ブレーンストーミングの使い方
「今日は集まっていただきありがとうございます。
みんなで有機ELの可能性を考えていけたらいいと思っています。」
澤藤さんの招集の元、若手の研究者達15名とデザイン部から人が集まって
30名ほどが会議室に集まっていた。
「今日の議題は、ここに並べている有機ELの新しい可能性を模索をするにあたって、
みなさんの意見を聞かせてもらえたらと思ってます。
それとここの会議では否定する発言はなしで、
どんなアイディアでも言ってもらって結構です。
さあ、皆さんどんな意見でも!っと言っても、すぐに出てくるとは思えないので、
まずは僕から一つの意見としては、建物中って、スペースが限られているので、
現状の製品で分厚いなって思っている製品を置き換える!ってのを考えるのはどうかな?」
そういって、周りを見つつも柊さんの方へと視線を向ける澤藤さん。
その視線に応えるように、
「家のリビングや自分の部屋にあるシーリングライト何か分厚いですね。」
「そうだね!アレを薄くすると、照明器具からの圧迫感が無くなって、
部屋が広く感じるようになるよね!!」
笑顔で柊さんの意見を肯定しする澤藤さん。
そして、同じように他の人に視線を合わせていき、
意見をドンドン引き出していくのであった。
徐々に意見がどんどん出されていき、気がつけば黒板いっぱいにまで意見が出てきていた。
さらに意見を引き出し続けている澤藤さん。
「結構意見って出てきますね。みんな色んなことを考えてくれて、いいですね!」
「そうだね。」
そういう柊さんの顔はちょっと曇っている。
「・・・どうしたんですか?」
「うん?」
「何か、顔が曇ってますけど・・・。」
「ああ・・。」
「歯切れが悪いですよ!」
「・・・こういう会議の手法はブレーンストーミングって言う手法なんだけど・・。」
「ブレーンストーミング?」
「ああ、基本的には肯定する、自由に意見をする、質よりも量をだす、
連想させるってのが決まりなんだよ。」
「ああぁ~なるほど!それでみんなが自由に意見を言って、
そこからさらに波及させていってるんですね。」
「その通り。だけど・・・まあ、たぶん、これ善意でやってるわけじゃないなって思ってね。」
「?どういうことですか?」
「最初に、限定してきただろう?屋内の中の照明器具ってね?」
「はい。それが?」
「まあ、そこが澤藤さんの狙いなんだろうね・・・。」
その後も澤藤さんに促されたり、みんなが自発的に発言を繰り返していたのだが、
「うぅ~ん、それはダメだね。」
時々澤藤さんが否定している点が出てきていた。
「あれ?否定しちゃあ駄目なんですよね?」
「そうだよ。だけど、澤藤さんの思惑に外れた意見は載せたくないんだろうから、
否定しているんだろうね。」
「え、どういうことですか?」
そして、私は何でこのような会議の場を設けたのかを後日理解するのであった。
「忌憚のない意見を集めてみたのですが、
このようにやはりインテリアの照明であれば、
その存在意義が発揮されると思われます!」
本社役員を含めた会議の場で、澤藤さんが言っていた・・・
こういうことか!!
っていうか、それってインテリアに絞ったのは澤藤さんでしたよね!
屋外のエクステリアの照明については、話がそれてしまうと言って、外してただけでしたよね!!
内心でそんなことを言いつつも、口には出さなかった・・・
柊さんはこのことを言っていたんだな・・・
ここに来て柊さんの意見の意味が分かったのであった。
村中部長も交え、企画部、本社役員が集まっていた会議で
みんなの意見をまとめたモノを発表したのだ。
当然・・・
「じゃあ、内覧会も含めて屋内のインテリア照明を主に検討していく方向で。」
そんな結論になるのは必然であった。
すごいとは思う・・・。
思うけど・・・私の心の中では割り切れなかった。
「・・・まあ、嫌な部分はあったけど、あれも正解だと思うよ。」
「どうしてですか!!」
「現状の有機ELは雨に弱いからね。
それが分かっているのにエクステリアに使用して、
一段と求められるスペックを上げるよりかは、
製品化させるためには、現状で出来るインテリア、
しかも置き換えを狙う方がずいぶん難易度が下がるからね。」
「・・・冷静ですね・・・。」
「まあね~。
製品化するっていう目的があって、色んな人が集まった場合、
人によって目的に向かう道筋は違うだろう?
千差万別になるのは当然であり、
俺としては目的を達成するのであれば、自分の意見・やり方でなくても
他人の意見ややり方でもいいと思うからね。
千差万別は俺は賛成派だよ。」
「それはそうですけど・・・・・。けど、私は・・・。」
「井口さんの心情は分かるよ。
ちなみに今日の会議で澤藤さんが言わなければ俺が説明するつもりだったけど 、
その資料では有機ELの欠点として、水分があるって書いていて、
エクステリアではなくて、インテリアを狙いましょうって書いてあるよ。」
そう言って、資料を私に見せてくれる。
「・・・これならわかりますし、納得できます。
だけど、澤藤さんのやり方は納得できません。」
「まあね、俺も分かった時にはちょっと嫌な気持ちにはなったけど、
この人のやり方はこんな感じなのかってわかったから、
目的は一緒の方向を見ていると判断して、
俺も了解してさっきの会議では何も言わなかったんだよ。」
「・・・確かに目的は一緒でしょうけど・・・。」
「それよりもさっきの会議の資料は、村中部長には事前に澤藤さんって見せてたかわかる?」
「いえ、分かりません・・・。」
「そっか・・・たぶん見せてないな~。」
「え?それで発表しちゃったんですか?」
「そうだよ。それで今、2人で話し合いをしてるんだろうね。」
会議が終わったにも関わらず、2人は会議室から出てきていない。
「・・・何の話し合いを?」
「そりゃ~当然、今後についてじゃない?
そもそも村中部長は有機ELならではの商品をって考えに対して、
今日の澤藤さんは現行商品の置き換えをって考えで、
製品化のイメージが違うからね。」
「それって問題なんじゃ・・・。」
「問題だよ。ゴールが別々になってしまってるからね。
だから、今、すり合わせをしてるんだろうね。
手っ取り早く、商品化して、プロジェクトを成功しました!にしたければ、
置き換えがベストだろう。
プロジェクト成功が目的の澤藤さんがその道を選ぶのは分かる。
だけど、村中部長は有機ELのプロジェクトの製品化のその先を見ているんだよ。
置き換えだけでは最初はいいけど、その後は続かない。
だから、有機ELならでは商品を作りたいんだろうね。」
「な、なるほど・・・。」
意外なことに村中部長の方が、今後のことも踏まえて考えていることに驚いてしまった・・・
「自分達の世代だけではなく、次の世代の飯の種を植えたいんだよ。」
「・・・・ちょっと見直しました村中部長のこと。」
「ちょっとだけ?」
「はい、だって今までのマイナス分が大きいですから。」
「それは否定できないね。」
そう言って、苦笑する柊さん。
そのタイミング会議室の扉が開いて、2人が出てくる。
笑顔で話しているのだけど、ちょっと距離が遠いような気もする・・・
次話は本日19時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




