日本建設
「柊さん、お電話がかかっております。」
「誰?」
「日本建設っていう会社からなんですが・・。」
「日本建設?・・・知らないけど・・・。まあ、電話回してよ。」
そう言われて私は柊さんに電話を回す。
最初は、柊さんも疑心暗鬼で電話の受け答えをしていたのだが・・・
「ああ!!ご無沙汰しております。
その後は・・・、ああ!そうですか!良かったです。」
どうやら柊さんの知り合いのようで、笑いながら会話をしているのであった。
しばらく会話をして、電話を切ったと思ったら、
「急だけど、明日、日本建設の会長さんが来るから、打ち合わせ出てね。」
「え?」
「俺が以前に震災復興プロジェクトの一環で、ライトを配った時の相手なんだよ。
そのつながりがあって、うちに今度立てる社員寮の照明器具をお願いしたいんだって。」
「え?それだと私達じゃなくて、照明事業部の営業の方がいいのでは?」
「入れたい照明器具は・・・
有機ELだってさ。」
「ええ!?」
私は思わず大声で叫んでしまい、フロア中から視線を集めることなったのであった。
慌てて、縮こまるのだが、けど興奮を抑えることはできずない!
「え?じゃあ、その寮の照明器具に使うって事ですか?有機ELを?」
「そうみたい。ただ一部だけどね。
だから、俺達が対応しなくちゃいけないんだんよ。
とりあえず村中部長と大川さんに一報を入れておくよ。」
そういって、柊さんは急いで村中部長に連絡を入れるのであった。
「お久しぶりです!五稜さん!」
柊さんが笑顔で出迎える。
「こちらこそ。以前は大変お世話になって。」
深々とお辞儀をする日本建設の会長の五稜さん。
挨拶もそこそこに特別会議室へと案内する面々。
日本建設は日本でも屈指の建設会社であり、
一応、上司たちから粗相のないようにと特別会議室の使用を命じられていたのであった。
最初の世間話も済んだところで、本題へと会話が移る。
「それで先日の災害で社員寮が駄目になったんですか?」
「ええ、そうなんですよ。それで社員寮を立て直すことになりまして。
一からの建設ですし、先般の恩を返すチャンスだと思って声をかけさせていただきました。」
「ありがとうございます。」
柊さんがお礼をいうと、いえいえと返しながら、
「まだ有機ELは研究段階と聞いております。
それをいち早く取り込んだとなれば、こちらとしてもメリットがありますからね。」
苦笑いをしながら本心を包み隠さず話してくれる五稜さん。
「そうはいっても我々としてはチャンスですからね。」
ここで、今日この会議のために朝一便で飛んできた大川さんが力づよく発言して、
「それに・・・よろしいんですか?
弊社は、御社と今までほとんど取引はありませんでした。
なのに、他の部分の照明器具も弊社の照明器具を採用してくれるとのことですけど・・・。」
当然、企画部としては有機EL以外の商材もあり、
今回エントランス部分に有機ELを、他の部分には弊社の照明器具を採用するとの話なのだ。
一棟丸ごと弊社で!となると相当いい商売になる。
大川さんはいつものだらしのない目ではなく、
しっかりとした営業マンの目をして話をしているのが、
それがいかに大きいのかを物語っているようだ。
・・・そんな真剣な顔もできるんだって印象です・・・
その後も話は進んでいき、後日改めて正式な書類を交わして契約することになった。
大川さん曰く、ここまでくれば九分九厘製品化が可能だだと言われて、
私は興奮を覚えてしまう!!
これで・・・ついに有機ELが製品化されるんだ・・・
そう思うと身が震えてしまう。
期待と喜び、そして製品化出来るのか?という不安からの震えだった。
「いや~、大口物件が取れて、第三企画部としては万々歳だよ!!」
嬉しそうに話す大川さん。
「じゃあ、これのお礼に僕たちにおごってくださいね。」
「おごるおごる!喜んでおごる!!また、今度おいしい話があったら、
どこにも話さずに、まずは第三企画部に持ってきてよ!!」
「第三企画部って、こんな案件も扱えるんですね。
マンション用の照明だと第一企画部に行きそうだと思ったんですけど。」
「そこは基本は新しい商品を開拓するのが主命題だけど、
今回のは有機ELが絡んでるから、うちらが対応してもいいんだよ!
おかげで、1人当たりの売上高がウッハウハになりそうだ~。
俺、この一年はゼロだと覚悟して、ボーナスも最悪だと思っていたから、
こんに嬉しいことはないよ!」
浮かれる大川さん、更に村中部長もご満悦であった。
「俺もさぁ~、有機ELの売り上げ報告があってさ、そこに記載できてよかったよ~。
柊ちゃん様様だよ~。とりあえず拝んどくか~。」
そういって、村中部長が拝みだすと、
それに合わせ大川さんまで拝みだすのであった。
「それで、そっちは目途がついた?」
「いえ、今はのところは改善は進んでおりますが、
それでもまだ安定性にはかけてしまっています。」
そう言いながら、今までの実験結果をまとめたモノを報告する柊さん。
説明を聞き終えた村中部長は、
「それでも改善の兆しは見れてきてるね。」
「はい、他社と比べても遜色ないところまで持っていけます。」
そんな中、大川さんが、
「自社製造だと・・・
これだと正直、僕は賛同しきれないよ。」
そう言いだすのであった。
「将来的なキャパの弱さは致命傷になるね。
それにメリットと考えていた価格帯も他社が思った以上に下げてきたせいで、
若干自社で作った方が安いっていう価格帯だよね。
キャパを上げるために設備の追加は必須なのはわかるけど
追加設備が数億円単位の価格になると経営陣だってOKだとは言えないよ。」
その言葉に柊さんも顔をしかめてしまう。
事前に聞いていた量産価格から、再度量産価格を提出してきた企業がいて、
その価格がなぜか大幅に下がってきていたのであった。
・・・どうしてこのタイミングで・・・
私達が調査をしているとは講談商事によって、外部漏れを防いでいるにも関わらず、
まるで外部に漏れているかのようなタイミング出てきたのだ。
・・・っていうか、価格もうちと同程度って・・・・
元々価格で大幅にメリットが出せていたにも関わらず、
そのメリットが失われたのである。
柊さんも提出された資料をみながら、絶句していたのであった。
「何かメリットが出せないと、今のところで言えば、他社からの購入という形になるね・・・。」
「・・・ふー・・・そうなりますね・・・。」
「自社でのメリットか・・・。何かある?」
「他社とは違うことできるのは色の調整はできますね。」
「色の調整?」
「他社はだいたい、白色だけでの販売となってますけど、
自社生産だと必要とする色での調整ができますし、単色での製造もできますね。」
「うぅ~ん・・・弱いけど、確かにカスタマイズの要求はないわけではないからね・・・。」
「これはちょっと俺達も真剣に考えないといけないね。
自社生産でのメリットか・・・。
さっきの柊ちゃんのように自社だと確かに色の調整は出来るよね。
他社だったら、そんなカスタマイズには答えないからね。
その他にも自社ならでは製造があれば強みになるね。」
「最大サイズとかは?」
「それは発光にムラが出てしまいますね。
もしトライするなら、一応はやってますけどムラをなくす技術も本格的にやらないとダメですね。
とりあえず、検討は進めますね。」
「うぅ~ん・・・ほかにないかな・・・。」
私を含めた4人で検討をするのだが、結局この時は結論はでずに持ち越すことになった。
「じゃあ、有機ELの安定化期待して待ってるからね~。」
その言葉を残して、村中部長と大川さんは関東事業所へと戻っていくのであった。
次話は本日19時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




