逆転!!
いよいよ決戦の時が来た。
目の前にはいつもだったら、簡単に開く軽い扉のはずなのだが、
今日に限って言えば、見慣れているはずの扉が、
重くとても重厚な扉のように見えていた・・・
今日、俺は勝てるのだろうか・・・
一抹の不安が頭をよぎるのだが・・・
いいや違う!!
絶対に勝つんだ!!
勝って見せる!!
俺はその覚悟を決めて、目の前にある扉を開けて一歩中へと進んでいった。
「おお!大川ちゃん!何やら楽しい話が聞けるって本当?」
会議室に入るとすぐに笑顔で俺に話かけてくる村中部長。
「ええ、いい話になると思います。」
俺は村中部長にそんな返答を返しながら、
周りをみるのだが、笑みを浮かべて私に挨拶をしてくれる柊君と井口さん。
そして、私がいつも座る対面側には、なぜか柊君達と同じ技術部のはずなのに
こちら側に座っている澤藤君がいた。
「おはよう。」
「おはようございます。今日は何やら動きがありそうですね。」
「ああ、とんでもない荒波が来るよ。」
「本当ですか!?」
そう・・・澤藤君にとってはとんでもない荒波になるだろうね・・・。
時間になり会議が始まる。
まずは一発目は柊君による進捗情報である。
他社の評価とは言っているもののヨーロッパメーカー製の
有機ELを用いることが本決まりなのはここにいる誰もが知っているのだが、
それでも律義に他社のメーカーの有機ELの評価を行っているようで報告に上がっている。
更には企画部と一緒に議論していた照明器具の形について、
協力メーカーの製造キャパとヨーロッパメーカー製の有機ELの供給量を加味して
製品群が決まったことを伝えるのであった。
「もっと数は増やせないの?」
当然不満がある澤藤君は柊君に突っかかるのだが、
「何かあるかわかりません。
現在ヨーロッパメーカーから出されている最低限度の供給量で計算すると
ここが上限です。」
「それは俺が何とかするから大丈夫だよ!
だから、製造量を増やすようにして再計画を練ってよ。」
「供給量が確約された場合には再計画します。
一応協力メーカーには製造量の増減を確認して、キャパがまだあることは分かってます。
ただ、いつまでも確保できるわけではないので、早急に供給量の確定をお願いします。」
「大丈夫だって!
まだちょっと回答は貰ってないけど、諏訪部長からプッシュしてもらっているから
問題なく供給量は増えるからさ。」
「供給量が増えると言われますが、どのくらい増えるんですか?」
「それも交渉中、だから詳細はわからないけど、
現状の提示されている供給量よりは間違いなく増えるから安心して。」
人には厳しく数字や成果を求めるのに自分にはトコトン甘いんだな・・・
それに何気に自分ではなくて、諏訪部長がやっていることにして、
自分を責任から外しているしな・・・
俺は軽蔑の目で澤藤君を見てしまう・・・
それに俺には疑惑が湧いているしな・・・
ヨーロッパメーカーに俺達の計画を流しているという疑惑が!
たまたまでは片づけられない価格の問題・・・
安くなるというのは分かるけど、それがギリギリ自社で作った場合に
近似する何ってありえるのだろうか?
しかもこの会議が始まった直後で、
まだヨーロッパメーカーにはうちの計画を伝えていない段階でだ!
その後もしばらく柊君と澤藤君とのやり取りが続いたが、
しばらくするとおさまり、いよいよ俺の番へと変わるのであった・・・
「それでは企画部からですが・・・。」
俺は二枚の契約書を取り出して、みんなに見せる。
「こちらは日本建設とハンバーグチェーン店の本部と
仕様に関する契約書になっております。
この二件に関してですが・・・
南日本電機製の有機ELを使用してほしいとの仕様になっております!」
俺の声に会議室が一気に静まり返る。
さきほどまでの喧騒が嘘のようで、今はエアコンの風の音のみが聞こえているだけである。
「・・・マジで?」
村中部長の恐る恐る尋ねてくるのだが、
「本当です!」
俺は用意していた契約書の一部だけを拡大して貼っただけの資料を
プロジェクターで写し出す!
