみんなを助けようとして、俺は…。

 先程見た光景がフラッシュバックする。腹を貫く鉄骨。酷い怪我だったのに、どうやら助かったみたいだ。お腹をみると初めから怪我などしていなかったかのように傷が綺麗さっぱり無くなっていた。誰かが魔法で治してくれたのだろうか。…いや、俺のことはいい、村のみんなの安否が気になる。果たして無事に逃げきれたのか。そして、タケシが言っていたこと、あれは一体…。分からないことだらけだ。


 そんなことを思ってると、扉を控えめにノックする音が聞こえた。次いで扉を開け、メイド服を来た女性が入ってくる。




「失礼しm…!!あなた、目が覚めたのですね!人を呼んで来ますので、そこでお待ちくださいっ!」




 人の顔を見るなり持っていたものをその場に置いて、急いでどこかへ行ってしまった…。俺を助けてくれた人の関係者だろうか。先の反応を見るからに、俺の怪我がこれだけ回復したっていう事実はそれだけ驚くべきことだったって事だな、うんうん。

 勝手に解釈をして納得し、ここに連れてくるであろう人が来るのをお利口に待つ。


 しばらくすると、ガシャガシャドタドタとうるさい金属音、ないし足音が聞こえてきた。

 中に入ってきたのは、銀色の鎧を着た大男とメガネの秘書っぽいお姉さん。




「おぉ、ホントだ生きてやがる。あれだけ怪我してて、よく3日で回復したもんだ」




 そう言いながら大男はずんずんこっちに近づいてくる。

 すると、後ろにいたメガネの美人さんがその大男の首根っこをつかみ、それを止めた。




「隊長、彼が怖がります。あまり彼に近づかないでください」




 誰だこの人たち?大柄で威圧感はあれど怖そうな人達には見えないが…。

 それが顔に出ていたのかどうか定かではないが、大男が気づいたように口を開いた。




「あぁすまん、自己紹介が先だな。俺はルミナス帝国、対神魔討伐隊隊長、ゴルドロフ・バーミリオン。で、こっちのメガネが同じく対神魔討伐隊副隊長のクラリア・リッチベルだ。」


「こんちには、クラリア・リッチベルです。これからよろしくね」


「はぁ、よろしくお願いします。あ、あと、助けてもらったみたいでありがとうございます」


「いえ、いいのよ。…こちらの事情もあるけれど。とにかく無事で何よりだわ」


「はぁ…おかげさまで…?」




 状況が掴めないまま生返事で答える。




「ところで、あなたのお名前をお伺いしてもいいかしら」


「えっと、成瀬颯馬です」


「ナルセ・ソーマ…。変わった名前ね。どこの出身?」


「にほ...いや、東の方です」




 前にもこんなやり取りがあったなぁと思いつつ、日本、ではなく東の方と答えておく。その方がスムーズに話が進むことを俺は知っている。




「東...ってことはアドランド王国の方かしら」


「...まぁそんなとこです」




 また聞き慣れない単語がでてきたが今はスルーだ。重要ならまた後で聞けばいいからな。




「じゃああの村の生まれではないわけね。となるとなぜあの村に居たの?他の村人はいたのかしら。その人たちも他のところから来たの?なんのために?それともこの子だけ例外?じゃあなぜこの子だけ?そもそも彼は一体何を考えてるの…?村を作っておいて自分で壊すのにはどんな意味が?…あーーもう訳わかんないっ!!」




 お姉さんが早口でブツブツ呟いたかと思ったら急に声を荒らげた。

 ビクッと驚いた俺を見て、隊長さんがため息をつきながら間に入る。




「落ち着けクラリア。あいつの行動が不可解なことなんざ今に始まったことじゃない。…おい坊主、悪かったな。彼女は癇癪持ちじゃあないんだが、あいつの話になるとどうも興奮しちまうみたいだ。悪く思わないでくれ」


