剣豪小説が時代を斬る 筑前筑後さん「峠雨」他
次にご紹介するのは筑前筑後さんの時代小説です。
若い頃、私はアンチ時代小説派でした。
私が読む小説はSF、ミステリー、純文学の三種類がメインで、時代小説、歴史小説はほとんど読んだことがありませんでした。
その私が一度だけ隆慶一郎の時代小説にはまったことがあります。
その頃、隆慶一郎だけでなく、他の時代小説作家の作品もいくつか読みましたが、藤沢周平というたった一人の例外を除けば、隆敬一郎以外に心底面白いと思える時代小説家には巡り合えませんでした。
考えてみれば隆慶一郎と藤沢周平が好きで他の時代小説家が嫌いな読者は、アンチ時代小説派気質かもしれません。
隆慶一郎の作品にはカブキモノがよく登場しますが、彼自身が時代小説家界のカブキモノ、つまり異端児のようなところがあります。従来の時代小説の常識を覆すユニークな作風だからです。
また藤沢周平の時代小説は”文学”です。人間や人生を描くことに作者の関心が向けられ、単なるジャンル小説としての時代小説を超えた深みがあります。
こうした意味で二人の作品はアンチ時代小説派のための特殊な時代小説と言えるかもしれません。
......と時代小説に関してネガティブなことを書きましたが、隆慶一郎や藤沢周平の作品は並みの現代小説よりはずっと面白いと思いますし、私自身、「なろう」登録後に最初に発表した二つの作品はともに時代小説でした。
時代小説プロパーの「なろう」作家、筑前筑後さんとは、ミクシーの「なろう」コミュニティーで最初に知り合ったと記憶していますが(実際にお会いしたのではなくネット上の話です)、これも”アンチ”気質の自分が苦手な時代小説を書いたことが縁だったのかと理解しています。
1. 質量ともに充実の”作家力”
筑前筑後さんをお気に入りユーザーに登録してからまず驚いたことは、その旺盛な執筆量です。
作品を短期間に量産するだけでなく活動報告の執筆も他のお気に入りユーザーさんと比較しても群を抜いて活発です。
また第一回アルファポリス歴史時代小説大賞特別賞を受賞した実績もさることながら、時代小説を執筆するのに必要な時代考証、文章力、人物描写力、チャンバラアクション描写力、ストーリー構成力が優れ、アマチュア作家がここまでやれるのか、というくらいの驚きの”手練れ”です。
筑前筑後さんには、質、量ともに傑出した”作家力”があると言えるでしょう。
2. 時代”料理”小説から剣豪モダンホラーまで
以下、筑前筑後さんの作品を紹介していきます。
①峠雨
年真流サーガシリーズ第一弾。少年剣士、平山小弥太のビルディングスロマンです。
峠の旅籠に宿泊した謎の武士親子。旅籠の主人、伊之助の視点から不思議な少年、小弥太が描写されます。チャンバラアクションの描写も秀逸です。
ネタバレになるので詳しく書きませんが、正統的な剣豪小説といった作品です。
②闇の足音
幼馴染だった人妻お糸と駆け落ちし、脱藩して江戸に逃げた侍、藤兵衛の物語。藤兵衛は両替商に用心棒として雇われる。お糸の元夫の与一郎が藤兵衛を追って江戸に来る。お糸は不治の病にかかり、高額の薬代を稼ぐため、藤兵衛は人を斬って金を稼ぐ。
単なるチャンバラ活劇に終わらない藤沢周平ばりの奥深い人生ドラマ。
③小売酒屋鬼八 お品書き帳
謎の凄腕板前、六蔵の連作短編集。料理屋「鬼八」で繰り広げられる義理人情噺もさることながら、料理の描写が細かく、読んでいるだけで和食好きにはよだれが出てきそうです。フードポルノ、夜食テロといった言葉がネットで流行りましたが、これはその小説版。時代”料理”小説とでも言うべき新ジャンルの小説でしょうか。
④月京妖し語り 風説百魔草紙
公儀陰陽方奉行、月京の妖怪退治シリーズ。
陰陽師は平安時代で京が舞台ですが、時代と舞台を江戸にうつしたようです。
様々な超能力を駆使して妖怪と戦う月京のアクション描写は時代小説というより、SFやモダンホラーのそれに近いと言えます。
実は剣豪アクション小説とモダンホラーを融合させると面白い小説ができるのでは、と以前から考えており、自分でもそのコンセプトで『魔左衛門』という作品を「なろう」に発表しました。
前回の蓮井遼さんのハイパーハードノベル同様、自分が考えていた新しいタイプの小説と同じものを書こうとしている人がいる、という思いから、この月京シリーズに注目しました。
拙作時代小説もご紹介します。
①日本左衛門がゆく!
②千鳥鉄の女
③魔左衛門