「・・・本当だ・・・。」
誰がいったのかは分からないが、消え入りそうな声が聞こえてきた。
ふと見ると、柊君や井口さんは呆然と写し出された資料を見ているだけである。
「・・・ど、どういうことですか?」
澤藤君の質問に私は、
「クライアントからの要望です。
更には単色の有機ELの要望もありまして、これは他社では販売していないものとなります。
そうなると・・・
我が社で自社製造するしかありません。
この案件をとるために・・・
自社製造をしなければならないのです!!」
私の声に会議室にあった静けさが何とか戻ろうとしていた時に、
さらにまた沈黙へと誘うのであった。
「バカな・・・そんなバカなことがあるか!!
ヨーロッパメーカー製の有機ELを採用することは決まったことだろう!
それをなぜここでひっくり返す必要があるんだ!!」
怒声を発する諏訪部長。
「そうおっしゃいますが、クライアントからの要望です。」
「そんなバカな話があるか!?
どうしてクライアントがうちが製造した有機ELを指定してくるんだよ!!
うちが作っているかどうかもわからないだろうに!!」
「そこまでは私には分かりません・・・・。
ですが、この仕様には自社製の有機ELを用いた仕様をが要望です。
ちなみにですが・・・
自社以外の場合には契約は無効にすると言ってきております。」
そう言って、俺は二枚の契約破棄条項が記載された紙をとりだす。
一枚は日本建設のもの、もう一枚はハンバーグチェーン店の本部のものだ。
「何の冗談ですか?」
「冗談でも何でもありませんよ。クライアントからの要望なだけですよ。
私も確認はしましたけど、日本建設の会長は柊君の被災地訪問での恩を返すために
今回の案件を提案してくれたんです。
その柊君が作った物を要望するのは当然だと思いますが?」
「だが!だけどな!!うちでは自社製の有機ELは出来ないんだぞ!!
俺が絶対に承認しないんだからな!!」
・・・一番の問題はここである・・・
彼が・・・
諏訪部長が許可をしないとこれはどうもできないのだ・・・
「そうですよ!社内承認が下りないので、自社製の有機ELは使えないと伝えて、
契約内容を変えてもらうべきですよ!」
「単色の有機ELも希望しているんですよ?」
「単色なんてうちもできないでしょう!!」
「いいえ、できますよ。
すでに九州事業所の有機ELチームには開発、更には評価を進めてもらっておりまして、
現状では照明用の有機ELと何ら変わりの性能を示しています。」
そう言いながら九州事業所の有機ELチームから送られてきたデータを
自分なりにまとめた資料を画面に表示する。
「・・・何でこんなデータがあるんだ・・・。」
澤藤君が驚きの表情を浮かべているが、
「どうやら以前から蓄積はしていたようですよ。
優秀ですね九州事業所の有機ELチームは。」
「だけど・・・だけど!!社内承認が下りないのにどうするつもりですか!!」
その時だった、今までジッと眺めていた・・・
「特別採用を申請すれば問題ないだろう。」
みんなの視線が1人に注がれる。
その言葉を発した品質保証部の武田部長へ。
「九州事業所の技術部長が承認しないのなら仕方がないだろう。
日本建設とハンバーグチェーン店の件は一点ものなんだから、
特別採用の特採申請が可能だろう?
なら、柊、お前が特採申請しろ!
そうすればお前んとこの部長と品質保証部の俺のところ、
それに関東事業所の工場長の所にいくだけで商品化できるからな。
工場長へは俺が連絡しとくから、とっとと進めろよ。」
「・・・いいんですか?」
柊君が尋ねると、
「お前・・・あれだけしつこく来ておいて何言ってんだよ?」
そう言いながら大声で笑うのであった・・・
次話は20時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




