初接待
「じゃあ、今、世間発表されている有機EL販売をしているところは全部購入可能なんですね?」
「はい。元々材料メーカーとはお付き合いがありまして、
その時、製造メーカーと出来たつながりで、全社とも購入対応は可能です。
後ほどリストを送付させていただきますので、ご確認ください。」
「ありがとうございます。
それと取引の際には、南日本電機が購入したと分からないようにしてくださいね。」
「はい、その点は外部に絶対に漏れないようにさせていただきます。」
一時間ほどで会議は滞りなくすんだところで、
「今日の夜は柊さん達はご予定はどうなっていますか?」
「ああ、僕は予定はないですよ。井口さんは?」
「あ、私もないです。」
「御社は金曜日はノー残デーですよね?
それでしたらどこかでお食事でもどうですか?」
「ははは、こっちの人間じゃないんで、僕には店は分からないですよ。」
「そうですよね~。
それではこちらで調べて後ほどご連絡させていただきます。」
「じゃあ、後ほど。」
「今日はありがとうございました。」
こうして打ち合わせは終わったのだが・・・
「柊さん、うちが購入したことが分からないようにするんですか?
というか、それってわかるんですか商社を通じて購入して?」
「分かるよ。うちの製品を誰が買っているかとかはしっかり追っているから、
例えばライバル会社が、どこかの商社を通じて購入しているとか何かもしっかりと分かってるよ。」
「・・・そうなんですね・・・。」
「そう。講談商事はずっと有機EL関係の商品を扱ってきたから、
どこか大手メーカーとかに寄っているわけじゃないんだよ。
だから、講談商事側が情報を漏らさなければ
どこが購入しているとかは意外と隠せるんだよ。
だから、今回もこっちから情報を教えてやる必要はないから、
いつもの通りにバレないように依頼したってこと。」
「はぁ~・・・。
そう言えば、査定って言われてましたけど、私分からないんですが・・・。
査定ってなんですか?」
「ああ、査定ってのは1年ごとに調達部が各取引に対して成績を出しているんだよ、取引先の。
例えば、遅延した場合はマイナス何点とかね。
この点数でワースト何位とかになってしまうと、調達部から、警告がいくんだけど、
それが何度もいくようだと、取引自体を停止とか、廃止にされたりするんだよ。」
「ええ!?そんなことがあるんですか!?」
「あるよ。っていうか、他の会社では、打ち合わせスペースや商談コーナーに
そのランキングが書かれた紙を貼っている会社もあるくらいだからね。」
「・・・私がその会社に行く営業マンだったら、
そんなの見たら憂鬱な気持ちになります・・・。」
「だよね。
まあ、貼り出すことで、勧告する意味合いもあるんだろうけどね。
だって、毎回自分の会社がランキングの下位にいたら、
やっぱり何とかしようって思うはずだからね。
他にも、全取引メーカーの営業を一斉に呼んで、
その場で公表するメーカーもあるくらいだからね。」
「・・・・うちは?」
「うちはそんなことはしないよ。
ただ、昔はそれに近いことはしていたみたいだけどね~。」
「・・・良かったです。そんな悪習が改善されたみたいで。」
「まあ、悪習とはいえ、やっぱり結構成果としては良かったみたいだよ。
否が応でも必死に改善するようになるみたいだしね。」
「・・・そうでしょうね・・・。」
自分の会社が取引できなくなるなって本当に困ったことなんだから
必死で改善するようになりますよね・・・
「もし改善できなかったらどうするんですか?」
「出来なかったら、“特栽”っていう処理もあるよ。」
「特栽?」
「特別裁定だったかな?まあ、品質保証部や技術部なんかの各部署の承認を得たうえで、
今回だけ納入するのを許可する仕組みだよ。」
「へぇ~、一応は救済処置もあるんですね!」
「あっても、誰も使いたがらないけどね。」
「どうしてですか?」
「決済が、各部署の部長級はもちろん事業所の工場長とかの承認もいるから。」
「・・・なかなかハードルが高いですね・・・。」
「高いも高いよ。それを回すだけで半月くらいかかってしまうからね。
それに加えて、一人一人に説明に回ったりしなくちゃいけないから、
本当に困った時の最終手段って感じかな。」
「だけど、それがあると業者もそれを利用をしようとするんじゃないんですか?」
「ああ、当然いるよ。
まあ、だから、業者は出来るだけ担当者と仲良くしておくんだよ。」
「・・・今日のようにですか?」
「そうそう。・・・何か井口さんの視線が刺さってくるように感じるんだけど・・・
だけど、別にそれだけじゃないんだよ。
彼は彼らで情報を持っているからね。
そういう席じゃないと情報を得ることが出来ないから、参加するんだよ。」
「・・・山田さんがキレイだったからじゃないですか?」
「・・・それは否定できないな。」
「・・・最低・・・。」
「男なら仕方がないって・・・。
絶対に村中部長がいたら、むしろ村中部長から飲み会をセッティングしてるよ。」
「・・・確かに・・・しそう・・・。」
「こういう席は初めてなんだろう?」
「はい。」
「まあ、騙されたと思って参加してみるといいよ。」
「・・・わかりました・・・。」
こうして、私は初めての接待というのを受けることになった。
何か悪いことをしているようで、ちょっと気が引けてしまうのだけど・・・
「・・・何で講談商事の方が柊さんの個人の携帯番号を知っているんですか?」
「これは売られたんだよ。」
私は仕事を終えて、柊さんと退社したのだが、
ちょうどいいタイミングで、柊さんの携帯に電話が入ったのだ。
しかも相手は講談商事の方々から・・・
「売られたって?」
「九州事業所の時に、緊急を有する事態があってね。
その時に講談商事に俺の携帯を教えた同僚がいたの。
それで向こうは知っているというわけですわ。」
「・・・鼻の下伸ばして教えたんじゃないんですか?」
「・・・いったい井口さんから見て、俺ってどう思われてるんだろうかね・・・。」
「・・・。」
「ノーコメントって!!」
そんな会話をしながら、二駅ほど先で電車を降りて、待ち合わせの場所へと向かう。
そこはちょっと駅からも離れており、
うちの会社の人達はほとんど来ないと思われるようなお店だった。
次話は20時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。