ベンチウォーマーは本気を出せない~実は傭兵団を支える最強の錬金術師でした~
カーン! カーン! カーン! カーン!
「敵襲ー! 敵襲ー!」
けたたましい警鐘とともに、男達が慌ただしく駆け巡る。
女たちは子供たちを家の中に入れ、固く戸を閉めた。
街を守る防壁の上にズラリと弓兵が並ぶ。
彼らが見つめる先に陣を構えるのは……ゴブリン、オーク、リザードマンなど異形の怪物達……
戦いは始まった……
オーク達の放つ投石が次々と弓兵達を打ち倒し、倒しても倒してもアリのように群がってくるゴブリン達が壁をよじ登ってくる。
「隊長! もう持ちません!」
「くそっ! 救援部隊はまだなのか……」
「こんな時…… 彼らがいてくれたら……」
その時である。
遠方より土煙をあげて駆けつける、筋骨隆々の男達の姿があった!
「待たせたな!」
「あ、あれは、まさか……」
「マッスル・タンクトッパーズ! 来てくれたのか!」
「タンクトップゥゥゥゥ……ボンバァァァ!!」
筋肉ムキムキの男が敵陣に突っ込んでラリアットをかます! 吹き飛んだオークがピンボールのように弾けて次々と敵を押し倒した。
アレクセイ・タンクトップ。スキンヘッドにタンクトップ。そして鍛え抜かれた肉体美が特徴的な、マッスル・タンクトッパーズの切り込み隊長である。
「タンクトップ……スィィィィィィング!!」
筋肉ムキムキの男がリザードマンを捕まえて振り回す。竜巻を起こしながら襲い掛かるそれは、触れるもの全てを容赦なくなぎ倒した。
ゴードン・タンクトップ。スキンヘッドにタンクトップ。そして鍛え抜かれた肉体美が特徴的な、マッスル・タンクトッパーズのご意見番である。
「タンクトップ! ダーイブ!!」
筋肉ムキムキの男が助走をつけて飛び込み、まるで水面を跳ねる平石のように敵をなぎ倒しながら飛び跳ねていく。
ラムジー・タンクトップ。スキンヘッドにタンクトップ。そして鍛え抜かれた肉体美が特徴的な、マッスル・タンクトッパーズのトリックスターである。
「うおぉぉぉ!! 本物だぁ! 本物のマッスル・タンクトッパーズだぁ!」
「勝てる! 勝てるぞぉ!!」
一気に優勢となった戦況に、守備隊の兵士たちが歓声をあげる。
マッスル・タンクトッパーズ……どんなに絶望的な戦況でも、その鍛え抜かれた体でひっくり返してしまうと言う、伝説の傭兵集団であった。
戦いは終わった。
マッスル・タンクトッパーズもまた、街の人々の歓待を受けながらつかの間の休息を得る事となる。
そんな中、1人だけ慌ただしくメンバーの間を走り回るタンクトップ姿の少年がいた……
「おつかれさまです! これ、いつものスポーツドリンクです!」
「おぉ、いつもすまないな、アキオ」
アキオ・タンクトップ。マッスル・タンクトッパーズの新入りで、最年少のメンバー。だが、彼のその細い体は他のメンバーとは比べて可哀想になるほど貧相なものであった。
「ゴクゴク……プハー あぁ、まるで筋肉に溜まった疲労物質が分解されていくようだ」
「アキオのスポーツドリンクはいつも凄いな。これがないと調子が出ないんだよ」
「そんな! 自分なんて全然大したことないっスよ。それに自分、こんなことくらいしか出来ないですし……」
アキオは暗い顔をして俯いた。彼の努力は先輩達も認めるものであったが、筋肉の付きやすさには骨格が大きく関わってくる。
部隊に拾われて一年半が経過した今も、彼の筋肉はいまだ常人より少しマシと言う程度のものでしかなかった。
「アキオ……タンクトップを着たままで暗い顔をしてはいけないよ」
「あぁ、その通りだ。筋肉は裏切らない」
「よぉーし、みんなぁ! 勝利のスクワットだぁ!」
「ひゃ、ひゃくよんじゅうに……ひゃくよんじゅうさん……」
「アキオ。そこまでだ。フォームが乱れているぞ」
「セ、センパイ! でも、まだこんなの準備運動にも……」
「ダメだ。トレーニングは正しい姿勢で行わないとかえって逆効果になる。今日はもう休むんだ」
「……はい……わかりました……」
その日の夜、アキオは広場のベンチに腰かけて1人ため息をついていた。
「はぁ……僕はどんなに頑張っても先輩達みたいなムキムキのマッチョマンには成れないのかなぁ……」
と、そこへ痩せこけた犬がヨボヨボと歩いてきた。
畜生とは思えないほどの、あまりにも貧相なマッスル。
その貧弱な体付きにアキオは自身の境遇を重ね、なんだか可哀想な気分になった。
「……お腹がすいているのかい……? ほら、僕のプロテインをお食べ(※ 絶対に真似しないでください)」
痩せこけた犬はアキオから差し出された白いたんぱく質の塊をクンクンと嗅ぐと、パクっと一口に飲み込む。すると……
ボンッ!
