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八話 気になる疑惑

「聖女って……それはヤバくないかレット」

「ああ……ヤバい」


 混乱のあまり頭の悪そうな会話をしてしまう僕たち。

 だが実際、相当に深刻な事態と言える。


 教国の聖女――世襲制ではなく、代々〔治癒神の加護持ち〕が務める、この国の象徴的存在だ。

 不思議な事に、聖女が亡くなる度に新しく〔治癒神持ち〕が教国に産まれ落ちているので、この国に聖女が途絶えた事は無い。


 しかし聖女には政務能力を求められていないとはいえ、実質教国のトップだ。

 聖女の世代交代が行われるという事は、国の代表が赤子になるという事になる。

 ただでさえ内戦の只中にいるような国なのだ、国内の争乱が激化するのは間違いないだろう。


 実際、代々の聖女が死去する度に、教国内は荒れて多くの犠牲者を出してしまっている歴史がある。

 ましてや今代の聖女はまだ若い……たしか僕と同じ歳のはずだ。

 先代の死去により内戦が激化し――十六年が経過して、ようやく国内に安定の兆しが見えつつある。

 そんな時に聖女の早逝となれば、また国内が荒れてしまうことだろう。


 この裁定神の予知は、対象の二人だけの問題では無い。

 対応を誤れば、教国内に多くの死傷者を出す事にも繋がるのだ。

 ……レットの顔色が悪い訳である。

 一個人の双肩に背負わせるには重すぎる問題ではないか。


「詳しい話を教えてもらえるかな?」

「……ああ。()()()()()()のは四日後。聖女と侍女が、刺客に暗殺される」


 苦々しい口調で語るレットだったが、僕には気になる点があった。

 予知夢の生起日の把握が、()()()()()()()()()()()()のだ。

 つまり、僕と最後に別れてからも〔経験〕を積んだのだろう。……だが僕には、その〔経験〕の詳細を聞くことが出来なかった。


 この憔悴した様相を見るだけで、容易に推察出来ることだ。

 レットを無駄に傷付けたくはない……いや、傷付きたくないのは僕の方だろう。

 レットの心情を言い訳にして、レットの傷に踏み込もうとしないのだから。


 ――僕の思索が聖女から遠ざかりつつあるのを察知したのか、ルピィさんが僕の代わりに質問する。


「暗殺? 聖女って、たしか〔神持ち〕が護衛に付いてるよね? やられたの?」


 それもそうだ。聖女はこの国の最重要人物である。

 たしか〔戦闘系の神持ち〕が常時護衛に付いているはずだ。

 戦闘系の神持ちといえば、軍国では〔軍団長クラス〕――おまけに聖女自身も神持ちなのだ。 

 最低でも二人の神持ちを相手どって暗殺なんて……ルピィさんくらいにしか出来ないだろう。


 神持ち二人と同時に闘うのは無謀だが、隠密行動を得意とするルピィさんのような人ならば、聖女が一人になっているタイミングでの襲撃が可能だ。

 ……いや、単独での犯行ならルピィさんクラスの能力を要するが、神持ち複数人での襲撃や、毒殺等の卑劣な手段を用いれば、聖女の暗殺も不可能ではない。


「護衛の存在は分かりません。俺が観たのは、大聖堂の廊下で折り重なるようにして倒れていた女性二人だけです。……そして、その遺体を見下ろしている視界の片隅に、血に濡れた剣が握られていました」


 以前から僕は気になっていた。

 予知夢は()()()()()()()()()() という事を。

〔裁定神持ち本人〕が未来に観測する光景とすると、辻褄が合わない事が多い。

 予知夢で死を観たからこそ、裁定神持ちが悲劇に関わる切っ掛けになるのだ。

 予備知識の無いクリアな状態で、対象二人の死亡をたまたま目撃するとは考えずらい。


 だが、レットの言葉ではっきりした。

 裁定神の予知夢は、〔対象二人の死亡を観測した第三者〕の視点による光景だ。

 つまり裁定神の予知夢は()()()()()()()()()()という事になる。


 いったい裁定神とは何なのだろう?

 明らかに他の加護とは毛色が違い過ぎる。

 ――いや、そんな事より大事な事がある。

 これだけはレットに確認しておかなければならない。


「レット、その聖女を襲った刺客って……()()()()()じゃないよね?」


 あの警備の厳重な大聖堂に、首尾よく侵入出来る人間というのは限られている。

 しかも神持ちの聖女を殺害せしめるほどの実力者となると、神持ちが多い教国でも五人といないはずなのだ。

 身内に有力な容疑者がいるなら、確認しておかねばなるまい。

 仲間が道を間違えそうな時は、そっと正しい道に導いてあげるのが――真の仲間というものではないか!

 ……しかし、僕がルピィさんを想う気持ちは伝わらなかった。


「ちょっと! なんでボクが聖女を殺さなきゃいけないのよ! 深刻そうな顔して何言ってんの!!」


 ルピィさんは激昂した。

 荒ぶるルピィさんは「こいつめ、こいつめ!」と、僕の頬をむぎゅーっと引っ張る……!


「あっえくああい……」

「ん〜っ? 何を言ってるのか聞こえないなぁ〜〜」


 ひ、ひどい! 僕には弁明すら許されていなかった……!

 僕を苛める行為に興が乗ってきたのか、ルピィさんはニヤつきながら執拗に攻めてくる。


 おのれ……実際にやりそうなんだから、そこまで怒る権利なんか無いはずなのに……そう、『なんかムカついたから』とか犯行後に供述しそうではないか……!

 レットなら僕の言わんとする所を分かってくれるはずだ、と、レットに視線を送るが――


「――ルピィさんではないな。身長はもう少し高そうだったし、おそらくは男だ」


 この男っ……! 

 僕が目の前で苛められているのに、平静さを崩さずに見て見ぬ振りをしている!

 なんたることだ……。まるで子供同士のイジメを目撃しても「あれは遊んでるだけ」と自分に言い聞かせて無かった事にしようとしている、事なかれ主義のダメ教師みたいじゃないか……!


明日も夜に投稿予定。

次回、九話〔哀しきサンマ事件〕

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