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南日本電機の課題

「ひ、柊さん・・・。」


「うん?」


会議が終わって思わず柊さんに話かける。

ただ、柊さんは思った以上に冷静であり、いつもの柊さんであった。



「だ、大丈夫ですか?」


「うぅ~ん、大丈夫かと言われれば大丈夫じゃないってことになるけど・・・。」


そこまで言いかけたところで、村中部長が、



「何とかするんだろう?じゃないと澤藤に潰されるぞ。自社での作製は。」


「ですね・・・。ちょっと九州事業所のメンバーと話をしてきます。」


「っていうか、九州事業所とこっちを掛け持ちしろよ。」


「・・・え?」


「柊ちゃん以外に、九州事業所のメンバーのかじ取り出来る奴はいないだろう?

 週の半分を向こうで、半分をこっちですごすのはどう?

 どうせ、向こうにも住むところはあるんだからさ。」


「・・・いいなら。」


「ああ、大丈夫だ。こっちでやることなんって、お偉いさんとの接待くらいなもんだろう?

 一カ月間何ってあっという間だよ~。」


「わかりました!」


「おおっと!井口ちゃんも連れて行ってあげてよ。

 こっちには田口ちゃんがいれば何とか仕事はこなせるからさ~。」


「え!?私もですか!?」


「だって、俺のところにいても新人の指導なんてできないよ~。

 俺のところで勉強になるのは、それこそ柊ちゃんや澤藤みたいな連中だけだしね。

 ここで一度地獄の日々を味わっておいでよ。」


「・・・地獄ですか・・・。」


「ああ、地獄だろうね~。だって、報われないよ、研究なんてね。」


ニヤリと笑う村中部長に私は何も言い返せなかった・・・

確かに研究は・・・


こうして私と柊さんは一緒にその日の夜の便で

九州事業所へと行くことになったのであった・・・。



「さてと・・・。

 事前に話ていた通り、現状で言えば自社での製造の可能性はないです。」


柊さんの言葉に九州事業所の有機EL開発メンバーが無言になる。


それもそのはずである。

だって、自社での製造が無くなれば、ここにいるメンバー全員が

仕事が無くなると言っているようなモノだ。

そんな中で、九州事業所の有機EL開発メンバーのリーダーを務める野原さんが、



「どうすればいいんだ?」


「製品化できることを示せばいいんですよ。」


「そう簡単に言ってくれるけどな!

 それが出来たらこんなことにはなってないんだよ!!」


野原さんはリーダーという立場、更には柊さんよりも年上という立ち場からか、

柊さんに怒声を込めて意見を発していた、



「まずは、現状の確認です。

 課題になっているのは空気中の水分が入らないようにする封止技術だという認識で?」


「・・・ああ・・・。」


「他の問題はないんですか?」


「現状では性能面では柊参事が評価している他社の製品と比べて、遜色ない、というか、

 効率面では優れた結果を出している。

 だけど、その製品が安定して作れていないため10個作れば、

 1個の割合で、空気中の水分でダメになる。」


「報告では聞いていますが・・・その安定しない原因は?」


「どうしても装置に搭載する水分が入ってこないようにするシール材が安定しないんだ。」


「以前に高橋さんがシール材について調べられてましたよね?

 その中で、採用しているシール材が一番優れていたんだですよね?」


「うん、その通り。だけど、安定性が悪いことが分かっていて、

 4時間ほどしか装置の中に入れて使用が出来ないことが最近の検討で分かったんだ。」


「朗報じゃないですか。じゃあ、4時間ごとに交換で量産工程を考えていきましょう。

 4時間での交換を含めて、試算を再度検討を僕と野原さんで。

 高橋さん達は現状の作り込みをお願いします。それと条件も再度見直しをしましょう。」


「条件の見直しをするのはいいけど・・・作った後の評価まで人手が・・・。」


「そのために俺と井口さんが来てるんですよ。

 試験をしていく条件はこちらに用意してあります。」


そういって、条件を記した表を見せるのだが・・・



「こ、こんなに・・・。」


「これでも足りないかもしれません。」


柊さんの言葉にみんなが沈黙してしまうのだが、



「もしくは、この序盤でOKかもしれませんけど。

 けど、やらなきゃ次は僕たちにはないんです。」


“次はない”