「はぁ…」




 この人たちが先程から話しているものについて、重要な主語が不明確なため話の内容がいまいち分かりづらい。




「…あの、さっきから出てくる『彼』とか『あいつ』ってのは一体誰なんですか?それと、俺がいた村の人達はどうなりましたか?それから…」


「まぁ待て。お前の色々と聞きたいであろう気持ちも分かるが一旦落ち着け。あいつが何者なのか、坊主がどうしてここにいるのか、そのあたりの話も含めて説明をする義務が俺らにはある。が、その前に坊主が目覚めたら上へ報告しろと言われていてね。早速で悪いがついて来てくれるか?」


「まぁ、ちゃんとあとで話してくれるなら…」




 言われるがまま、ゴルドロフさんについて行く。


 綺麗なところだ。壁や床は綺麗に整備され、窓や階段に装飾が施されており、いかにも権力者のお城って感じの建物だ。

 目的の場所へ向かう道中、ゴルドロフさんからこのお城について少し教えてもらった。ここはルミナス帝国を治めるルミナス城で、政治、経済、国防などルミナス帝国内の様々な事柄に対して運営をしている中枢機関なのだそうだ。なので、敷地面積はかなり広く、お城以外にも様々な施設・設備があるため、特に配属されたばかりの新人なんかは城内の構造を把握し迷わないようにすることが初業務であると言われているのだとか。廊下からもう無駄に広いもんなぁ。車が悠々すれ違えちゃうぐらいの広さ。おれの部屋より広いってどゆこと?


 物珍しさからキョロキョロとお行儀悪く歩くこと数分、大きな二枚扉の前に着いた。多分ここが目的の場所だろう。

 ってか絶対偉い人いるやつじゃん。偉い人とご対面な展開じゃん。

 先導していたゴルドロフは振り返ると、頭を掻きながら面倒くさそうに口を開いた。




「あー、一応言っておくが、これから会うのはこの国の王様だ。別に失礼言っても俺の知ったこっちゃないが、周りが騒いで面倒だから止めておけよ」




 やはり、この扉の向こうには国王様とやらがいるようだ。




「まぁ状況が分からないんで大人しくしとこうとは思ってますが…。あ、敬語とかよくわかんないんですけど、大丈夫ですかね?」


「その辺は気にするな。そんなちっちゃい事、あいつは気にしねぇよ」




 国王をアイツ呼ばわりって…。さっきから聞いてると、この人結構適当だなぁ。




「失礼する。対神魔討伐隊隊長ゴルドロフ・バーミリオン、件の人物を連れてきた」


「…入るが良い」




 扉の奥からこれが聞こえた、と同時に大きな二枚扉が開かれ、中へ招かれた。

 部屋の中はかなり広く、豪華な装飾がどこを見ても施され、床は磨かれ光を反射し、天窓にはステンドグラス、柱にまで匠の技光るきめ細かな細工がしてある。さすが王への謁見の間、豪勢である。

 正面、少し高くなった所に玉座があり、そこには一人の男が腰掛けていた。多分あれが国王だろう。

 見た目的には隊長と変わらない、だが、覇気があまりないように見える。疲れている、とはまた別のニュアンス、生気を感じられないといった方が正しく伝わるだろう。それぐらい弱々しく感じた。

 玉座の隣に立っているのは、こちらに微笑んでいる人の良さそうな青年と、腕を組みこちらを睨みつけるように見ている少女。おそらく王子と姫様とかだろう。

 その周囲には50人ほど鎧を着た人たちがずらりと整列しており、さながら国王を守護する騎士団のようだった。




「ご苦労であった。ゴルドロフ、この者が例の村の生き残りか?」


「そうです。前回同様、アベルが発現したと思われる村を組まなく捜索しましたが、彼以外は誰も発見することができませんでした。前回と違うのは彼がいた、ということのみです」


「…!?なぁちょっと待ってくれ、俺以外は助からなかったのか?あの村にいた人たち、全員死んじまっt…」


「おい貴様、無礼であるぞ!王の話を遮るなど、死罪も免れぬ!」




 突然、整列していたうちの一人、紫色の長髪をした騎士が俺の話を遮った。




「勘違いするなよ貴様、お前はただの捕虜だ。客人でもなんでもない貴様が我々と対等に話せる立場ではない。貴様は我々からの質問にのみ口を開け」


「リュース、これは王も承認している事だ」


「…くっ!…だとしても、隊長も隊長です!手がかりが此奴しかないとはいえ、何処の馬の骨とも分からぬ奴をこの神聖なるルミナス城に、あまつさえ国王陛下の御前に連れてきて、王にもしものことがあったらどうするつもりでありましょうか!」


