四話 盗賊の天敵
僕とルピィさんの二人旅も一カ月を超え、旅の仲間として違和感が無くなりつつあった。
親友のレットは今頃どこで何をしているのだろうなどと、頭の片隅で気を揉みながら――僕はルピィさんと〔好きな鍋〕について討議をしながら歩いていた。
そうなのだ、二人しかいないと……いつも議論は平行線のままなのだ!
こんな時にばかりレットのことを思い出すという事実に、僕が罪悪感を覚えていると――
「――あ。この先の街道で、盗賊が待ち伏せしてるね」
唐突にルピィさんが教えてくれた。
僕には何も見えないし、何も聞こえないが……視覚や聴覚が異常に優れているルピィさんなので、僕に感知できないナニカを察したのだろう。
いや、そんな事に思考を割いている場合ではない。
「野生の盗賊なんて初めてですよ! いやぁ……本当にいるもんなんですね!」
僕は野生の盗賊と出くわすのは初めてなのだ……!
図鑑でしか見た事がない動物を初めてみるような、そんな言い知れない高揚感により――僕のテンションは上がっていた!
もちろん、珍しい存在だからといって盗賊に手心を加えるつもりはない。
悪人はしっかり討滅しなければならないのだ。
「……なんでアイス君が目を輝かせてるのか、まったく理解できないんだけど……どうするつもりなの?」
おや、ルピィさんは盗賊の対処方法について知らないのかな?
ふふ、僕は父さんからしっかり聞いているので、ルピィさんに教えてあげるとしよう。
「そうですね、近くに街が無ければ皆殺しにしないといけないんですが……ふむ、ほど近いところに街がありますから、リーダーだけ残して全滅させましょう!」
盗賊にとっては幸いな事に、ゆっくり歩いても二時間かからないところに小さな街があるのだ。
いやはや……まったく運の良いリーダーである……!
「え、ええっ!? アイス君って結構過激だよね…………うん、でも賛成。生かしておいて得する事ないもんね!」
ルピィさんも快く同意してくれた。
制止役のレットがいない今、走り出した僕らは誰にも止められないのだ!
「――――おおっと、待ちな坊主ども! この道は通行料がいるんだぜ? なぁに金が無くても安心しろよ、お前らツラがいいからな。男の方がいいっていう貴族どもに売り捌いてやるよ。金が無くても殺さないなんてオレって優しいだろ? ぎょひひひっ……!」
ルピィさんの看破した通り、街道の両脇にある葦の茂みから、ぞろぞろと盗賊たちが飛び出してきた。
そして……聞き捨てならない台詞があったので、ついつい僕はルピィさんに報告してしまう。
「ふふ……ルピィさん、男に間違えられてますよ?」
「…………なにが面白いのかな、アイス君? ボクはちっとも面白くないんだけど……?」
「あ、う……すみません。調子に乗ってしまいました……はい、猛省します……」
冷え切ったルピィさんの声に、恐れをなして平謝りする僕。
――どうやら男っぽい外見を、僕が思っていた以上に気にしていたようだ。
客観的に見ても少し幼くは見えるが、綺麗な顔立ちをしているルピィさんだ。
ぱっと見、美少年か美少女で迷う外見なのだ。
しかし、ショートカットの髪型に加えて、とても控え目な胸部が後押ししてしまい、六対四ぐらいで〔美少年〕側に軍配が上がってしまうのは否めない……!
「そ、それじゃあルピィさん……あの優しい人だけを残して、他の連中を殺しましょうか?」
僕はまだルピィさんの冷気に怯えながらもそう提案した。
声を掛けてきた男だけが〔戦闘系の加護持ち〕のようなので、この盗賊団のリーダーだと予想したのだ。
「え〜、アイツを生かしとくの〜? ……まっ、街に連れてけばどのみち処刑されるか。いいよ、それで」
よし、ルピィさんの同意は得られた。
盗賊団のアジトには過去に奪った金品もあるだろうし、ちゃんと街で取調べを受けさせて、悪事をつまびらかにしなくてはいけないのである。
「おい、小僧ども! オレが優しいからって図に乗るなよ? この辺でオレたち〔草の団〕に逆らって、無事に済んだやつはいねぇんだからな!」
僕とルピィさんが呑気に話し合っていたので、怒らせてしまったようだ。
しかし、この地方の草原が根城だから〔草の団〕なのだろうか……?
