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諏訪部長の指示

「・・・俺達・・・4月に入って工場内の草むしりとか、

 植木の剪定しかしてない・・・。」


私達が有機ELの製造設備を見学した後、事務所に戻って、

時間まで話していた時である。


最初は笑顔で世間話をしていたのだが、

そこから仕事の話に移るとみんなの顔が徐々に曇っていったのであった。


柊さんはすぐにその変化に気づいて、有機ELチームにた尋ねると

ものすごい告白があったのだ・・・



「・・・どうしてですか?」


「諏訪部長が、予算削減として、有機ELに関する予算は全面凍結したんだ。

 唯一人件費だけは凍結から免れて、俺達は有機ELのチームにいれるんだけど・・・。」


「・・・え?」


「だから、俺達は装置すら動かせない状況なんだよ・・・。

 開発に使うお金が全くないから・・・。」


「・・・。」


柊さんも私も絶句してしまう。

技術者なのに、その仕事を取り上げられて、草むしりをさせられるなんて・・・


まるで、リストラ部屋・・・


こちらが根を上げるのを手ぐすねを引いてまっているかのようだ・・・



「・・・何でそんなことになってるんですか?」


「それは俺達も分からないんだ。

 前の川村部長が去ってから、この4月に諏訪部長が就任して、

 急に俺達の予算を凍結されて、こんな仕打ちになったんだ・・・。」


その悲痛な思いが込められた顔を見て、

私ははらわた煮えかえるような思いになる。

こんな顔をするくらいこの人達は追い込められてたんだ・・・



「・・・良かったです。今、こっちに来れて。」


「え?」


「これからの打ち合わせで、話が聞けますから。

 これよりも遅く来ていたら、皆さんにもっとつらい思いを

 させてしまっていたかもしれませんから。」


そう言いながら、柊さんの拳がグッと握りしめられていたのを見逃すことはなかった・・・


そしてその表情は激しい怒りを含んでいるのだが、

私には絶対に何とかしてくれると思える頼りになる思いが感じられたのであった。




「仕事もできないんじゃ、草むしりくらいしかすることはないだろうに。」


「仕事ができないのではなく、させないの間違いでしょう?」


明らかに怒気が込められた口調で話す柊さん。

それに対して、その怒りを真正面から受けながら、



「ふん!仕事が出来るかできないかの判断は部長である俺がするんであって、

 下のお前がすることじゃない!!

 イチイチうるさい口をはさんでくるな!!」


諏訪部長が睨みながら柊さんに怒声を浴びせる。

だけど、柊さんは一歩もその睨みにも、怒声にもまったくひるむことはない!!



「だいたいな、さっきから聞いていれば、技術だ、開発だと言ってくるけどな!

 無いなら、買ってくればいいだろう。


 金を出せばいくらでも技術は買ってこれるんだ!!

 それにいくらでも協力メーカーはいるんだ。


 あいつらに言えば、喜んで自分達の金で研究開発をしてくれるぞ。

 そして、出来上がった技術を俺達に喜んで差し出してくれるんだ。


 所詮あいつらは、金魚のふんだ。

 うちの会社のような大企業にくっついてないと、

 生きていけないんだからな!」


「・・・本当に最低な発想を・・・。

 それで俺達に何が残るんっていうんですか?

 技術もなければ、知識もない。

 それで製品をどう判断するんですか?


 正確な判断が出来ない人間が製品を作って、

 それが安心安全と断言できるわけないじゃないですか!


 それを見て、触って、確認して、そして自分達のプライドを持って、

 これが我が社の製品ですと世の中に広めるんじゃないんですか!?

 それが企業としての、技術者としてのプライドだと思ってますよ!

 少なくとも俺は!!」


「そんなプライド何てもの、くそくだらない。

 いいか、大企業って言うのはな、群がってくる群れに餌を与えてやればいいんだよ。

 うちの名前のついた商品なら喜んで尻尾を振って買っていく奴らにな!


