人事異動
「私があの柊さんって方の下に付くんですか?」
「そう。井口を村中さんを指名してきてさ~、さすがに私も断れなかったんだよね・・・。」
現在会議室で、照明事業部の研究所で課長を務めている大谷さんが、
今度の4月からの私の人事異動を伝えてきた・・・
去年入社して、半年の工場研修を終えて、このグループに入ったのが半年前。
やっと今のグループになれてきたと思った矢先にこの通達かぁ・・・。
「まあ、まだ1カ月あるけど、すでに柊君には伝えてあるらしくて、
来週一度、私達のグループに顔を出しに来るらしいのよ。」
「え!?そうなんですか!?」
「そうなのよね~。
うちの会社だと、転居を伴う人事は国内だと3週間前に通達のはずなのに
異例ですでに柊君に伝えてるらしいのよ。
来週来社する用件は新卒採用の面接官なんだけど、
ついでだから、こちらにも挨拶しに来るらしいのよ。」
「そうなんですか・・・ちなみに柊さんが来たらこちらで何されるんですか?
うちって・・・研究部隊じゃないですか?」
「ああ・・・。
彼はうちの所属にはなるんだけど、有機ELの製品化プロジェクトに携わるのよ。
だから、私達のグループとは直接接触することはないのよ。」
「ってことは、私もそのプロジェクトの方へ行くんですか?」
「そうなると思うけど・・・。まあ、たぶん・・・。」
何か言い難そうにしている大谷課長。
しばらくはそのままだったのだが、何かを決心したようにこちらを向いて、
「たぶん・・・雑用をすることになると思うわ。」
「・・・え?」
「うちのグループに来て半年で研究して来たこととは全く違うことをすることになるの。
また雑用からになるけど・・・頑張ってもらえるかな?」
「・・・。」
ここで私は返事ができない。
何とか半年頑張って来たにも関わらず、こんな急に変わるなんて・・・
「まあ・・・ショックなのは分かるけど、大体うちの会社だと3年がローテーションだから。
遅かれ早かれ、研究部門から一度は離れることになるのよ。」
「・・・え?」
「3年経つとだいたい別の部署に異動することになるのよ。
だから、うちの部署からも4月から海外営業に行く子もいるしね。」
「・・・。」
「まあ、私も3年ごとに部署が変わって、営業も企画も品質保証もやってきたからね~。」
「・・・そうなんですか?」
「そうよ。2年前にやっとこの研究所に戻ってきて、課長に着任したばかりだもん。
だから、井口の他の部署に移るのが嫌な気持ちも分かるし、
憂鬱や不安になる気持ちもわかるわよ。」
「・・・。」
「まあ、自分の上司になるのが来週来るんだから、
一度話してみて、どんな人か判断しておいでよ。
どうしても嫌だったら私がお願いしてあげるわ。」
「本当ですか!?」
「ええ。だけど、さっきも言ったように同じところには3年くらいしか入れないからね。
今回は出来ても、3年後はさすがに私の力じゃできないからね。
・・・っていうか、3年後に私が別の部署にいることの方が高いわよ。」
苦笑して私に告げてくれる課長。
それでも私の気持ちを汲んでくれる優しさが嬉しい。
「はい!わかりました!まずは判断させてもらいます!」
どんな人なんだろうか・・・
そして、どんなことをやるんだろうか・・・
私は会社が8時45分から就業開始に対して、
会社に着くのは7時30分である。
朝、会社についてまずすることは、私がいる部署のみなさんの机拭きである。
「これも新人の仕事!」
そう思いながら、ぞうきんを片手に自分達の部署に向かう。
うちの会社は、技術部隊と研究所部隊が同じフロアに机を並べており、
かなりフロアとしては大きいスペースを確保している。
ただ、全部が私達のスペースというわけではなくて、
そのフロアの一部には、ここ関東事業所外の人達が使うためのスペースがある。
私がぞうきんを持って、自分達のエリアに向かっている途中で、
事業所外のスペースでパソコン片手に仕事をしている人が目に入った。
こんな早い時間になんで?
私以外にはこの時間に来る人はほとんどいない。
庶務さんだけが私より早く来て、ポットや冷暖房、
フロアの灯りを付けたりしているくらいだ。
なのに・・・
めずらしいな・・・
見た目は私よりも若い・・・贔屓目に見ても私と同じくらいの年の人。
その人がパソコンと横に置いている書類と睨めっこをしながら、仕事をしているのである。
いつも事業所外の人が来るにしても9時過ぎくらいにしか来ないのに・・・
私は私の所属する部署のエリアの各机を雑巾がけした後、
おもむろに事業所外の机も拭こうとした時、
「おはようございます。」
向こうから私に声をかけてきたのであった。
「おはようございます。少しだけ机を拭かせてもらっていいですか?」
「あ、はい。お願いします。」
そういって、スッとパソコンと書類を今私の拭いた机へと動かす。
この時、私の目に入ってきたのは・・・
「今日の新卒採用面接に来る学生さん達の履歴書ですよ。」
ニッコリと私に微笑みながら説明してくれる・・・
どうやら私がチラッと見たのを気づかれていたんだ!!
ちょと後ろめたい思いもあり、思わず焦ってしまう。
「す、すいません。」
「別にいいですよ。同じ会社の人間ですし、
ただ・・・外部に漏らすのだけはダメですよ。」
「は、はい!!」
「そう言えば、自販機にコーヒーのブラックって置いてないんですかね?」
気まずい話を終わらせるためか、全然関係ない話が男の人から質問がきた。
「あ、はい!自販機にはブラックないんですよ・・・。
良かったら、コーヒー御作りしましょうか?」
「?作れるんですか?」
「あ、私、インスタントですけどコーヒーの粉持ってきてるんで、
それで良ければ。コップはお客様用がありますし。」
「あ、じゃあ、どれを使っていいのか教えて貰ったら自分で作りますよ。」
「え!?そんな、私一年目なので作りますよ。」
「あはははは、別に入社年数とか、年齢とか関係なく。
僕が飲みたいんだから僕が作るのが当然でしょう。」
「そ、そうですか・・・。」
意外な発言に思わず戸惑ってしまう。
だって、ここの会社の男性社員は女性社員がコーヒーを煎れるのが当然と思っているからだ!
新人の私は8時45分に来ている人のコーヒーやお茶を用意するのが仕事の1つである。
・・・他の事業所だと違うのかな?
ちょっと驚きながら、私は自分の持ってきているインスタントコーヒーの瓶を
男の人に渡して、給湯室まで案内して、使えるコップを教える。
「すいませんね。仕事中に。」
「いえいえ。」
そう言って私は、自分のコーヒーを煎れて、自分の席へと戻るのであった。
う~ん、他の事業所って意外と女性にとって働きやすいのかもな・・・
そんなことを思うのであった。
ここの事業所でははっきり言って女性の地位は低い。
まあ、この会社自体が女性が働きにくい会社なのではあるが・・・
全体を通じても部長には、一人だけ女性がいるだけであり、課長級でも2人しかいない・・・
それからも分かるように女性は戦力としてというよりかは、
私がやっているお茶くみのようなモノだけを求められている・・・。
次話は8時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。