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この理不尽な世界では  作者: 水崎幸次郎太
第一章 異世界へ迷い込んだ青年
4/5

4.崩壊の日


お世話様です。水崎幸次郎太です。

第4話まで来ました。…まだそんなにいってないですね。

今後の展開は思いついているのですが、どうも文章が思いつかない…笑

…書き続けられるように頑張ります。

では、本編をどうぞ!



 


 夢を見ていた。あの時から変わらず見ている夢。いったい何回この夢を見ればいいのだろう。

 踏切の上。1人の幼い子供がこちらを見ている。汽笛の音がなっても、その子はこちらを見続けるだけ。助けたいという気持ちはあれど、動くことが出来ない。そして、その1歩が踏み出せぬまま、彼あるいは彼女を見殺しにする。そこでいつも目が覚めるのだ。




「…くそ。またあの夢か…」




 不愉快な感情を残しながら、ソーマは目を覚ました。

 一体あの夢はなんなのだろうか。そう思いながらも時間を確認しようと枕元に置いである時計に手を伸ばした。2時10分過ぎ。どうやらあの夢のせいで途中で起きてしまったようだ。

 しかし、外が何やらさわがしい。こんな時間になんだ。

 そう思い、ソーマはベッドから降りてカーテンを開け、外の様子を確認した。

 するとそこには…。




「…!?なんなんだ、これは…。一体何が起こってる…!?」




 目の前に広がっていたのは、まさに今、民家を飲み込まんとする業火だった。

 ソーマは慌てて外に飛び出した。




「た…助けでぐれ…」

「誰か!誰でもいい、手を貸してくれ!息子が…下敷きになってるんだ!!」

「うわぁぁぁん!」

「逃げてー!早く!」

「神の…天罰じゃ…」




 業火と熱風、黒い煙が辺りを包み、逃げ惑う村人たちを容赦なく襲う。助けを求める声に子供の泣き声、叫び声。阿鼻叫喚の地獄絵図。

 赤く染ったこの惨状にソーマは言葉を失っていた。




「おい、なにが起きてんだ…。敵が現れたのか…?いや、原因を考えるのは後だ!」




 ソーマはそう言うと村人を避難させるべく走り出した。

 この村でソーマが知っている所はそう多くはない。道に迷ってしまってはソーマ自身の命も危うい。そう判断して昨日診察した場所を中心に移動場所を絞る。




「ハァハァ…。悪く思わないでくれ…。俺も死にたくはないんだ…」




 誰にに聞こえるでもないのに一人走りながら呟く。

 そして、角を曲がった先、ヒルドさんの家が見えた。

 するとその前に家の方を向いたまま立つ人影が見えた。


 その人に近づくにつれ、人影がハッキリと分かってきた。

 髪は黒髪で白のメッシュがワンポイントで入っていて…。顔は…タケシにそっくりだ。

 この人はタケシなのか…そう疑問に思いながら、その彼に話しかけてみる。




「ハァハァ…。おい、お前タケシか?髪の毛随分変わってる…っていうか色が反転してっけど。まぁそんなことはいい!何が起こってんのかよくわかんねぇけど、とりあえず村人たち避難させるの手伝ってくれ!」