その言葉にみんなが息を呑む・・・


その通りだ・・・


これが出来れなければ、私達は製造しないという結論になってしまい、

解散してしまう可能性があるのだから・・・



「・・・わかった。」


野原さんがそう答えると、みんなも真剣な面持ちで立ち上がり、

自分達がすべきことをしに進む。



「本社の馬鹿どもに俺達の実力をみせつけてやりましょう。」


急にみんなにそんなことを言い出す柊さん。

そして・・・



「俺達が世界一なんだ。その技術力を見せるべき時ですよ。」


その言葉にみんなが無言でうなづき、力強い足取りで会議室から出ていった。


この日から、今まで経験したことがないほどの処理に追われるのであった。

ただ、私はまだいいのだが・・・・



「・・・何でもういるんですか?」


「ああ?早起きは三文の得って言うだろう?」


柊さんはすでに私が来る前にいたのである。


私は家から九州事業所までが関東事業所の時よりも短い距離となり、

いつもの時間で出勤すると7時頃に到着するのである。


そんな私よりも早く来てるんですけど・・・


しかも私が帰ったのだが、22時くらいで、その時も、



「お疲れさま。気をつけて帰りなよ。」


そう言って笑顔で見送ってくれた柊さん・・・



「・・・こんな朝から何をやってるんですか?」


「実験計画法っていうやつを使って、昨日の試験データから、

 今日計画していた試作を一部変更してるんだ。」


「いつ昨日のデータがあがったんですか!?」


「さっき。」


「いやいや、夜中でしょう!!上がったの!!

 ホント、何時に来てるんですか!?」


「そんな朝から驚かなくても・・・。

 まあ、実験計画法って言うのは知ってる?」


「知らないです。」


「実験データから、効果がありそうな因子を見つけ出す手法なんだよ。

 これを使うと無駄な実験をしなくて済むんだ。」


「そんなのがあるんですね・・・。」


「そう。やり方は・・・。」


そういって、本棚のところから一冊の本を取り出してきて、



「ここに書いてあるから、暇があればチャレンジするといいよ。

 井口さんが研究を進めていくなら、この技術は持っていたほうがいいからね。」


「・・・ありがとうございます。」


その後、出社してきた野原さん達に今日の試作の修正を説明して、

更には・・・



「これが量産ラインの見直した場合の製造コストです。」


「「「え?」」」


柊さんの言葉に一同が目を点にするのであった。

当然それは私もであり・・・



「いやいや、なんですでにできてるんですか!?」


思わず大声で叫んでしまうのであった。

だって、昨日の時点ではまだ口頭で今後の方針を決めていただけで・・・


すでにやってしまっているとは・・・



「これを皆さんに確認してもらって、生産管理部に投げて、労務費を算出してもらいます。

 それで製品単価が出せるようになりますからね。」


「・・・。」


言葉を失ってしまうみんな。



「何でこんなことができるんですか?」


「何でって?」


「だって、柊さんって、私と同じ研究畑出身者じゃないですか?

 それだと金額計算何って出来ないというか、わからないんじゃないんですか?」


「あははは、まあ今までは分からなかったよ。

 だから、一から勉強しているところ。」


何でもないように言う柊さんに、



「いつですか!?だって、そんな勉強をしている暇何ってないですよね?」


「いつって、そんな忙しいわけじゃないよ。

 時間はあるんだから、そのスキマスキまで1つずつ勉強しているだけだよ。」


・・・ああ、こういう人だから役職者になったんだなっていうのを痛感する。


だって、たぶんほとんど寝ずに仕事してるのに、

それでも時間を作って勉強する何って!!!


ありえない!!


私からみると絶対にありえない!!


だけど、こんな人だから最年少での役職者入りを果たして、

世界一の技術者へと上り詰めたんだろうな・・・



「何でそんなに惚けてるの?」


その声にハッと意識を戻して、



「大丈夫です。」


「・・・まあ、大丈夫ならいいけど。

 これから、再度各材料メーカーに量産価格の算出をしてもらって

 もう一度価格の見直しをしよう。」


「わかりました。」


そういって、私は仕事を始めるのであった。


いつか私も柊さんのようになりたい・・・

だから、今は柊さんの手法を学ぼう!!


次話は8月24日7時に更新予定です。


気づいた点は追加・修正していきます。

拙い文章で申し訳ないです。

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