「ワォォォォォン!?」
すると突然、さっきまで痩せこけてヨボヨボだった犬が、突然ドゴ・アルヘンティーノのようなムキムキのマッスルを皮膚の下から膨れあがらせたのである。
「こ、これは一体……!?」
「君、その犬に何をしたんだい!?」
すると、偶然それを見ていた街の住人が声をかけてきた。
「いえ、僕は何も……ただ、このプロテインを食べさせただけで」
「おかしい。何の運動もせずにいきなりこんなムキムキになるなんて……もしや君には錬金術のスキルが備わっていて、能力ブーストの効果が発動したんじゃないかい?」
「え、えぇ!? 僕に錬金術のスキルが!?」
スキル……それは神々が人類に与えた奇跡。
多種多様な亜人達や、巨大なモンスターが跋扈するこの世界において。
体力に劣る人類は厳しい生存競争に敗れ、巨大生物の寄り付かない痩せた土地でほそぼそと暮らしていた。
だが、そんな彼らを哀れに思った神々が人間達に力を与えたのだ。
自らの職を研鑽し、努力を認められた者はその奇跡の使用を許される事となる。
「え、でも僕。普通にプロテイン作ったりスポーツドリンクの調合してただけですよ!?」
次の日、街は騒然となっていた。
噂を聞きつけた街の議員が是非アキオの作ったプロテインを試してみたいと言うのだ。
「ど、どうぞ…… カゼインプロテインになります……」
「うむ……」
議員の老人がアキオの差し出した白い塊を口に含む。すると突然
ボォンッ!
「なっ!?」
「み、みなぎぶるぁぁぁぁぁぁ!!!」
ブオンブオンブオンブオン……
老人は突然ムキムキのマッチョボディに変身し、黄色い闘気を全身から発散し始めたのである。
「き、君!? これは一体どうやって作ったのかね!?」
「いや……別に普通に牛乳にレモン汁を混ぜて凝固させたあと、布でこしただけですけど……」
「そんなバカな……」
「いや、間違いない。錬金術だ。錬金術のスキルが発動している」
ざわ ざわ ざわ……
「え、でも僕そんな! 錬金術の修行なんてしていないですよ!?」
住民達はざわめいたが、アキオにはとても信じられなかった。
スキルと言うのはその道について厳しい修行を積んだ者のみに許される神の奇跡である。
扱える者は1000人に1人もいない。
「アキオ」
だが、そこへ声をかける者がいた。
ゴードン・タンクトップ。スキンヘッドにタンクトップ。そして鍛え抜かれた肉体美が特徴的な、マッスル・タンクトッパーズのご意見番である。
「前から思っていたんだ。アキオの作るプロテインには不思議な力があると……」
「センパイ! で、でもそれなら? 僕も同じプロテインを飲んでいるのにどうして……」
アキオは納得がいかなかった。
と、そこへ1人の男が声をかける。
マスター・タンクトップ。マッスル・タンクトッパーズの創始者にしてリーダー。伝説、最強のタンクトッパーである。
「アキオ……この事は決して言うまいと思っていたんだが……お前には致命的に武闘家の才能がない。そして、残念なことにボディビルダーとしての才能も……」
「……ガーン!!!」
アキオはショックを受けた。
それが事実なら、今まで必死にやってきた筋トレはなんだったと言うのか。
「だがしかし!」
マスターはアキオの肩を力強く、そして優しく掴んで言った。
「お前には錬金術師としての才能があったんだ。ただのプロテインを調合しただけでスキルが開花するほどの才能……
正しくアカデミーで学び、本格的なポーションの調合に着手すれば……どれほどの錬金術師になるか想像もつかん」
「そ、そんな……でも、僕は、センパイ達みたいなタンクトップの似合う男になりたくて……」
