横槍
「それじゃあ、今後の方針について話し合いを始めようか。」
村中部長の話で会議が始まる。
この会議への参加者はプロジェクトメンバーはもちろんのこと、
デザイン部、企画部、本社の役職者達、更には照明事業部の品質保証、
技術部の役職者達が参加していた。
前回の内覧会で協力メーカーに好評であったことは全社を通じて報告されており、
その影響で照明事業部からも役職者達が参加したのだ。
報告は当社製有機ELと他社の有機EL単体の試験結果の報告、更には価格面での報告をする。
技術面では興味を示してくれる方はいたのだけど、
やはり価格面が大きなネックとなっており、将来の価格推移を説明したのだが、
それでも難色を示したのはいうまでもない・・・。
数年後には現行の照明器具と同じになると言っても、
現状で数倍では売るに売れないって言うのは当然だけど・・・
それでも将来的に安くなるなら売りに出しても・・・
続いて、澤藤さんが報告をする。
基本的には今までの澤藤さんの筋書き通りに進む話のプレゼンをする。
有機ELを光源とした、今まで販売している製品の置き換えを狙っていく案だ。
確かに置き換えの方が、製品化するには手間も暇もかからず、
時間も短縮して、製品化できるだろう・・・。
だけど、将来的には・・・
ここまではいつも通りのプレゼンであったのだが、
今日はここからが違った!
それは・・・
「自社製品の有機ELを使う必要はないです。」
その発言に会議室内がざわつきだす。
「うちで作れるのに作らないってことか?」
「ええ、そんなリスクを負う必要はないです。」
「・・・他社でも一緒ではないのかね?」
「もちろん、ですが、何かあった場合には“他社”の有機EL側に問題があるだけで
当社に問題は発生しないでしょう。」
「・・・当社の製品側に問題があった場合には?」
「現在、LEDを搭載した照明器具で問題がないのに、
有機ELに置き換えただけで問題が発生するのであれば、
隠れた因子が有機ELには存在するとすればいいと思いますが?」
「他社にするにしても・・・どこにするつもりだ?
先ほどの柊の話ではどこもうちの性能に及ぶものはないはずだが?」
「ええ、ですので、そこは柊さん達の専門家に任せてればいいのです。
我々が横やりを入れてしまえば、判断が遅くなってしまう可能性があります。
そうなれば、まずは世界に先駆けての製品化という点に
ケチがついてしまうかもしれませんからね。」
「・・・それで考えた場合、どのくらいで選定が出来る?」
「一カ月もあればいいのでは?」
ここで柊さんが手を挙げて、澤藤さんや役職者達の話に加わる。
「さすがに一カ月では判断はつきません。」
「じゃあ、二か月では?」
「待ってください!販売するとすればいつ販売しますか?」
ここで柊さんは企画部の大川さんに確認をすると、
「4月にカタログの更新があるので
3月までに製品化できていればOKです。」
「田口、照明器具化はだいたい3カ月ほどで可能?」
「ええ、現行製品の置き換えと考えた場合には、前にも話した通り、
3カ月あればOKだよ。」
「余裕を見て11月までに有機ELの選定が出来ていれば、
OKということですね。」
柊さんがその旨を澤藤さんに伝えると、
「・・・どうしてそんなに時間をかける必要があるんですか?」
「まずは法律の問題があります。評価時間でどうして長いものがあります。
それを満たすのに3カ月連続で検討しなくちゃいけないんですよ。」
「・・・それをクリアすればいいんですか?」
「そうですね。それまでには他の試験は完了しますから。
その試験がなければ1カ月ほどで試験は完了しますよ。」
「ふぅ~ん・・・どうして、その試験を今まででしてないんですか?」
「してる物もあります。
ただ、海外メーカーはレスポンスの遅さがネックで、
入手が出来ていないところもあるんです。」
「それは柊君の失態だね。」
「そうですね。ただ、この取引の件で対応が悪いって判定がつくので、
それも判断材料だと思ってます。」
「・・・まあ、向こうも量産化ということを知らないので、
対応が遅れているのかもしれないし、
フェアじゃないと思うから、減点対象にはしなくていいと思いますが。」
「他社のレスポンスとの比較項目がありますから、
そういうわけにはいかないですよ。」
「・・・まあ、判定は後ほどで、とりあえず評価を進めてください。」
「はい、海外メーカーには再度催促をして検討させてもらいます。」
途中までは柊さんが攻められていたはずなのに、
途中からは立場が逆転していた・・・
特に海外メーカーとのレスポンスの件で・・・
何かがあるのかな?
そんなことを考えていると、今度は村中部長から、
「だけど、柊ちゃん、自社製の有機ELを並べるにしても
目途はついているの?そもそも製品化できるの?」
「正直のところで言えば、評価はしてますけど、
ただ、水分に弱いという点については課題を残してます。」
するとしばらく動かなくなった村中部長が、
「一カ月だ!一カ月あげるから、課題をクリアして。」
その言葉に柊さんではなくて、周りのみんなが驚きの表情を浮かべる。
特に技術部関係の人間の表情が曇る。
技術をやっている人間にとって、一カ月というのは短い期間だ・・・
私の研究だって一年かけてもできていない・・・
そして、この村中部長の言葉に喜んでいるのは澤藤さんであった。
その笑みは絶対に無理だということを含んでいるようだった。
一気に重くなった空気の中で、柊さんは・・・
「分かりました。」
そう答えるのであった・・・。
っていうか、そう答えるしかないだろう!!!
「あははは!俺は無理だと言ってくるかと思ったよ!
てっきり時間を延ばしてってね。
ホントに・・・やれるの?」
そういって、村中部長が視線を柊さんに注ぐ中、
柊さんはその視線に、
「やります。やれます。やってみせます。」
「いいね~、期待してるよ柊ちゃん。
さてと、会議は途中なんだよ。企画部からも報告をお願い。」
その言葉に大川さんが、ハッとした顔をして、
自分の報告の準備を慌ててする。
「あ、はい!それでは・・・。」
企画部からの報告を始め、その後デザイン部からも報告があった。。
「この会議を一カ月ごとに定期的に報告してもらおうか。」
村中部長の言葉にみんなが賛同して、
毎月関係部署が集まっての打ち合わせが行われることになったのであった。
次話は本日19時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




