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好転

「で、何にきづいたんですか?」


私は食堂でご飯を食べずに近くにあるコンビニに寄って、

夕飯を買ってから事務所へと戻った。



「あ?俺の分も?」


「ええ、っていうか、柊さんのお金ですから。ゴチになりまーす!」


そう言いながら、レシートとおつりを渡す。

柊さんは袋の中にあった、おにぎりを取りだして、



「二重にするって事だよ。」


「え?だけど、二重も散々検討しましたよね?

 同じ材質のモノ、異なる材質のモノ、だけどどれもうまく行かなかったじゃないですか?」


「そうだけど・・・こうするとうまく行くんじゃないか?」


「え?」


私の目の前のパソコンの中には二重のシール材の模型が書かれていたのだが・・・


え?これって二重じゃなくて三重になってる!?


そして、この意味を私は理解した。



「シール材が別々なものにするの方が良かった。

 だけど、材質が違うことで硬化スピードや伸縮性が違うからダメだった。

 だったら、この中間のモノを入れたり、合わせたモノをわざと成形したらいいんじゃない?」


そう言って、柊さんは計算を走らせると・・・



「たぶん・・・やれるよ。」


その言葉と同時に私達は実験室へと走ったのであった。




「ふ・・・あははははは!!!」


思わず腹を抱えて笑ってしまう。

今まで私達が必死に頭を抱えて悩んでいたことが、

こんなことで簡単に解決したのである!!



「そんなに笑うなよ。せっかくの女の子が台無しだぞ。」


「だって、こんな単純なこと何って私は全く思っていなかったですもん!」


「俺だって思ってなかったよ。」


現在、実験室で評価を行っているのだが、

今のところ数十個作って、すべてでクリアしていた。



「後は数を作って、検討と、再度工程の見直し、材料の見直しをして

 どのくらいの影響があるかを再検討だな。」


「そうですね。ただ、これって相当安価な材料だから価格への影響って、

 本当に微々たるものでしょうね。」


「ああ、それにこのシール材を使う工程って全体の作製工程の中で極めて軽微な作業時間だから、

 有機ELを一つ作るだけの時間であるタクトタイムにはほとんど影響がでないだろうな。」


「ええ!これ!いけますよ!絶対に!!」


「いやぁ~、井口さんのおかげだよ。気づかせてくれてありがとう。」


「私は何にもしてませんって!」


柊さんの“ありがとう”って言葉に思わず涙が出そうになった。

今までずっと足を引っ張っていたと思っている。

分からないことだらけで、至らないところだらけだったのだ。

それでも根気よく、優しく教えてくれた柊さん。


その柊さんから感謝されるなんて・・・・


そっぽを向いて、必死に柊さんに顔をみられないように隠しながら、



「私、一旦家に帰って、お風呂に入ってきます。」


「今日はそのまま休んでもいいよ。」


「いえ!これから作り込みをしないと、約束の一カ月という期間に間に合わないですから。

 それでなくてもギリギリなんです。」


「ありがたいけど、ムリはしないようにね。」


「だけど、柊さんはやるんでしょう?今から試験を?」


「ああ・・・・。」


「じゃあ、一緒にやりますよ!!柊さんは私の指導係なんですよ!

 その指導係がやるのなら、私だって・・・


 しゃあなしでやってあげますよ!!」


「・・・しゃあなしでね。」


柊さんは苦笑しながら、“頼む”と言ってくれたので私はすぐに家に帰り、

再度会社に行く準備を整えたのであった。




私が会社に戻った時、柊さんの傍には野原さんと高橋さんにいた。

その二人は今にも喧騒な雰囲気を醸し出していたので、

慌てて私は柊さんと二人の間に入って、



「何をしてるんですか!?」


その私の剣幕に押される2人。

言い難そうにしながらも、



「・・・このデータは本物か?」


そういって、プリントアウトされたデータを私達へと突き出してきた。

それは先ほどまで実験していた結果がまとめられた資料である。



「・・・何で野原さん達がもってるんですか?」


柊さんの言葉に、野原さんが、



「・・・さっき評価装置が稼働していたから、気になって見に行ったんだ。

 そしたら、測定装置のパソコンにまとめられたデータがあった。」


「・・・それは犯罪になりますよ。」


苦笑している柊さん。

そして思い出す・・・



「あ!?私だ!!」


そう、測定器のパソコンを切り損ねていたのだ私だ!!

柊さんに、



「パソコン切っておいて。俺はこっちを片付けておくから。」


「はーい!」


って返事をしたのはいいけど、泣いていたせいでそれどころじゃなかったんだ・・・



「・・・すいません・・・」


私が柊さんに平謝りをすると、笑いながら、



「次、気をつけて。」


そういって、許してくれる柊さん。

そして、野原さんと高橋さんへと視線を戻して、



「そこに書かれている通り、実験は成功してます。

 後は数を増やして検証を重ねていくだけです。」


「・・・単価への跳ね返りは?」


「ほとんどないです。使用量がほとんどないですから。」


そういって、パソコンを見せる。

っていうか!!何ですでに再計算がすんでるんですか!?

絶対に柊さん休んでないし!!



「それとタクトタイムへの影響もほとんどないですよ。」


その結果に野原さんと高橋さんは黙ってしまった。



「これで検証していけるのなら、こちらを今度の報告会では出します。

 これで・・・きっと大丈夫なはずですから。」


「・・・お前、本当に自社で作ろうとしてたんだな・・。」


「え?」


柊さんが聞こえなかったのだろう聞き直す。

私の位置からは何とか聞こえるようなか細いほどの声だった。



「分かった!俺達がこの検証サンプルを作る。」


そう言って、野原さんがみんなを集めて、指示を出し始めたのだ。

その光景を呆気にとられるように見ている私と柊さん。

2人で思わず笑いだすのであった。



「どうしますか?私達、どうやらのけ者みたいですよ?」


「だな。どっちになったとしてものけ者にされるとは思ってもみなかったよ。」


2人ともに笑顔が戻っていた。


昨日までの辛い思いからは解放されて、

のけ者だとしても心軽いのけ者であるのだから。



「とりあえず・・・のんびり行きそびれた食堂でご飯をおごってもらいましょうかね。」


「あ、そこはおごるのは決定なの?」


「ええ!だって、私の貴重な夕飯が昨日はコンビニになったんですよ!!」


「コンビニだって美味しいだろう?」


「美味しいですけど、もっと出来立てのおいしさを味わいたいんです!!」


「分かったよ。じゃあ、お昼はあそこにしよう。」


「いやですよ~!夕飯です!ガッツリ食べて、飲んでを所望します!」


「はいはい、じゃあ、今日の夕飯はあそこでガッツリと飲むか。

 そうと決まれば、もう一度工程の見直しからの単価計算を再計算しよう。

 まだ完璧じゃないけど、材料メーカーからの再度量産価格の提示があったから、

 その価格を反映させて単価算出だ。」


「はーい!任せてください!」


私と柊さんは明るく、仕事をするのであった。


次話は8月25日に更新予定です。


気づいた点は追加・修正していきます。

拙い文章で申し訳ないです。

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