俯いて唇を噛みしめるアキオ。
そんな彼をマスターは優しく諭した。
この世界では復活した魔王が魔物達を統率し、侵攻を受けた人類は日々その版図を縮小させている。
世界は新たなる英雄の誕生を待ち望んでいるのだ。
次の日、一晩悩んだ末にアキオはある決心を固めていた。もうその顔に迷いはない。
「わかりました……僕、学校に入って錬金術師になります。そして……エロい薬を作って世の中のお役に立ちたいと思うんです!」
「エロい薬?」
「アキオ、それはまさか……」
「えぇ……媚薬です!」
媚薬……それは体に塗られただけで性的な快感を何倍にも高めてくれると言う伝説の薬。
「アキオ。あれは空想上の産物だ……バイアグラのような勃起状態を補助する薬はあっても、媚薬なんてものは存在しないんだよ」
「薬局で媚薬下さいなんて言っただけで大恥をかく代物だぞ。まして媚薬の研究者になるなどと……」
「わかってます! ですが……この世に存在しないものだからこそ、それに挑戦する価値があるんじゃないでしょうか!?」
アキオの真っ直ぐな瞳にムキムキのタンクトッパー達が息を呑む。
「そうか……決意は固いようだな。ならば何も言うまい。アキオ。これはみんなで出し合ったカンパ金だ。卒業までの学費と生活費はこれでなんとかなるだろう」
マスターがじゃらりと金貨の詰まった袋を渡してくる。中を見るとどう見ても100枚以上ある。
「こ、こんなにたくさん!? いただけませんよ! 普通の農家の人が一生に稼ぐ金額より多いじゃないですか!」
「いいや、アキオ。お前にはこれを受け取る資格がある。言っただろ? 筋肉は嘘をつかないと。武闘家としての才能は開花しなかったが……お前が真面目にトレーニングに励んでいたことはみんなが知っている」
ムキムキの男達に笑顔で囲まれて。アキオの胸にすくっていた不安と、周囲の酸素濃度が霧のように霧散していく。
「錬金術師になってもトレーニングは欠かすんじゃないぞ」
「タンクトップは寒さに弱い……肩を冷やさないようにな」
「ホエイプロテインはトレーニングの前後。カゼインプロテインは寝る前に飲むんだぞ」
アキオを囲んだタンクトッパーたちは、頭や背中をバシバシ叩きながら口々に激励した。
力強いその感触に、アキオは涙があふれそうになるのを堪えるのに必死だった。
「それと、これも受け取ってくれ。みんなからの餞別だ」
「こ、これは…………!?」
それは、一枚のタンクトップだった。
裏を返すと、みんなからの激励のコメントが円を描くように寄せ書きされている。
「………………(ぶわっ!)」
そこでもう限界だった。
押しとどめていた涙が、ダムのように決壊する。
「アキオ、頑張れ!」
「俺達がついてるからな!」
「センパイ……俺……俺……!」
「アキオ……俺達はこれから違う道を歩くことになる。だが、辛いことがあったらタンクトップを着て思い出せ。俺達と共に……汗を流した日々を」
「センパイ……ありがとうございます!」
そして男達は旅立った。
マッスル・タンクトッパーズは世界を救うために。アキオはエロい薬を開発するために。
その後もマッスル・タンクトッパーズはモンスターに襲われている人々を助けながら旅を続けた。
彼らは海を渡り。エルフの支援をとりつけ。魔王を打倒し。亜人達と和解した。
更に国に戻った彼らは宰相のクーデターを未然に防ぎ、囚われた王女の救出に成功する。
こうして人類は1000年王国を築き、世界に平和がもたらされるのだが……
それはまた、別の話である。
お読みくださりありがとうございました。
もし評価頂けたら連載出来るかもしれないのでどうぞよろしくお願いします~。