「…リュース・ウィーマンよ。汝のルミナス帝国の忠義、見事なものだ。しかしながら、此度について協力を願い出ているのはこちらだ。そのように、()()を無碍に扱ってはならぬよ」


「…!?…わかり、ました。出過ぎたことを申したこと、謝罪いたします…」




 王様の一言により、あの俺に難癖つけてきた騎士は黙った。

 どうやら俺はあまり歓迎させてはいないらしい。難癖騎士以外の騎士たちも俺を客人として扱うのをあまり好ましく思ってはいないご様子だ。




「我が家臣がすまなかった、客人よ。我はルミナス帝国現国王、ルミナス・エーデルヴァイン。我の隣にいるのは我が息子と娘だ。仲良くしてやって欲しい」


「マルクス・エーデルヴァインです。よろしくお願いしますね」


「…ふん!せいぜい私のご機嫌を取りなさい!」


「フリージア、ダメだよそんな態度を取ったら」


「いいのよ。私、偉いもん」


「もう、フーちゃんは…」




 ルミナス帝国のルミナス国王か。この人が国を作ったのだろうか、それとも代々受け継がれている襲名制なのかな。

 優しそうな兄マルクス王子と、高飛車な妹フリージア姫ね。オーケー覚えた。妹の方は忘れてもいいな。だって自分で名乗ってないんだもん、覚えてもらわなくていいってことだよね。挨拶大事。

 それにしてもお兄ちゃん大変そうだなぁ…あんな生意気な妹、俺ならぶん殴ってるぞ。




「して、そなたの名は?」


「えと、成瀬颯馬(なるせそうま)です」


「ナルセ・ソーマ…。その名の響き、生まれはもしやヒノクニか?」


「名前的にはちょっと惜しい感じはしますが、日本ってところから来ました…が、やっぱりご存知ないですかね?日の本って言い方のほうがヒノクニ?のニュアンスに近いかなーとも思うんですが」


「うむ…。すまんな、我もヒノクニについてはあまり詳しくはない故、別の名があるのか分からぬ。ニホン、についても初めて聞く土地だ。ただ、ソーマのような名を持つヒノクニ出身者を見知っておっての。ただの興味本位だ、忘れよ」




 ヒノクニ…漢字にすると火の国、もしくは日の国だろう。もしかして、日本関連の物や、風習、あるいは俺と同じく異世界に飛ばされてきた人がいるかもしれないし、そこへいけば日本へ帰るヒントがあるかもしれない。ヒノクニは要チェックリストに入れておこう。




「さて本題に入ろう。ソーマよ。我々からそなたをここに呼んだのはいくつか聞きたいことがあるからだ。…しかし、先程の動転具合を見るに、そなたの疑問、わだかまりを解消させなければ、我々からの質問に対してもあまり欲する回答は得られぬであろう。であるならば、まずはそなたの知りたいことから紐解いていこうではないか。ゴルドロフ、頼めるか?」


「はい、おまかせを。…ということだソーマ少年、君の質問にできる限り答えよう」


「はい…ありがとうございます」




 ちょっといざこざはあったが、俺の疑問から解消してくれるそうだ。話の分かる王様で助かる。…相変わらず難癖騎士と玉座横の少女は睨みつけているが。…少女さんには睨みつけられる謂れはないはずなんですけど。

 とにかくいい機会だ。お言葉に甘えて、いろんな質問をしてみよう。




「えーっと…まず初めにさっきの質問なんですけど、俺以外のあの村にいた人たち、あの人たちは全員、その、死んでしまったんですか?」


「その質問に正確に答えるのであれば、わからない、だ」


「は…?いやでもさっき俺以外誰も生きていなかったって…」


「たしかにあの村でソーマ以外の人は見つけられなかった。しかしそれは言葉の通りなんだよ。…ソーマ以外、何も発見できなかったんだ。あの村に住んでいたであろう人たちの、死体すらも」


