2.謎の青年
お久しぶりです。水崎幸次郎太です。のんびり書いていたらいつの間にかこんなに日にちが空いてしまいました。うっかりうっかり。
では、続きをどうぞ。
声を聴いた。知らない声だ。…なんだって?もっと大きな声で言ってくれ聞こえないぞ。…せか…したち…めて…?何言ってるか全然わからん。
そんなことを思いながら俺は重い瞼を持ち上げた。どうやら夢を見ていたらしい。
目を開けると俺は見慣れない部屋にいた。
あれ?俺は確か新作ゲームを買いに出かけて、それで…なんだっけ?
思い出そうとすると頭の深いところがズキズキと痛み出した。
頭を抑えながらどうにか体を起こす。
「っいってぇ…。記憶が曖昧になってんぞ。行く途中に交通事故にでも巻き込まれたか」
一応体を確認。うん、怪我は無いようだ。じゃあなんで俺はこんな所で寝てたんだ?
辺りを見回し、何かの拍子に落っことしたであろう記憶のヒントを探す。
特徴としては、部屋はそこそこ広くベットが数個あるだけ。簡素な部屋だ。
と、扉から軽いノックが二回。そしてガチャりとドアノブが回り、一人の青年らしき人が入ってきた。
「おや、目覚めたかい?」
誰だこの爽やか好青年っぽいやつは。白い髪の右側、縦にワンポイントで黒のメッシュを入れてるようなオシャレさんを俺は知らない。こんなちょっとチャラそうな髪型なのに爽やかオーラ全開のイケメンを俺は今まで見た事がないぞ。…すげー言い草だな。
「…警戒するのは分かるけど、倒れていたところを保護してあげた恩人にその態度は頂けないなぁ…。お兄さん悲しいよ」
なに?倒れていただと?とういことは、俺は本当に何かの事故に巻き込まれたのか。そんで、そこを助けてくれたのがこのオシャメン(オシャレイケメンの略)って訳か。それは悪い事をした。
いくら相手が胡散臭くて近寄りがたくて関わりたくない部類の人でも、助けてもらったのだからきちんと先に礼は言っておくべきだったな。
「いや、すみません。ちょっと記憶が混濁してて、自分の状況を飲み込めなかったというか。助けてもらったみたいで、どうもありがとうございます」
「いやぁ大変だったよ、君。手足は折れてるわ、内蔵は出てるわで死ぬ1歩手間だったんだから」
「……嘘だよね…?」
「あはは、冗談だよ」
オレ、コイツ、キライ。
なんかイラッとした。普段は滅多に怒らない仏の俺も怒りゲージが3つ飛んでくとこだったぞ。仏の顔もなんとやらだ。よく考えりゃ3つ飛んだらそれはもうお怒りモードだな。
初対面で冗談は拾えないから今後はやめた方がいいぞ、面倒くさがられて疎遠になるから。
その白髪オシャメンは手に抱えていた衣服を傍の机に置くと今度はちょっぴり深刻そうに話した。
「でも君を見つけた時、魔力を全く感じられなかったのは本当だよ?ホントに死んでると思ったぐらいだ」
ん?魔力?冗談には聞こえない口ぶりだけど。
俺がその意味について聞こうと口を開きかけるが、向こうの言葉で遮られた。
「おっと、自己紹介がまだだったね。君は誰だい?」
「自己紹介ってまず自分からするもんじゃないのかよ…まぁいいか。俺は成瀬颯馬っていいます。…日本語通じるってことはここ日本でいいのかな。えっと、東京に住んでたんだけど」
「…ん?ニホン…トウキョー…。初めて聞く土地だね。どこにあるの?」
「えっと、だから日本…なんだけど」
おかしい。が、嘘は言ってないように思える。
つまり、可能性として挙げられるのは4つ。
1つ目、また真顔で冗談を言っている可能性。
だがこれは無いだろう。彼は本当に知らないと思う。冗談にしては真剣に考えすぎだ。
2つ目、ここが日本ではなくどこかの海外の可能性。
これも考えたが、日本語を話しているのに日本を知らないというのはおかしい気がする。俺が知らないだけで、世界にはそういう国や地域があるのかもしれないが、その可能性は薄いと見ていいと思う。
3つ目、日本領だが周辺と全く交流を取らなかった結果、ここの歴史だけ止まってしまっている可能性。
…ないな。どこの鎖国国家だよ。
…4つ目、可能性としては、というか現実味としてはかなり低いが、日本が存在する世界ではない別の世界線、もしくは俺が生きてきた世界とは異なる世界に迷い込んでしまったという可能性。
要は異世界やら並行世界やらに突然行ってしまったり召喚とかされたりするやつだ。
この可能性は限りなく低いと思う。
そんな現実離れした旅行を認めたく無いし、旅行なら一度でいいからマダガスカルへ行きたい。おっと脱線した。こんな馬鹿げたことは無いと信じたいのだが、仮にその4つ目の可能性として見てみると、いろいろなことが納得がいってしまうのは確かだ。
異世界では常識となりつつある変な、もといお洒落な髪。魔力なるものの存在。日本を知らないのに話が通じる現地人。
ね?異世界要素満載でしょ?
