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あんなに満開だった桜がいつの間にか散っている。若々しい緑の葉が風になびくたびに、佐川椎華は静岡の茶畑を思い出す癖があった。
「お待たせ!」
幼稚園からの友人の松井理央に再会するのは、2年ぶりだった。確か、最後に会ったのは高校を入学したての頃だったはず。
家が近所だから会おうと思えばいつでも会えたのだろうが、互いに連絡することは無かった。
いくら近所だからといって偶然そこら辺でばったり会うなんて小説のような事も、この2年間では起こらなかった。
たった2年の間に、理央は随分と派手になっていた。元々、大きな目が特徴的だったが、たっぷりと塗られたマスカラが余計に目力を強調している。
オフショルのトップスに、ダメージの入ったスキニー、8センチほどのヒールを履いている。
手に持っているバックはLOUIS VUITTONだった
自分とは全く違う世界に居るようで、この劣等感のような空気を掻き消したくて、思わず出た言葉は
「葉っぱ見てると、茶畑思い出さない?」
だった。
「なにそれ?思わないわ!」
ガバガバと甲高い声で笑うのは、昔と変わっていなかった。
「何かお茶飲みたくなっちゃった」
「もう椎華なんなの?コンビニ行こうよ」
2人の背中を押すように、生暖かくなり始めた5月の風がブワリと吹いた。
風に靡く理央の髪からは、ふわりと香水の匂いがした。
その甘く纏わり付くような苦手な匂いに、思わず口元がクスリと歪んだ。
理央とは、なにもかも趣味が合わない。昔から。
だからだ。だからこそ、一緒に居られる。
なにも変わっていないんだ
ただ自分を落ち着かせたかったのか、強がりなのか、マウンティングするつもりなんてなかったが、負けてるーーそればかりが椎華の心の中で膨らみを増すばかりだった。