モックアップ
「モックアップですか?」
「ああ、モックアップはやっぱり必要だと思う。
ここ数週間、お客さんとも有機ELについて話はしたけど、
やっぱり有機ELというものを知っている人は少なかった。
だから、どんなに説明をしてもチンプンカンプンって感じになってしまうので、
お客さん周りをするにしてもモックアップがあった方が、ハッキリと言って分かり易い。」
「それは分かるんですけど・・・。
ここに用意しているような有機EL単体では駄目なんですか?」
「ダメってことはないんだけどね・・・。
だけど、お客さんからしてみたら、この有機EL単体をみたところで、
『で、これを何に使うの?』ってなるんだよ。」
今は、企画部の大川さんが、ここ数日お客さんを訪問して、
有機ELの説明をした時に上がってきた声を聴いて、
私達と打ち合わせをしたいと申し出があり、打ち合わせをしている。
「そうですよね・・・やっぱり。
田口、モックアップ品を持ってきてくれる?」
「了解!」
そう言って、会議室から出ていく田口さん。
「もうすでにモックアップ作っているの!?」
「ええ、一応作ってはいるんですけど・・。」
そこまで言ったところで、村中部長が。
「俺がストップをかけたんだよ。
製品のモックアップがあった方がいいだろうって言って、
柊ちゃんが準備してくれたんだけどさぁ~。」
「え?どうしてですか?」
「まあ、見ればわかるよ。」
そう言って、話を切って田口さんが戻って来るのを待つ。
数分後に田口さんは会議室へ戻って来るのだが、
台車を押して戻ってきており、その台車の上には数多くのモックアップが並べられていた。
そのモックアップを見た瞬間、大川さんの目が見開いて、
「すごいじゃないですか!!」
手放しでほめる大川さん。
そして、1つを見るたびに、これはどこに、
こっちはどこにと色んな考えを言ってくれるのであった。
「これなら全然、商品としてアリでしょう!!」
興奮気味に話す大川さん。
「うちの田口ちゃんと柊ちゃんが優秀だからね。
こんな簡単に設計できるなんて思ってもみなかったよ。」
大川さんの意見に同意する村中部長。
その言葉には柊さんと田口さんに感心している思いが込められていた。
「ですね~、だってまだチームが立ち上がって一カ月も経ってないんでしょう?
それなのに、ここまでの製品をすでに作り上げてる何って・・・。
これならすぐにでもお客さんに持って行って、商談できるレベルにありますよ!」
「だけど・・・。」
そこで村中部長が大川さんの話を切って、
今までの雰囲気とは違う雰囲気を醸し出しながら、
「これって有機ELならではの商品って言えるか?
当然、現行品からの置き換えっていう選択肢があるのは分かる。
だから、ここにある商品なんかは置き換えとして
十分な製品であるのは分かるんだよ。
だけど、これが有機ELならではの特別な製品かと言われたら・・・
そうではないなって思っちゃうんだよねぇ~。」
「それはそうですけど・・・。
ですが、これでも十分魅力的でしょう!
この薄さ何ってほんとうに魅力のある商品ですよ!
それに点灯しても全然ギラギラしたまぶしさがないですし!!
これは家庭用には持って来いの商品だと思います!」
「それは分かってるんだよ。
だけど、俺達は有機ELならではの商品の訴求も必要だと思ったんだよ。
だから、俺がこのモックアップを大川ちゃん達に渡すのを止めたんだよね~。
これがあると下手な先入観を与えてしまうからね。
それ以上の発展がない気がしてさ。」
「・・・それはそうですけど・・・。」
なかなか納得するのは難しいのは分かる。
そして、ここに並べられているモックアップが
魅力的であると分かっているだけに、余計に納得するのが難しいのだろう。
「ですが、ハッキリ言って、僕たちだけで考えるのは限界があると思いますよ。
凝り固まってしまってますからね思考が・・・。」
柊さんが村中部長と大川さんの間に割って入る。
「・・・まあ、俺達だと考えが偏ってるよな・・・。
すでに先入観を持っているんだし。」
その意見に納得する村中部長、それにうなづく大川さん。
そのタイミングで柊さんは大川さんに、
「夏場に内覧会が一般照明ってやってるんですよね?」
「何それ?」
柊さんの質問に村中部長が尋ねてくる。
ただ、私もその内覧会というのは初耳であって応えることが出来ないでいると
「やってますね。
南日本電機の製品の取引相手を呼んで、
新商品を見せていくイベントをやってるんです。
それも北は北海道から南は九州まで、各主要都市で開催しているんです。」
村中部長の質問に田口さんが応える。
さすがは田口さんだ!
もともと一般照明の設計担当であるため、よく知っている。
「・・・そこに出すと?」
「いいんじゃないですか!そこで情報を集めるってのは一つの手だと思いますよ!
それに内覧会に来るのは招待客以外は来ませんから。
そもそも招待客もうちの協力メーカーですから、他社に漏らす心配がない。」
「まあ、漏らしたらうちとの取引が終わるからね・・・。
それ、出せるの?」
村中部長が大川さんに尋ねると大川んはうなづきながら、
「ねじ込みます!」
「ははは、頼もしいじゃん!
じゃあ、いっちょ出してみるとしますかね。」
「あと!もう一点!」
「まだ何か案があるの柊ちゃん?」
「うちの会社のデザイン部って、今回の件に使えないんですか?」
「デザイン部?・・・使えないことはないけど・・・また無下にされるかもしれないよ?」
「その可能性は大いにあると思います。
ですけど、打てる手は打っておいた方がいいと思うんです。」
「うぅ~ん・・・まあ、いいか、どうせ俺は電話するだけだし。
まあ、とりあえず今日の打ち合わせはここまででいい、大川ちゃん?」
「はい、僕のところは内覧会へねじ込む手配をしておきます。
それと・・・できればここのモックアップをお借りしたいんですけど・・・。」
「う~ん・・・まあいいか、ただ、どこに出すかの連絡はこっちによこしてね。
基本的には協力メーカーをまずは基本に。
他社に情報が回るのは何としても今の段階では避けたいから。」
「わかりました。それじゃあ・・・。」
そう言いながら、大川さんは面白しそうに
田口さんから説明を受けて、商品を操作するのであった。
次話は8月21日7時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




