江田さんの懺悔
「・・・初めての海外出張なんですけど・・・。」
長電話から戻ってきた柊さんに自分の不安を話す。
不安なことは話したりしたら楽になるらしい・・・
「大丈夫。俺も初めてのヨーロッパなんだから。」
「何が大丈夫なんですか!?
2人とも初めてって本当に大丈夫なんですか???」
「大丈夫だって!
だって、一応空港には現地法人の人が迎えに来てくれることになってるんだから、
何の心配もいらないだろうに。」
「そ、そうですけど・・・。もしいなくって連絡が取れなかったら・・・。」
「何とかなるって。アメリカいた時も何とかなったからな。」
「・・・絶対に離れませんからね!!」
「・・・井口さんがトイレに行きたくなったら?」
「頑張って耐えます!!」
「・・・逆に俺が行く時は?」
「男性からの視線をどれだけ受けても耐えてみせます!!」
「それ、犯罪で捕まるよ・・・。
1人になる方を耐えてみるって考えは?」
「無理です!!英語しゃべれないですもん!!」
「何とかなるって。片言でも通じるんだからさ。」
「それは出来る人だから言えるんですって!!
はぁ~、心配になってきた・・・。」
「俺はこれからフライトの12時間の方が心配だよ。
めっちゃしんどそうだな・・・。」
「12時間・・・高速バスを思い出しますよ!
意外と楽しんですよね~!」
「まあ、あれと一緒だな、エコノミーだし。
狭さも同じくらいかな・・・。」
「機内食とか楽しみで・・・。わくわくしてきます!」
「・・・そっか、ほどほどにしとくんだよ飲むのは。」
「はい!何か、飛行機の中だと酔いやすいらしいですからね!
しっかりと事前準備をしてきました!
・・・絶対に柊さんに騙されないように・・・。」
「・・・ホント、準備はいつも万端だね・・・。」
「昔からこういうのは得意なんです!」
「井口さんは学級委員だったりした?」
「え?よくわかりますね。いつも学級委員でしたよ。」
「だろうね・・・。そろそろ、搭乗時刻だよ。行こうか。」
「はい!」
私と柊さんは、今だにエレクトロニクス社との打ち合わせが
あるかどうかわからないにも関わらず日本を発つのであった。
「柊君、ごめんなさい。」
「え?どうしたんですかいきなり江田さん・・・。」
電話がつながるや否や私は開口一番に柊さんへと謝罪した。
「とりあえず落ち着いてください。
僕はこれからヨーロッパに行かないといけなくって、
今空港にいて搭乗待ちをしているところです。
なので、用件を話してください。」
「あのね・・・。
実は展示会の時に話しちゃったんだ。」
「何をですか?」
「エレクトロニクス社の人に有機ELの照明器具の値段を・・・。」
「・・・ご存知だったんですか?」
「うん・・・柊君がお客さんに説明している時に私も聞いていて・・・。
柊君が金額の話をしている、最後にお客さんに黙っていてくださいねって言ってから、
その情報はお客さんに流してはダメなんだろうと思っていたんだけど、
相手が高校時代の同級生で思わず話してしまっちゃって・・・。」
「・・・なるほど。それで値段っていくらって言ったんです?」
「私の同級生が、
『・・・ちなみにこれって5万くらいって聞いたんだけど、いくらか分かる?』
って聞かれたから、
『こっちの照明器具が4万円ぐらいだよ。』
そう教えたの。」
「・・・エレクトロニクス社は“5万”って言ったんですね?」
「え、あ、うん。」
「なるほどね・・・。」
「ごめんなさい・・・。喋ってしまって守秘義務違反になるよね?」
「そうですね。金額に関しては、選択的に教えていたし、
特に他社には流さないように気をつけていましたからね~。」
やっぱりか・・・
展示会が終わってずっと悶悶としていた。
自分がやったことは違反なのではと?
だけど、他のお客さんに値段は言っているしとも思っていた・・・
っというか、そう思いたかった。
ずっと二つの思いの間に揺れていて、ついに私は決心したのだ、
正直に答えようと・・・
これでもしかして南日本電機関係の仕事はなくなるかもしれない。
ひいては守秘義務違反をするコンパニオンには、
他の会社も雇ってくれないかもしれないと・・・
だけど、それでも違反をしたのだからとやっと決心して報告したのだ。
柊君からのこれから私はどうなるのかを告げられるのを待つ・・・
違約金とか発生するのかな・・・
捕まるのかな・・・
そんな不安が頭をよぎっていく・・・
「江田さん、江田さんのやったことは守秘義務違反にあたります。」
「・・・うん。」
「だから・・・
日本に帰ってきたら一杯奢ってくださいね。」
「え?だけど・・・。」
「大丈夫ですよ。
どうせ俺が聞かれても答えていましたね。
だから、まあ、一杯奢るのでその罪はすべて許されますよ。」
「・・・いいの?」
「何の問題もないですよ。」
「・・・ありがとう。」
「お礼はこっちがいうことですよ。」
「え?」
「ちなみにエレクトロニクス社に勤めるご友人の名前を教えて貰えますか?」
「大塚だけど。」
「ああ!あの人か!了解しました!ありがとうございます。」
「?何か役に立つの?」
「十分に!そろそろ搭乗始まるんで!」
「あ、うん。ヨーロッパだったよね?」
「ええ、お土産期待しといてください。」
「そんなのいいよ!」
「大丈夫!いっぱい奢ってもらうのに比べれば安いモノですから!」
「・・・今、“一杯”から“いっぱい”に微妙に変化した気がするんだけど?」
「・・・耳がいいですね。」
「やっぱり!?そんな貧乏モデルなんだからね!!」
「しっかり働いて稼いどいてくださいね!」
「・・・が、頑張ります。」
「それじゃあ!また後日!」
「うん!無事に日本に帰ってきてね!」
柊君に話したおかげで今までのモヤモヤして悩んでいたのが嘘のように晴れた。
最初から素直に話しておけばよかったよ・・・
自分自身に苦笑してしまう・・・
ありがとう、柊君・・・
「さてと・・・、ちょっと頑張って働かないと破産させられそうだな~。」
身を粉にして働かねば!!
苦笑しながら、前へと歩き出すのであった。
次話は本日19時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