 タケシと思しき男からは返事がない。聞こえていないのか。




「なぁおい、聞いてるのか…。……!!」




 彼がゆっくりと振り返る。と同時に半身に隠れて見えていなかった部分、左手に持っていたモノがソーマの視界に入った。




「…お前…何持ってんだよ、それ…」




 彼が持っていたモノ。それは、今朝、タケシ自らが診察をしていたはずの………()()()()()()()だった。




「…ソーマ、起きちゃったんだね。起きなければ、こんな悪夢を知ることもなかったのに…。…いいや、それは僕の言い訳か…」


「何訳わかんねぇこと言ってんだ…!それより俺の質問に答えろ。お前は、なんでヒルドさんのっ…頭を持ってる!?」


「…僕が殺したから。僕が…この手で」


「…っ!!…どうして…!」


「ソーマ…君には僕を糾弾し、断罪する資格がある。だが今は後にしてくれ、時間が無い。…生き残ってるものを全て連れて…ここから逃げるんだ。…頼む」


「おい、説明になってねぇぞ!」


「…来る…!やめろ、やめてくれ…!あぁぁあぁ!!」




 彼が叫び声を上げた途端、辺りに無数の巨大な光の玉の様なモノが浮かび上がった。と同時にその玉が爆ぜる。

 その爆風に耐えきれず、ソーマの体は軽々吹っ飛ばされ、倒壊した建物に背中を打ち付けた。




「がはっ!…っ痛てぇ…」




 背中を強くぶつけたためか、全身が痺れているような感覚に襲われる。立とうとするが体が言うことをきかない。

 ふと視線を下に落とすと、お腹の辺りから鉄の棒が生えていた。

 いや、倒壊した建物の鉄骨がソーマの腹を貫いていた。




「…え?…ごふっ…!」




 口から盛大に吐血する。貫いたという事実を知った途端、激しい激痛を自覚する。


 彼はソーマに歩いて近づき、なんとも悲しげな表情で見下ろした。

 一瞬ぎゅっと目を閉じると、決意を固めたように、あるいは何かに縋るように、その口を開く。




「…ソーマ、もし君が奇跡的に生きて逃げられたなら、その時は…」


「何…言って…」




 激痛と薄れゆく意識の中、その声に耳を傾ける。




「ソーマ、僕を……君が僕を裁いてくれ。そして僕を殺してくれ。それが僕の唯一の願いだ」




 彼は指でそっとソーマの額に文字を描く。それがまじないなのか、死にゆく者への作法さのか、その意味はソーマには分からなかった。

 描き終えると彼は村の中心へと歩いて行った。




「…訳わかんねぇよ…。ぐそっ…俺が、何したって言うんだ…よ…。…あぁそうか、なんもしてこなかったからか…。…ははっ…これは、天罰だな…」




 自分がしてきた過去の過ち、失敗や後悔を思い出して、ソーマは苦笑いを浮かべる。

 やっとの思いで鉄骨から抜け出たが、失血がひどい。頭がぼーっとする。目が霞む。体に力が入らない。

 足が体を支えきれなくなり、倒れるように仰向けになる。




「あーぁ…こんなことなら、部屋に入ってきたクモに…でも、優しく、しておくべきだったな…。地獄に垂れる、蜘蛛の、糸…っつってなぁ…」




 眩い光に手を伸ばし、どうか来世ではもっとマシな人生でありますようにと懇願する。

 やがてソーマは眠るように目を閉じた。













 村の中心部、空に浮かぶ彼。右手には魔力を凝縮した光の玉が浮かぶ。




「ソーマが生き残れる未来なんて、無いのかもしれない…。けど、ソーマならきっと…僕を…」




 悲しげに微笑みながら口から出た淡い希望。

 もうその声を聴き届けるものはいないと分かっているのに。




「ごめんね、今まで騙して。ごめんね、救えなくて。…ごめんね、僕が、欠陥品で」




 彼が手を上に伸ばすと、光の玉はより一層大きく、眩く光り出す。




「さぁ、終わりにしよう。何もかも」




 彼は振り下ろす。裁きの光を。






『アヴァターラ・ゼロ』






 村全てが光に包まれる。あらゆる生命を無に返す光。

 生者も死者も全てを光が包み込む。逃れるものは誰もいない、誰も出来ない裁きの光。



 やがて静寂が訪れる。

 彼は目を閉じると悲しげに呟いた。




「…反応は無い。やはりか…。…ごめんね、ソーマ。君とは、もっと違う形で出会いたかったよ」




 誰もいなくなった村を背にして、彼はこの村を後にした。

















 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 同刻、ルミナス帝国の『王宮の間』では、兵士たちが慌ただしく走り回っていた。