「…え?…どういうことだ?たしかに俺はヒルデさんたちが暮らしてるのを見てたし、それにあの災害の時も…その、倒れていた人たちを見てる」


「そこが俺たちの疑問の一つでもある。…あの村は火災等で家屋の崩壊があり、そしてその室内も数時間前までそこで生活していた痕跡はたしかにあったんだ。しかし人や家畜、生物だけが消えてしまっていた。だから、死んだのかどうか確認する術がねぇ」


「生物、だけが…。でもなんで?」


「アベルが発現したところは例外なくいつもこのような状態になる。突然村人全てが神隠しにあったかのように。…坊主を除いてな」


「なあ、さっきから出てくるアベルってのは、こう、白髪で、ここだけ黒い髪の男か…?」


「男出会ってると思うが髪の色が逆だな。黒髪で、お前さんが言った黒い部分が白だ。まぁ何せ最後に目撃したのは十数年前の1回っきりだからな。多少の変化もあるだろうさ」




 …一部白色の黒髪の青年。特徴が一致するなら、その男を見たことがある。村が崩壊した日、ヒルデさんの頭を持っていたあの男がまさにそれだった。…あいつ、アベルって言うんだな。タケシなんかよりよっぽどいい名前じゃねえか…。




「アベルは一定周期で村を作っては自らの魔法でその村を手にかけている。なぜだか知らんがな。村人が姿を眩ませる理由、それはアベルが村を手にかける時に使う魔法が関係していると踏んでいた。…今回も同じようになんの成果もないと思っていたのだが…ソーマ、お前がいた」


「なんで俺だけ生きてんだ…?」


「こっちが聞きたいよ、全く。…坊主自身に何か心当たりないか、魔力耐性がバカ高いとか、加護持ちだとか、対抗できる防御魔法を発動でき…たらあんなにボロボロで倒れてないわな。見た目も軟弱そうなガキだし。…ほんとお前なんで生きてんだ?」


「おい、最後の方すげーバカにしてないか?」


「ともあれ、だ。アベルの手がかりとしてソーマは貴重な人材だ。ソーマ、お前にはそのアベル探しを手伝って欲しい」


「…俺の体質云々は俺自身もよくわかってねぇから一旦後回しだ。…ところで、あんたたちはアベルを見つけて何がしたいんだよ。村の人たちに謝罪させて罪を償わせるのか?」




 そこだ。この人たちは、アベルに対して何を求めているのだろうか。奴を捕まえたいのか、それとも利用して世界征服でも企んでいるのだろうか。はたまた世界の脅威としてこの世から消し去りたいのか…。俺みたいななんの役にも立たなそうな一般人を捕まえてまでアベルに執着している理由、それを聞かずして、二つ返事に協力するとは言えないだろう。犯罪の片棒を担がされても嫌だしね。

 そう思っていたら、予想にしなかった答えが返ってきた。




「俺たちがアベルに固執する理由、それは…我々が勝利を手にするため…。『神人(かみびと)』でも『魔神(まじん)』でもなく、我々『人類』が勝利するためだ。その為だったら使えるものはなんでも使う。それがたとえ、罪を犯した()()()()()()()であってもな」


「……!」


「…隊長、顔が怖いです。ただでさえ子供に泣かれる顔なのに、ソーマ様が困ってしまいます」


「あぁ、すまん。つい気が昂った」




 クラリアさんが制してくれたが、ゴルドロフさんの剣幕に圧倒され、生唾を飲み込む。どうやらこれは自分が思っていた以上に深刻な問題だったらしい。

 そして、先の発言で知らない単語が出てきた。神人と魔神、そして人成らざるもの、か。




「あの、質問を、いくつかいいっすか?」


「あぁ、すまんな。なんでも聞いてくれ」


「さっき出てきた、神人と魔神ってなんですかね?」




 わからない単語について軽く質問する程度のノリだった。しかし、俺以外の全員が信じられないと言った具合に口を開けて俺を見ている。…これは常識問題だったらしい。




「…冗談だよな…。今、俺たち人類が置かれてる状況、わかってるか?…いや、分かってないからこんな馬鹿みたいな質問してんのか」


「いや、冗談でもないんですが…」


「…はぁ…どうやって生きてきたんだお前は。世間知らずにも程があるだろ…」




 呆れられてしまったみたいだ。仕方ないだろ、この世界に来てまだ数日なんだから。この世界の情勢やら事情やらを詳しく教えてもらう時間がなかったんだよ。…教えてもらえそうだった人は村破壊してどっか行っちまったし。




