海外接待の話
「柊さん、いい経験をさせていただきました!」
講談商事の方と別れて、2人で歩いている時に、私は柊さんにお礼を言う。
「何?葉山牛を食べれて?」
「いや、正直味はよくわからなかったです・・・。」
「せっかくの葉山牛なのに!?」
「だって、あんな中での食事なんて美味しさを味わう心境じゃないですって!
しかもめっちゃワインを飲まされて、私フラフラなんですからね・・・ううう・・・
柊さんって、あれだけワイン飲んだのに全然酔ってないんですね・・・。」
「俺は酔わないようにしっかり指導されてきたからね。」
「・・・酔わないように?」
「そうだよ。
俺は自分の意思で簡単に吐けたりするからね。
それで商談とか接待の時には、酔わないように調整していくんだよ。」
「・・・まじですか?」
「まじで。」
「そ、そんなこと習うんですか!?」
「九州事業所は海外メーカーとの取引とかが多いから、
普通に週一ぐらいで飲みに行くんだよ。」
「ええ!?そんなの行き過ぎでしょう!?」
「まあ、こっちの人からしたらそうかもしれないけど、
向こうだと普通かな~。」
「・・・それだけ飲んでれば、確かになれたものですよね・・・。」
「慣れた・・・まあ、そうだね。
常に酔わないように自分で確認をしながら飲みながら、吐きながらやってるよ。」
「吐くってもったいないですよ・・・。」
「そうなんだけどね~。
相手によっては、確実にこっちを酔わせようとしてくるメーカーさんとかあるからね。」
「そんな所あるんですか?」
「あるよ。特に海外メーカーなんてのは特にその傾向が強いし。
まあ、向こうの文化がそうなのかもしれないけどね。
中国系のメーカーでは一人一人挨拶をするたびにコップを開けていかなきゃいけないし、
韓国系のメーカーさんだと色んな酒を混ぜ合わせたお酒を嬉々として飲ませてくるし、
ただ、向こうも飲んではいるいんだけどね~。」
「・・・全然美味しそうには思えないんですけど・・・。」
「全然美味しくない・・・
マッコリベースにウォッカとかワインとか混ぜた、
ただただアルコール度数が高いだけのお酒を
どんぶりいっぱい飲まされた時には死ぬかと思ったよ・・・。」
「それ・・・アルハラですよね・・・。」
「まじでそう思うよ・・・。
けど、向こうの文化がそうなら、それに習わないといけないからね~。
郷に入っては郷に従えって諺があるだろう?」
「それ・・・飲んで大丈夫なんですか?」
「飲んで、すぐにトイレに行って吐く・・・。」
「・・・ですよね・・・。」
「そのまま飲んだままでいると俺は酔うからね。
強い奴だとそのまま何杯も飲んだりするよ。」
「・・・まじですか?」
「まじで・・・。」
「私もトイレに直行ですね・・・。」
「吐ける?自分の意思で?」
「試したことがないです・・・。」
「最初は自分の指を口に入れて吐いたりすると、何とか吐けたりするよ。」
「・・・そんな情報いらないですよ・・・。」
「まあ、知っておいて損はしないから。
これから商談とかで、どうしても断れない時に使わないといけなくなるからね。」
「そんな商談、願い下げなんですけど・・・。」
「まあ、向こうは必死でくるから、断れないことも多々あるよ。」
「・・・イヤです・・・。」
「まあ、そう言わず。それと覚えておくといいのは、
そんな飲み会でこっちの記憶があいまいなことをいいことに
契約書や覚書を書かせてくるメーカーもいるから
絶対に飲み会の席では酔わないこと!これはしっかり覚えておきなよ。」
「そんな恐ろしいことあるんですか!?」
「あるよ。実際にうちの会社の上司で、その手に引っかかって、
相当製品を安くたたかれたことがあるからね~。」
「・・・肝に銘じときます・・・。他にないんですか?」
「ほかぁ?・・・まあ、井口さんは女性だからあんまりないかもしれないけど・・・。」
「なんです?教えてください。
知識として叩き込んでおかないと!」
「海外に出張行った時に、よくメーカー側と食事をするんだけど。」
「はい!」
「大体二次会はカラオケにアジア系の出張先だと行くんだよ。」
「カラオケって他の国にあるんですか!?」
「俺が出張で行ったことがある、韓国、中国、台湾、香港・・・
タイとマレーシア、インドネシアにはどこもあったね~。」
「そ、そんなに行ってるんですか!?うらやましい!!」
「そっちかい!?さきに言っておくけど、仕事だからね!仕事で行ってるだけだから!」
「それでもうらやましいですよ~。
私は大学の卒業旅行でハワイに行っただけですよ・・・。」
「いや、ハワイの方がいいだろうに!