「隊長!南東に超巨大魔力反応を確認しました!『厄災』です!『厄災』が現れました!」


「なに?やつが現れたってのか!?なんでまたこんな時に」




 ルミナス帝国、対神魔(たいしんま)討伐隊(とうばつたい)『隊長』ゴルドロフ・バーミリオンは部下からの報告を聞いて驚いた。

 その背後から凛とした声が聞こえてくる。




「『厄災』が現れる時はいつだって突然じゃないですか、隊長」




 カツカツとヒール音を鳴らしながら呆れ交じりに言った彼女、対神魔討伐隊『副隊長』クラリア・リッチベルは、メガネをクイッと上げ直すと続けて答えた。




「それに、今回の魔力反応が前回出現した時と酷似しているため、『厄災』である可能性は濃厚かと。急いで部隊の編成を。…ただ、過去と同様、今から準備して行っても、彼はもう姿を消したあとでしょうけど…」


「十中八九そうだろうな」


「『厄災』が現れたのは今回で5回目。今日こそ、あやつと接触出来ればいいのだが…」




 ルミナス帝国、国王ルミナス・エーデルヴァインは静かに呟く。

 彼、ルミナスはこのルミナス帝国の第15代目国王にして元対神魔討伐隊隊長を務める程の実力者だった。しかし、エーデルヴァインの血は短命で30を過ぎてからは急激に体力の低下が見られ、前線での活躍が出来なくなった。そのためルミナスは国の象徴として座することを余儀なくされた。

 また、ルミナスという名前は、代々国王になったものが継承しており、この国を統べる者である、という意味も持っている。




「無駄かもしれませんが、まぁ行ってはみます。…期待はしないで待っててください」




 ゴルドロフ隊長が諦め半分の口調で返した。

 ただ、だからといって行かないわけにはいかないのだ。それほど、彼『厄災』との接触はこの国にとって、人類にとって重要な意味がある。最重要参考人とでも言うべきか。




「『厄災』と呼ばれる彼は、我々人類が生き残るために必要不可欠な存在。…神人と魔神との間に生まれ落ちた子、『厄災』神魔の子アデム」


「我々人類の()()()を賭けた『神人(かみびと)』と『魔神(まじん)』両者の戦いが続くのであれば、我々はその両者を討たなければならない。しかしこのままでは戦力に差がありすぎる。であるならばどこで補うか…知識だ。私たちは、あいつらの事をもっと深く知らないことには、この戦いに…人類に勝ち目は無い」


「だからこそ、両者の血を引く彼に協力を仰ぎたいのだ」


「えぇ、その通りです」




 国王ルミナスとゴルドロフ。かつて肩を並べて幾度の死線を超えてきた戦友。今は主従の関係ではあるが、2人は良き友で良きライバルだった。

 互いにニヤリと笑う。両者の考えは同じのようだ。神人と魔神、勝者に従うのではない、()()()『勝者』になるのだ、と。




「隊長、部隊の準備が整いました」


「よし」




 クラリアからの報告を受け、綺麗に揃った隊の前へ出た。

 壇上に登るゴルドロフ隊長に視線が集まる。




「ではこれより、『厄災』神魔の子アデム捜索任務に入る!捜索程度で大袈裟だと思うやつもいるかもしれない。しかし、1歩外へ出れば奴らの戦場、生きて帰れる保証はない!そして、これは人類の存亡がかかっていると言っても過言ではない!見つけられなきゃ俺たちに残されてるのは死だ!……あー死は言い過ぎだ。俺たちはそんな事じゃ死なねぇ。まぁ、前回同様逃げられた後かもしれねぇが、そんな事は今考えることじゃない。今日こそ勝ちを取りに行くぞ、心してかかれ!以上!」




 指揮を上げることは、行動する上で重要な意味を持っている。そのようなことがあまり得意ではない隊長を知っているだけに、隊員たちは少し驚いていた。

 いつもなら、「あー…まぁ死なないように頑張れ」だの「俺の言うこと行かねぇやつは置いていく。聞けるやつだけ参加しろ」だの、適当極まりない挨拶から始まっていたのに、だ。


 普段はあまりテンションをあげることは無いゴルドロフだったが、この時は自分でも驚くほど感情が昂っていた。彼さえ味方につければ戦況は大きくこちらに傾く。

 やつを手にするのは今日か、はたまた次回にお預けか。




「待っていやがれ、アデム」




 興奮が口からこぼれ落ちるように、無意識にそう呟いていた。









次回「ルミナス帝国」

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