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「嬉しい」とか、「焦り」とか、そういうハッキリとした感情は一切無くて、素直に頭の中に湧き出てきた感情は、ああ、やっぱりなーーだった。
佐川椎華は、ファストフード店のトイレに座りながら、妊娠検査薬の赤く染まる縦の2本の線を眺めていた。
心当たりはある。相手もわかっている。本当は検査薬なんてしなくても、きっと出来ていることもわかっていた。
わかっていたけど、検査薬で調べることは産婦人科を訪れる前にする当たり前のことだと思っていただけで、想像していた結果と一致した検査薬の結果に、感情が高ぶることはやっぱり無かった。
トイレから出ると、呑気にポテトを摘まんでいた幼稚園の頃からの友人の松井理央が、真剣な表情でこちらを見つめている。
理央の前に座る。
「どうだった?」
心配そうに顔をのぞき込む理央に、少し俯きながら答えた。
「うん。やっぱりデキてた」
理央はほんの少しの沈黙の後、椎華を責めるでも慰めるでもなく無表情に椎華の下腹を見つめていた。
「産むの?とか、聞かないの?」
自嘲気味に笑ってみても、理央の視線は椎華の下腹を見つめたままだった
「産むって…うち等まだ18じゃん」
だから何?ーー
理央の在り来たりな一般論に反抗しそうになったが、寸前でゴクリと飲み込んだ。
出産に歳は関係ないと思っていたけど、何故だろう。
妊娠検査薬の陽性反応を見ても、なんの感情も湧き出てこなかったのに、何故私は今…理央に反論しようとしたのだろう。