総勢二十人近くいるので油断は禁物なのだが、どう見ても戦闘の素人集団なので緊張感に欠けてしまう。
それはルピィさんも同じなようで、まるで草むしりにでも行くかのような、面倒な作業をこなすだけといった軽い足取りで、盗賊たちに近付いていく――
――――。
――死屍累々。
屍はあちこちに散らばっていた。
あまりにも一方的な殺戮だったので、途中から盗賊たちは次々に逃走を図り――逃げる盗賊を、僕らが追い回して狩っていったのだ……!
なんだろう……まるでこっちが悪者のようだ!
僕だって心が痛いが、これも正義の為だ。
自分の手を汚す事をいとう訳にはいかない。
――うむ、まったく仕方がないことなのだ……!
予定通りに気絶させたリーダーを縛りあげていると、ルピィさんが戻ってくる気配がした。
逃げていた最後の一人を、ルピィさんは満面の笑みで追いかけていったのだ。
しかし何故あんなに嬉しそうなんだろう……ルピィさんってアブナイ人なのだろうか?
「ただいまー。最近はアイス君の相手ばっかしてたから分かんなかったけど、今のボクに敵なんかいないね! …………って、うぇえっ!? アイス君、なにやってんの!?」
どやぁどやぁと驚くほど慢心して帰ってきたルピィさんだったが、僕の行動を目にして驚きの声をあげた。
ふむ、どうやら僕の父さん仕込みの〔このやり方〕には、馴染みが無いようだ。
よし、この機会に教えてあげようではないか!
「おやおや、ルピィさんともあろうお方がご存知ないんですか? ふふ、僕も父さんに教えてもらったんですけどね。ほら、こうやって〔四肢を切り落とす〕と、コンパクトになって持ち運びが楽になるんですよ!」
ルピィさんは目から鱗が落ちる思いなのか、僕の解説に呆然としている。
ふふ……これぞ生活の知恵というやつだ。
もちろん、手足の根本はしっかり縛りあげて出血を抑えている。
なにしろ盗賊を街に連れていっても、事情聴取が終わったらすぐに処刑されてしまうのだ。
それならば後の事を考えずに、今の利便性を追求するのが正しい……!
この無駄を省いた冴えた手法――さすがは父さんだ!
「あ、もちろんですが、出血多量での死亡や出血性のショック死には気をつけてますよ? 僕は気遣いが出来る人間ですからね!」
「アイス君の凄いところは、それを本気で言ってるとこだよね……。それを持っていくのかぁ……ふぷっ。――いいね、凄くいいよ! さすがはアイス君!」
驚愕から冷静になったのか、ルピィさんは笑いを噛み殺そうとして我慢出来なくなったような顔で、僕を絶賛してくれる。
「よして下さいよ、照れてしまいますから……」
父さんから教えてもらったことなのに僕が大絶賛されてしまい、恥ずかしさから赤面して照れてしまう。
…………よし、あとは防水シートで包んで、っと。
「――よし、完成です! これでバッグの口を開ければ、ほら――『こんにちは』というわけですよ!」
バッグの中には白眼を剥いて失神している盗賊だ。
盗賊は『こんにちは』とは言ってくれなかったが、僕は自分の仕事ぶりに満足していた。
ルピィさんは大爆笑のあまり言葉にならなくなっている。
しかし……ちょっと笑い過ぎではないか?
盗賊とはいえ、失神している人を指差して笑うのはデリカシーに欠けている。
――そう、ルピィさんは人道的な配慮を学ぶべきだ……!
本日分終了。明日の夜からは、一話ずつ毎日投稿予定です。
次回、五話〔現れた狂人〕