つまるところ、俺は迷い込んだか召喚されたかその他か知らないが、異世界へ来てしまったようだ。
「どうしたんだい?急に黙って…まだ調子が良く無いのかい?」
白髪オシャメンが心配そうに顔色を伺ってきた。
とにかく、情報が足りない。とりあえず話を合わせておくことにしよう。
「あぁ、いやすみません、ちょっと考え事を。えっと、自己紹介でしたね。俺は成瀬颯馬、16歳。生まれは東の方…てことにしておいて。よろしく」
「ソーマだね、よろしく。で、君はなんであんなところで倒れてたんだ?」
「いや、俺も詳しくは分からないんだよな、気づいたらここにいたし」
「記憶の欠落が見られる、と。それ以外に何か体の不調とかは感じる?」
「特に無いな。なんか診察っぽいやりとりだな、これ」
「まあ現に僕はこの村で医者みたいなことをしてるからね」
なるほどね、ベッドが複数個あるのはそういうわけか。
「へぇ、あんた医者だったのか。…そういや、あんた自己紹介を聞いてなかったな」
「僕は……なんとでも呼んでくれたらいいよ。特に名前は無いしね」
名前がないってどういうことだ?いや、この世界ではそれが常識なのか…?分からないことが多すぎる。
「あ、村のみんなからは主様って呼ばれてるよ。君もそう呼ぶといい」
「なんか癪に触るから嫌だ」
「あはは、断られちゃった」
人懐っこそうな笑みを浮かべながら、それでもカルテらしきものに手際よく記入していく。
まぁ見た目と冗談を除いたら凄く出来る医者なんだろうなとは思うよ。見た目に関してはこの世界では普通なのかもしれないけど。
「話を戻そうか。えっと、目覚めたらここにいたんだよね?じゃあ、ここから君の住んでるところへの帰り方は分かる?ここ、ルミナス帝国の近くにあるんだけど」
ルミナス帝国。やはり聞いたことがない名前だ。
ここは俺の事を記憶喪失者だと思ってくれた方が何かと都合が良さそうだな。ここじゃ俺の常識が通じない可能性もあるし。
「いや、すまん。自分の名前は分かるんだが、それ以外のことはさっぱりだ」
「そっか。そう気を落とさないでくれ。数日で記憶喪失が治る事象もあるから、何かの拍子に思い出すかもしれないよ」
「ああ、ありがとう」
とは言ったものの、俺には生まれてこの方この世界についての記憶がない。こことは別の世界で生きてきた記憶ならあるけどな。
だから、あいつの言う思い出す思い出すということは絶対にない訳だが…うーむ、ここからどう生きてけばいいんだ?
「ところで、君は住む宛があるのかい?何ならないならここで暮らすといい。元々この村は救済のために作った村だから」
「そりゃありがたい提案だけど、いいのか?自分で言うのもなんだけど、こんな得体の知れないやつを住まわせて」
「あはは、構わないよ。君からは嘘の匂いがしないから」
「匂いって、犬かよ。いや、犬でも嘘はわからねぇよ」
「やっぱり君は面白いね。うん、僕はソーマに興味が湧いてきたよ」
「俺はお前に興味もなけりゃ、いくらイケメンでもそっちの気も無いので勘弁」
「また断られちゃった」
まぁでも、ありがたいことに住処には困らなくなった。
だが…
「でも、タダでって訳には行かないよね」
「だよなぁ、働かざる者なんとやらってな」
「そうだね、君にもちゃんと働いてもらうよ。そうだなぁ…僕の助手って言うのはどうかな?」
「俺、医療の知識なんてからっきしだぞ?」
「助手って言っても、僕のサポート役だよ。細かいことは僕が指示するからそう難しく考えなくていい。どうかな?もちろん食事も出そう。一人分くらい増えても支障はないしね」
今の俺にとって願ったり叶ったりの条件だ。断るという選択肢はないだろうな。自立できる体制が整うまでの間だけでもお世話になろう。
「あぁ、こちらこそよろしく頼む、タケシ!」
「決まりだね!…ん?タケシ…ってのはなんだい?」
「お前の呼び名だ。どうとでも呼んでいいんだろ?ならタケシだ」
「あはは、タケシか。いいよ、それで。気に入っちゃった。今度自己紹介する時はタケシって名乗らせてもらおうかな」
軽いジョークだったのに乗っかってきちゃったよ…。もっといい名前つけてあげれば良かったな。
何はともあれ、人間に必要な衣食住の2つを1度に手に入れられたことは大きい。
あとはこの世界のことをもっと知らないとな。事情によっては、俺の今後の行動方針が大きく変わってくるだろうから。ま、その辺は後々タケシに聞くとするか。
突如として颯馬の前に現れたオシャメン・タケシ。彼は一体何者なのか…。
次回「集いの村」お楽しみに!