いいな・・・俺もハワイに行ってみたいな~・・・。」
「いい所ですよ!って、話がそれちゃいましたよ!
で、二次会にカラオケに行くとどうなるんですか?」
「ああ、そうだったね。
入店すると店中の女の子が一斉に並んで、その中から1人を選ぶんだよ。」
「・・・どこのキャバクラですか?」
私は思わずジト目で柊さんを見るのだが、
どうやらまだ終わりではないようで、苦笑しながら、
「基本的にはその一人がずっとそばに行って接客してくれるんだけど、
だいたいそのままその子をホテルまでお持ち帰りするんだよ。」
「はぁ~!?どういうことですか!?」
「まあ、そういうことだよ。その値段も込みで払われてるんだよ。」
「・・・うわぁ~そんなの聞きたくなかった・・・。」
「ひどい店だと、そのカラオケの奥に小さなベッドがいくつもあって、
そこで事を済ませる店があるんだよ。」
「・・・それ、隣が見えるじゃないですか・・・。」
「一応、カーテンで区切られているよ。」
「・・・声は?」
「丸聞こえ・・・。」
「・・・不潔・・・最低・・・これだから、男子って・・・。」
「まあ、その意見は否定できないので・・・。
それでここで問題なのが、お店単独だったらいいんだけど、
メーカーの息のかかったお店もあるんだよ。」
「?」
「そのお店の運営をメーカーがやっていたり、
お客を連れていくたびに多額のお金をあげてたり、
それとか、お店の店員と共謀している場合があるんだよ。」
「・・・本当ですか?」
「ああ、これも過去にやられた人がいて、貴重な情報を盗まれたり、
まあ、薬を盛られて、サインをしたりしたことがあるんだよ。」
「そこまでやるんですか・・・。」
「今は、だいぶ日系企業も警戒するようになったから、
前ほど被害はないけど、それでもゼロにはなってないっていうから
それも気をつけないといけないね。」
「何か、映画の世界でしかないように思えてたのに・・・。」
「まあ、これが現実なんだよね~。
だから、海外出張でも気をつけないといけないんだよ。」
「・・・分かりました。」
「女子の場合はイケメンをあてがわられるとかあるかもしれないし。」
「・・・ひっかかりそうです。」
「まあ、気をつけてとしか言えないけどね。」
「・・・そもそも接待に行きたくなくなってきましたよ・・・。」
「これからいっぱい行くことになるよ。」
「・・・柊さん、そんなに付き合いあるんですか?」
「俺もあるけど、俺よりも村中部長の方が多いんじゃない?」
「・・・ありそうですね・・・。」
「あの人、かなり遊んでそうだしね。」
「確かに・・・。」
「で、井口さんは結構頻繁に呼ばれそうじゃない?」
「・・・。」
柊さんのことばを否定はできなかった。
今までも顔見知り程度にも関わらず、何度飲み会に誘われたことか・・・
ちょっと憂鬱になってしまう・・・
「まあ、基本は出たいときだけでればいいよ。
それにまあ、悪いこともあるけど、さっきみたいに色んな話も聞けるから
デメリットだけじゃないからね。」
「・・・はい・・・。」
私と柊さんはその後もお酒にまつわる話を聞かせて貰いながら
家路につくのであった・・・。
次話は8月16日7時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。