「わかった…。まずはそこから話してやる。ただ、詳しく話してる時間はねーから簡単にな。詳しくは後でこの国の歴史本持ってきてやるからそれを読め」


「お、お願いします…」




 なんとなくこっちが悪い気がしなくもないが、こっちも混乱してるのでおあいこってことで勘弁して欲しい。




「まず、この世界には大きく二つの勢力が存在している。まあ正確には三つかもしれんがその辺りは後で。んで一つは、『最高神ユーピテル』率いる[人類は我々が管理するぞ]団体の『神人(かみびと)』。もう一つが、『大魔王サタン』率いる[人類は我々の家畜にするぞ]団体の『魔神(まじん)』ついでに魔物ども。この二つの勢力が俺たち人類の所有権を賭けて争ってるんだ」


「最初っからお腹いっぱいになりそうなボリュームだ…。それが神人と魔神か…。魔神の方はなんかぜってー阻止しないといけない感あるけど、神人の、その、管理するぞ的なのは、別に悪くはなさそうだけど」


「いや、お前が思ってるほど生ぬるいものではないぞ。奴らが言っているのは完全完璧なる管理。人類の行動の全て、すなわち我々の食事、生活、結婚から出産、そして死に時に至るまであらゆる選択を神人によって決められ、ただただ人類という生命の存続のみに生きることになる。自由の全くない最低の生涯が約束されるってわけだ。家畜となんら変わりねぇ」


「思ってたよりデストピア感強めだったぁ…。どっちかに任せたら人類に希望も未来も無くなることはよーく分かりました」


「そう、どちらにも任せられない。だからこそ新しく第三の勢力が立ち上がった。それが俺たち対神魔討伐隊だ」




 そういうと整列していた騎士が一斉にダン!と足を鳴らした。統制されたその動きはまるで、我々こそが神人、魔神に抗う崇高な騎士であると高らかに宣言するような、それに対する誇りを誇示したような、そんな印象を感じた。




「神人、魔神両者に屈せず、我々人類の自由を手にすること。それを達成すべく我々対神魔討伐隊は、神人、魔神と幾度となく戦ってきた。…だが、奴らは化け物じみた力を持っていた。死んでいった者も大勢いる、それも羽虫を払うかの如く、こちらを見向きもせずに軽々とだ」


「そんなに強いのか、そいつら…」


「強いなんてもんじゃねえ、奴らは人知を超えた存在だと思い知らされたね。だから、我々が勝つことなど到底不可能だと思っていた。しかし十数年前、俺たちが遠征していた途中にあった、とある村で一人の青年と出会った。そいつは俺たちにあらゆることを教えてくれた。神人や魔神はどのように生まれたのか、その体の構造や特徴、能力など、我々にとって初めて聞くことばかりだった。その日は一旦、その村の近くの街に宿を借り、明日もう一度その青年から話を聞こうと思っていた。しかしその夜、その村で膨大な魔力を察知し、すぐさまその村へ行ったのだが、そこは人一人いないもぬけの殻になっていた。お前の時と同じようにな」


「それがアベルだったってことですね」


「あぁ、あいつの知識のおかげもあって、死人は格段に減り、対抗できる手段も見えてきた。またあいつが協力してくれるのであれば、この袋小路の状況を打開できるやもしれん。だから我々はアベルとの接触を試みているんだ」


「でもなんであいつはそんなに詳しく知ってたんですか?」


「あぁ、それはあいつ自身が…」


「話が長いわ!いつまで昔話してんのよ!」




 大きな声をあげて遮ったのは、ずっと俺の方を睨んでいた騎士じゃない方、あの少女だった。

 …誰だっけ?





 



次回、「遭遇」




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