エレクトロニクス社へ
「こんにちは、柊参事、井口さん。」
そう言って、プラカードを持った日本人が空港に着いた私達に声をかけてきた。
「お疲れさまです。あなたは?」
警戒感を出している柊さんに対して、
プラカードを掲げていた日本人は従業員証を取り出して、
「現地法人の鈴木です。宜しく。」
「宜しくお願いします。」
挨拶をしながら握手を柊さんは交わしていたので、
私も真似をして握手をする。
「それで、鈴木さん。エレクトロニクス社から連絡がありましたか?」
「いいえ、今のところは何も・・・。」
「そうですか。まあ、今のところは待つだけですね。
明日の夕方の便で帰国することは伝えてありますし、
それまでに連絡をしてくるかどうかですね・・・。」
「とりあえず、今日は現地法人の事務所に行って、その後、宿へとお連れしますので。」
「宜しくお願いします。」
そのまま鈴木さんが用意した車に乗って会社へと向かう。
初めて見るヨーロッパの景色に私は心を奪われる。
古くても味のある建物が並んでおり、
ものすごく古き良きヨーロッパという印象をうけるのであった。
中世から建っているだろう建物や深い森に心を奪われながら、
その道端にある看板にも目を奪われるのであった。
「・・・やっぱりヨーロッパはエレクトロニクス社の看板が多いですね。」
「当然です。こっちでは、日本での南日本電機みたいなものですよ。」
私の言葉に鈴木さんが答えてくれる。
街中に溢れる家電の多くがエレクトロニクス社製の家電らしい。
「そんな所が、こっちに妥協してくれると思いますか?」
「正直なところ妥協しないと思ってます。
ハッキリ言って、1、2日前に連絡を取ったからと言って
部長クラスに会えるなんて可能性は0%に限りなく近いと思ってます。
我々の会社でもそうなのに、エレクトロニクス社になるとますます会えないですね。
それにこっちはエレクトロニクス社の本社なのですから・・・。」
「そうですか・・・。」
「ええ・・・。残念ですけど・・・。」
現地で働いて、肌で感じている鈴木さんが言っていることなら、
そうなんだろうと思ってしまう。
こっちでは超大手のエレクトロニクス社が
わざわざ日本に企業のために時間を割くとは思えない・・・
どうなってしまうんだろうか会談は・・・
結局、この日はエレクトロニクス社からの連絡は一切なかった。
日本でも大塚さんに連絡を取っているらしいのだが、
なぜか連絡が大塚さんとは取れないらしい。
「・・・逃げたな・・・。」
「あんなに大きなところなのにですか!?」
「だからだろう。
エレクトロニクス社ほどの会社で営業をやっているのなら、
神経は超図太くないとやっていけないだろうね。
普通だったら、居留守なんってつかうと今後に支障をきたしてしまうって思うかもしれないけど、
エレクトロニクス社だと何事もなかったかのように
涼しい顔してほとぼりが冷めた頃に戻ってくるよ。」
「・・・私に外資は務まりません・・・。」
「俺にも務まらないよ。」
そう言って、2人で苦笑しあうのだった。
その日は連絡がいつあってもいいように
私達はホテルへ軟禁状態で籠っていて・・・
「何でヨーロッパでカップヌードル食べなきゃいけないのよ・・・。」
ズルズルと食べながら悪態をつくのであった・・・
絶対に明日は現地のモノを食べてやる!!
次の日の朝、事務所で待機していた私達に一本の電話がかかってくる。
それを受けた鈴木さんが、慌てて私達の元に来て、
「今、電話が来た!30分後であれば、30分だけ打ち合わせが出来るそうだ!!」
「・・・何て強引連中なんだよ。」
舌打ちしながらも急いで準備する柊さん。
私も慌てて準備をして、車へと乗り込みエレクトロニクス社へと向かう。
しばらく車で走ると見えてくるエレクトロニクス社の本社ビル
「いよいよですね・・・。」
私はいよいよ始まる会議のことを考えると緊張してしまうのだが、
「大丈夫だよ。
井口さん、どうせこの会談がうまく行く可能性なんて10%くらいだからね。
あとは村中部長に責任を取ってもらうだけだよ。」
「そ、そんな!?そうならないように来たんじゃないですか!!」
「大丈夫だって!村中部長も可能性が低いからこっちに来なかったんだし!」
「え!?そう言う理由!?」
「そりゃそうだって!
じゃなきゃ、来るだろう!
こんな大事な会談に顔を見せないなんてありえないし。」
「・・・何か、騙された感じがします。」
「あははは、だけどこんな緊張感のある会談なんて普通の平社員じゃでれないよ?
いい経験になるってのは本当のことだよ。」
「そうですか・・・。」
どんなに貴重な経験が出来るかは分かっているのだが、
成功する可能性が低くて、誰もが期待していないと聞かされると
こっちのテンションはだだ下がりである・・・
「・・・分かった!
じゃあこれが終わったら、ぱぁ~と飲みに行こう!せっかくだしさ!」
「・・・ウィンナーも付けてください。
せっかくこっちに来たんだから、本場のウィンナーも食べたいです。」
「まかせといて。ウィンナーくらい、いくらでもおごってあげるよ。」
「絶対ですからね!!
ホント、ウソついたら今度という今度は許しませんからね!!」
「お、おう・・・。」
私は柊さんにくいつく!!
もう!私の楽しみはこれしかない!!
「お二人さん、旅の楽しみを決めているところ悪いですけど、
もう着きますよエレクトロニクス社に。」
そういって、本社前に車をつけるのであった。
いよいよだ!!
柊さんと鈴木さんが受付嬢と英語で話している中、私は完全に茅の外である。
・・・英語はやっぱり話せないとダメなのかな・・・
しばらくして、
「中に入るよ。」
「あ、はい!」
柊さんに呼ばれて、ビルの中へと入って行く。
「うわぁ~すごいですね・・・。」
そこには家電が所狭しと展示されており、まさに電機メーカーというフロアであった。
「壊さないようにね。」
「な!子供じゃないんだから壊すわけないでしょう!!」
そう注意されて憤ってしまうのだが、やはり家電メーカーに入るくらいなので、
当然私は家電好きである。
日本でもエレクトロニクス社の家電を
よく家電量販店で操作しに休みに行くことがあるくらいだ。
「おおぉ!!掃除機がある!!柊さん!これテレビでよく見る掃除機ですよ!!」
そんな風に思わずはしゃいでる時に、キレイな女性が近づいてきて、
柊さん達と話をする。
どうやらお迎えがきたみたいだ・・・
私は後ろ髪を引かれる思いで、掃除機を離して、柊さんの傍へと戻ると、
「いよいよ、案内してくれるようだ。」
柊さんの言葉にグッと気が引き締まる。
柊さんも失敗して元々という割に、スイッチが入った顔付へと変わる。
私達が通されたのは、会議室ではなくて、明らかに部長室という部屋であり、
そこにはナイスミドルといった感じの白人男性が座っていたのである。
そして、その人の横にはエレクトロニクス社の日本支社の大塚さんがいたのであった。
次話は9月1日7時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




