品質保証部のドン
俺は柊が品質保証部に初めて来た時を思い出す。
単独で来て、何をするのかと思いきやいきなり有機ELの説明をし始めるとはな・・・
「・・・俺はそもそも有機EL自体に反対なんだよ。
一番初めに言ったよな?うちで有機EL製品を立ち上げる必要はないって?」
「それは知ってます。」
「なら、これで話は終わりだ!とっとと資料を持って帰れよ!!」
俺は資料を俺の前に広げている柊に終わりを告げる。
だけど、柊は俺の前から消えるどころか、
「それでですね、この規格で評価を・・・。」
「お前!!俺の話を聞けよ!!」
資料の説明をしだしたのである!
それだけでなく、俺に質問をしてくる始末だった。
「俺に聞くな自分で調べてまず来い!!」
その返答がまずかったのか、
柊はにんまりとした顔を浮かべて、
「実は調べては来てるんですけど、この場合どちらの規格に当てはまるかがわからなくて・・・。」
何と柊はすでに俺が言うことを予想しているように
資料を用意していたのであった・・・
結局、それから30分間は柊との話し合いをするハメになり、
「ここまでだ!これ以上は俺も会議があるからダメだ!!」
「じゃあ、会議が終わってから・・・。」
「連続して会議だからな21時頃だぞ。」
「わかりました!」
これで何とか逃げれたと思ったのだが大間違いだった・・・
21時30分
会議が長引いてやっと終わって事務所に戻れたと思ったら・・・
「・・・何でお前がいるんだよ?」
「だって、21時には終わるって言ってたじゃないですか?」
「言ったけど・・・。」
結局この日は終電まで話し合いを続けるハメになった。
「駄目だ!この試験結果がない限り、許可しない!」
そう告げてその日は終わったはずなのに・・・
次の日の朝、出社すると、
「おはようございます!」
そう言って、試験結果を携えて柊は朝から俺の所へとやってきたのだ。
それから俺は明らかな嫌がらせをした。
資料の一部だけを見て、ダメ出しをして帰らせた。
そして、その一部を修正してくると次の一部を見て、またダメ出しをする。
当然こんな効率の悪いことをすれば、心が折れる!
だから、柊も最初は全体を見てもらって、全部を修正して来ようとしたのだが、
「俺は見ない!見る価値がないからな。」
そう言って、突っぱねたのである。
だいたいこれで2、3回で心が折れるはずなのに・・・
「・・・何で一週間ずっと来るんだよ?」
「いやだって、不備があるからじゃないですか。」
「大体、こんな非効率的なことをやらされてイラっとしないのかよ?何回来たと思ってんだ?」
「32回往復してます。」
「・・・数を数得てるのか・・・。」
「まあ、僕の不備が32か所あったということで、戒めとして・・・。」
「戒めって・・・。どんだけ真面目なんだ?普通はもういいって投げ出すだろうが!」
「半分戒めとしてで・・・。」
「ああん?半分?」
「半分はいつか絶対に伝えて、自分がしたことを覚えさせてやる!!と思って、回数を数えてました。」
「バリバリ恨んでんじゃねえかよ!!
しかも、俺が聞くって絶対にわかってたよな?」
「ええ、武田部長が嫌がらせをしているのは分かってましたから。
たぶん、根負けした時に聞いてくるだろうなと思ってました。」
「・・・。」
まさに柊の掌で踊っていたような気分にされたのだが、
思わず大声で笑ってしまうのであった。
「いっそ清々しいじゃねえか!分かったよ。俺の負けだ。
有機ELを承認してやるから、製品化しろ!」
「いいんですか!!」
「お前・・・こんだけやっといて、いいんですかもくそもねえだろうが!!」
「ですね。ありがとうございます。
ちなみにこちらの書類に不備は・・・ないですか?」
「もうない!ケチをつけるところ何ってない!だから、商品化会議を開け!参加してやるよ!!」
「ありがとうございます!!!」
深々と頭を下げて、満面の笑みを浮かべて帰っていく柊を見送りながら、
あいつを敵に回すとめんどくさいだろうな~っと苦笑したのであった。
そんな柊とのやり取りから現実に意識が戻って来る。
・・・何でこの男はイチイチギャーギャーと騒ぐのか・・・
「バカな!!だって、有機ELは世界初なんですよ?
そのリスクを丸々我が社で責任をとるんですか?」
澤藤君が驚きの声をあげて武田部長に尋ねる。
「くどい!承認するって言ってんだから、責任はとるっていってるんだよ!」
「で、ですが・・・。」
「不具合が出たらどうするつもりです?」
諏訪部長も武田部長に尋ねるのだが、
「責任を持って品質保証部が対応するに決まってるだろう。
俺達の仕事は品質を、守ることともに不具合が発生したら
すぐに対応するのが仕事何だからな。」
「それが会社の不利益になるんじゃないですかね?」
「そもそも、不具合が出るものを選んどいて、何をいまさら言ってんだ?
品質保証部としては柊が取った行動が正しいと思ってるだ。
不具合が発生しないものを選ぶ。
当然だよな?ただ、今回は世界初の商品でもある。
だから、何が起こるか分からない、
それで他社とリスク分割できるなら取りたいってのも分かるわ。
だから、俺は一般製品については他社製品の有機ELを
キッチリと選別するということで了承したんだ。
今回の件はクライアントからの要望ってのが前提の一点物の製品だ。
クライアントがどう思ってるのか何って知らねえけど、
うちとしては最も信頼できる有機ELなんだ。
それを搭載するっていうのなら、俺は全く反対する気にならないね。
知ってるか?
柊が連日有機ELの評価・判定をして、今俺達が思いつくすべての不具合を検証して、
問題ないという判定をだしていることを?
ハッキリ言って今想定できること、更には今後起こりえる可能性までもずっと潰していってんだよ。
ここまでやってる製品を認めないなんてことはない。
俺は柊を信じるぜ。こいつはそれに値する男だ。」
「・・・ですが、不具合が発生した場合には?」
「俺が責任を取ってやるよ。」
力強く断言する武田部長に澤藤君も諏訪部長も何も言えなくなるのであった。
「いいんですか?」
村中部長が再度確認する。
「くどい!!俺が自分の言葉を覆すことはない!!」
「じゃあ、日本建設とハンバーグチェーン店の件は
自社製の有機ELを使ってやる方向でお願いします。
柊ちゃん、別々の有機ELを使うことになって、負担が二倍になるけど大丈夫か?」
「大丈夫です!絶対にやってのけます!」
「じゃあ、そいう方向に修正して宜しく話を進めていこう。」
村中部長の終了の言葉と共に・・・
「よっしゃぁ!!!」
大声で両手を天に突き上げるような姿勢をする柊君。
そのままた立ち上がり、俺の所へとすぐに走ってきた。
「ありがとうございます!!」
「俺は何もしてないよ。
クライアントの要望だからね。
こうなったからにはしっかり頼むよ。」
「任せてくださいよ!!」
柊君が胸を張って宣言する。
これで俺も・・・少しは柊君の役に立てたかな・・・
次話は8月27日7時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




