村中部長からの助言
自己紹介を終えて、私達は会議室を出て、自分達の事務所に戻っていた。
私が会議室を出たタイミングと村中部長が会議室を出たタイミング一緒になったので、
先ほど気になった点について質問をしてみる。
「さっき言われてた“柊さんが出来るから”って言われたのはどういった意味なんですか?」
「うぁ?ああ、さっきの?」
「はい。」
「わかんない?」
「はい・・・。」
「まあ、自分で考えてみて!・・・って言っても、わかんないか~。」
村中部長は笑いながら歩くのだが、こちらを見つめてくる目は
厳しいモノであるように感じてしまう・・・
「まあ、今日は就任一日目だし、ご褒美だ!」
「あ、ありがとうございます。」
「さっきの下品な会話ってどう思った?」
・・・自分でも下品だったって理解してるのか・・・
思わずそのことを口に出そうとしてしまうが、ここは堪えて口には出さない・・・
その代わりに真面目な回答をする。
「今だとセクハラになる内容かと思います。」
「ぷは!!なかなか、きびしいな~。
だけど、柊ちゃんはそれにのって答えてくれたけどね~。」
「あれは柊さんもセクハラですよ!
ちょっと冷たい目で見ちゃいましたもん!」
「どうして~?」
「だって、柊さんはそんなこと言わないって思ってたのに、
そんなことをまさか言うとは思ってもみなかったです。
正直言ってちょっと幻滅しちゃいました。」
「その考えが駄目なんだよ~、井口ちゃん。」
「え?」
「井口ちゃんが今まで生きてきた世界は、それでOKだったかもしれないけど、
これから会社でやっていくにあたっては、その世界で閉じちゃてると駄目なんだって。」
「・・・・どういうことですか?」
「ちなみに柊ちゃんが俺の言葉に反応したのは、
みんなの質問に対する返答の意味も込めて反応してくれたんだぜ。
どうやったら留学できますか?とか、勉強って言ってけど、
どんな勉強したら、出世できますか?って意味だろうけど、
その回答を柊ちゃんはさっきの場で身をもって示してくれたんだよ。
まあ、当然、みんなの質問の意図を受けて、
俺がその回答を答えやすいように質問したんだけどさ。」
「・・・。」
「まあ~だ分かんない?
この世界にいると無数の人がいるのは分かるよね?」
「それは・・・分かります。」
「だから、仕事でも色んな人がいるよね?」
「?ええ。」
「まあ、まだ1年目?いや、二年目だから分かんないんだろうけど、
井口ちゃんや周りのみんなみたいにイイとこの大学を卒業した人間ばかりじゃないんだよ。」
「・・・。」
「自社工場のオペレーターには中卒だっているんだぜ?」
「・・・。」
「君達の会話は君達と同じようなレベルの人間との会話では成り立つけど、
それ以外のレベルの人との会話では成り立たないんだ。」
「・・・。」
「知ってるか?柊ちゃんはパチンコや競馬、競輪なんかのギャンブルは一通りやってるよ。
それにキャバクラにも行ったりしているしね~。」
「え!?」
「現場の人間でやってる人間が圧倒的に多いからね~。
まあ、遊び程度にやっているって話だろうけどね。」
「・・・そうなんですね・・・。」
「俺達は頭ではあるけど、モノを作る手足じゃない。
手足になるのは現場の人達だ。
その人たちと普通に話が出来るようじゃなきゃ、製品は円滑には作れないんだよ。」
「・・・。」
「その力を柊ちゃんはしっかりと持ってるんだよ~。
間違いなく、柊ちゃんが一流の人間であることの証でもあるよ。
自分個人の能力もさることながら、周りを取り込む能力もしっかり持ってるんだから、
必ず彼は上に立つ人間になるだろうね~。」
「・・・。」
「大谷ちゃんは個人では一流だけど、それ以外の能力が低いから、
やっと課長って役職になったんだろうね~。」
「いや、それは研究職だからじゃ・・・。」
「研究職は確かに出世には本当に向かない部署だよね。
どこの会社でも一番出世できない、けどやることはものすごく大変だから
本当に報われない部署ナンバーワンだね。」
そういって笑うのだが、
「だけど、柊ちゃんも研究所出身じゃない。
九州事業所のね。だけど、しっかり成果を残せてるから、
他の出世している連中と見劣りすることなく、
むしろ一歩リードして出世してるじゃない。
俺から見れば、君らは目の前に生きた教本があるんだから、
そこからしっかり学んだ方がいいと思うよ。」
「・・・はい。」
「まあ、セクハラにならないように俺も気をつけなきゃいけないな~。」
笑いながら自分の席へと村中部長は戻っていくのであった。
次話は19時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。