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侍と小町の短編集

魔女の延長戦

作者: 西向く侍

世の中金さえあれば。そういう時代がはやく来てくれたらいいですね。

 低い身長がコンプレックスです。

 だれかと話をするとき。

 いつもあたしは見下ろされているのが気にくわなかったです。

 かといって、気にくわない人の膝を曲がらない方向に折り曲げても仕方がないです。

 ないものはないのです。

 ねだっても仕方がありません。

 年下の従妹を見下ろしているときが心の休まる時間でしたが、あたしの身長を追い抜かしたので、嫌いになりました。

 疎遠です。

 そんなこんなで、気にくわないものとは距離を置いていたら、気にくわないもののほうが多くて首が回らないことに気づきます。

 ことここに至り「あたしはなんと生きづらいのか」と進退窮まるのです。


 冬でした。


 妙齢の女が男も従えずに、ワンカップを片手に公園に座り込んでいるのです。

 幸いなのは、夜であることでしょう。

 道行く紳士達は私に声をかける物好きもいました。

 しかし、あたしの定まらない視線と、にらみつけるような上目遣いに恐れをなすものが多かったのです。

 多くの人から「女性なのだから、愛想を良くなさい」といわれますが、なかなかに気の進まない難事です。

 男性らしさ、女性らしさというのも一定理解はしますし、そういったのを好ましく思う人がいるのも知っています。

 しかしながら、あたしの偏屈がそういったもろもろに睨みを利かせてしまうのです。

 基本的な反抗期は学生のころに済ませたつもりでしたが、反抗期は延長戦だったようです。


 終わらない戦いでした。


 身長さえあれば、すべては解決したのだと思います。それさえあれば私の行動のすべては肯定されて、人から見下されることもないのです。

 私の偏屈はすべてこの身長のせいなのです。


 そんなことを勢いのままに公園でぶちまけていると、一人の女性が声をかけてきました。

「悩みの内容を耳にしましたよ」

 あたしが嫌いなタイプの女性です。女性らしさといったものが香るような人でした。そして、彼女は特段のお節介なのでしょう。

「話したつもりはありません」

「聞くつもりはありませんでした。聞いてしまったのだから、どうにかしましょう。身長が欲しいですか?」

「ほしい!」

「よござんす。力を与えましょう」

 彼女は魔女でした。

 力によって身長を与えられたあたしは身の丈三メートルを超す巨人になっていました。

 どういった原理かはわからないけれど、あたしの服もそのままに大きくなり、裸体を晒すようなことはなかったです。

 ここまでぶっ飛んだことが起きたあたりで「ああ、なるほど。これっていうのは夢って奴だな。明晰夢だ」と考えます。

 

 結果からいうなれば夢ではありませんでした。

 布団からはみ出した自分の体を見て「夢じゃなかったんだ」と懊悩するのです。


 身長が伸びてしまったあとは多くの仕事で引っ張りだこでした。

 務めていたオフィスでは事務机に座ることはできなかったので、外を動き回る営業の仕事に移動となりました。

 通りすがりの魔女に願いをかなえてもらった。という状況を上司に話すと理解を示してくださいました。

「突然のことで君も大変だろう。君は営業の仕事も行いながら、わが社の広報官としての役目もお願いしよう!」

 会社の仕事は早くて、あたしの体のサイズに合ったTシャツを用意し、会社のロゴが入った服で営業に回るように指示をされたのです。

 ここまで、目立つことをしていたならばSNSで拡散もされるようになり、会社の商品は飛ぶように売れました。


 身長が伸びて、人を見下ろすことができるようになりました。

 仕事の幅も増えて、自信を持つようになりました。

 再び見下ろすことができるようになった従妹とも連絡を取るようになりました。


 見た目としてはすべてがうまくいくように思えました。

 

 目立つようになってからは気分も開放的にはなりましたし、あたしのメリハリの利いた体つきについても道行く人が注目をするのです。気分も悪くありません。


 しかし、どこにいても「あの人は!」と声をかけてもらうようになってから、以前のような「その他大勢」に紛れていたいとも思うようになったのです。


 夏が終わろうとしている時期でした。


 さすがに冬のころのように、ワンカップ片手に酒を飲むことははばかられる身分となったので、仕方なしに居酒屋で酒を飲んでいた時です。

 物珍しさから酔漢が寄ってくることはありました。

 しかし、その時は例の魔女でした。

「お悩みはいかがでしょうか?」

「……そのせつはどうも。楽しませてもらっています」

「唐突に物事が進んでも困るだろうと思い、連絡に上がりました」


 ああ、やはりこの時が来たのです。いつか魔法は溶けるものです。


「わたしの力も及ばず、その身長を永続的に維持することが出来かねます」


「覚悟はしております。いただいた身長ですから。いつかお返しすることになるのだろうと思っていました」


 夢はとける。気持ちも溶かす。


「つきましては高身長の定期的なメンテナンスを含めて、半年で三〇万円の延長が可能です。いかがなさいますか? クレジットカードでの支払いも可能ですよ」


「買ったぁ! この商売上手め!」


 あたしの延長戦が始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オチが意外でした(笑) [一言] ショートショートに興味がある私としては非常におもしろく読めました。このアイデア欲しかった...悔しいです(笑)
[良い点] 失礼します。 身長の低い悩みを主題とし、当然の変身願望があり、それをユーモア交えてえがかれたところと、その、一見屈折している要素が、ガッチリと僕の好みのテイストで、感じ入りました。 [気に…
2018/05/09 08:48 退会済み
管理
[気になる点] 3mって逆に迷惑な気が… ギネスでも270cmくらいよ! 190cmでよくね?むしろそのくらいで!!!!!
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