 それに安心安全?

 一般の連中がそんな判断できるわけないんだよ!

 あいつらはうちの名前がついてれば、勝手に安心安全だと思って買っていくんだからな。


 いいか!

 そんな連中にいかに高く、いかに儲けるものを売りつけるのかが、

 会社人としての正しい考えなんだよ!

 技術者のプライド?それで何が売れるんだ?

 そんな一銭の価値にもならないプライド何か捨ててしまえ!

 

 いいか、俺達が言えば何でも買うんだ!

 俺達が与えれば喜んで買う連中なんだ。

 

 そんな連中を相手にするのに、技術なんているか?

 いるのは新しいうちの名前の付いた商品なんだよ!

 協力メーカーに作らして、そして俺達の名前を冠した商品をあたえておけばいいんだよ!!」


そこまで言って、手元にあったペットボトルを・・・


柊さんに向かって投げつけて来たのであった!!



「俺の手下が俺に歯向かうな!!

 

 俺がここのトップなんだ!!

 

 俺に従え!!

 

 従えないなら辞めてしまえ!!


 いいか、はっきりと言ってやる!!


 有機ELチームは絶対に潰してやるからな!!」


怒りをこちらにぶちまけて、立ち去ろうとする諏訪部長に対して、

ここまで一言もしゃべっていなかった村中部長が、



「まあ、ある意味、真理と言えば真理だけど、

 俺は技術や上がりだからね。

 技術は大切だと思ってるよ。」


怒るでもなく、淡々と自分の思いを言い出す。

ただただ冷静に行動する村中部長。

そして、自分のパソコンを諏訪部長の方に向けて、



「とりあえず、九州事業所の有機ELチームには、

 新事業推進本部から予算を差し出します。」


「な!?」


「これで九州事業所の予算はカット出来て、

 なおかつ有機ELチームの開発が出来る一挙両得になりますね。」


ニヤニヤしながら話す村名部長。

呆然とする諏訪部長に、更に続けて、


「ちなみに社長から了承は得てますから。

 まあ、九州事業所の有機ELチームは予算が新事業推進本部から出ることになって、

 こっちから仕事を委任された形になるんだから、しっかりと働いてもらいますね。」


そう言いながら、社長の了承の証言を見せたパソコンを

また自分のところへと向けなおして、パソコンに打ち込みだす。



“今日の議事録は俺が作るから”


打ち合わせの時に、村中部長が最初に私と柊さんに言った言葉である。

・・・こうなると分かっていたんだろう。


だから、村中部長の名前で作成した議事録を作るつもりであったのだろう・・・



「ちぃ・・・勝手にすればいい・・・。」


舌打ちしながらも捨て台詞のように了承の言葉を吐いて、

会議室から出ていく諏訪部長。


諏訪部長が出ていくと、

緊迫していた空気が緩むのであった・・・



「・・・いつそんな許可を貰ってたんですか?」


「伊達に歳喰ってるわけじゃないからね~。

 九州事業所に来ることは想定してたんだから、

 しっかりと情報収集するのは当然じゃない!

 まだまだ青いね柊ちゃんは、その辺り。」


「・・・すいません・・・。」


「まあ、いいけどさ~。

 だけど、今度来る渡り鳥君は俺と同等・・・

 いや、俺以上にやり手だから気をつけないと

 柊ちゃん、食べられちゃうよ。」


「つくづくイヤになってきますね。」


「まあ、嫌になっても、彼はもうすぐ来るんだから、

 しっかり相手をしてもらわないとね。」


嬉しそうに話す村中部長に対して、深いため息をついて暗い顔をする柊さん。

まるで対照的な2人に思わず私は笑ってしまうのであった。



「ほら、井口ちゃんに笑われてるよ~。

 こんな頼りないリーダーなんだってね。」


「・・・善処します。」


力のない返事をする柊さんだった。

次話は本日19時に更新予定です。


気づいた点は追加・修正していきます。

拙い文章で申し訳ないです。

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