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二話 トビウオの記憶

「――美味しい! コクがあるのに、くどくなくて……すっごく美味しいよ、このスープ」


 ルピィさんが粘りに粘った結果、すっかり夜になってしまったので、僕らは同一地点での野営二連泊となっていた。


「ありがとうございます。このスープは出汁にアゴ――そう、〔トビウオ〕の乾燥粉末を使っているんです。これは、臭みが少なくて独特の旨味があるんですよ」

「へぇ〜〜、トビウオなんて、この辺でよく手に入ったね」

「ふふ……少し前に王都に潜入した時に見つけたので、その時に買い溜めしておいたんですよ。……レットには怒られてしまいましたが」


 そうなのだ。

 市場で稀有なトビウオを見つけてしまったので、ついつい大量購入して、宿の裏手で干物にしていたら――「目立つ事してんじゃねぇよ!」と怒られてしまったのだ。


 宿の人にも干物をお裾分けしていたにも関わらずだ……!

 敷地を借りて干していたのだ、それぐらいは当然の礼儀である。

 宿の人にも好評だったのに……レットは頭が固くていけない。


「そ、そう……レット君、苦労してたんだね」


 何故かルピィさんはレットに同情的だが、僕は気にしない。

 丹精込めて作った晩御飯が褒められたので機嫌が良いのだ。


「こう見えても、料理には少しばかり自信があるんですよ。僕の将来の夢は、食事処の店を出すか、画家になるかで、どちらにしようか迷っているぐらいですから」

「ええっ、戦闘技能を活かした仕事じゃないの!? しかもその二つ、共通点が全く無いじゃん! アイス君がドコを目指してるのか全然分かんないよ!!」

「僕は闘うことが好きではないですから。……どっちにしろ、なんとか〔お嫁さん〕を見つけてからの話ですけどね」

「アイス君にそんな人並みの願望が存在してたんだ……女の子に全く興味が無いのかと思ってたよ」


 酷い言われようである。

 僕のような小市民が人並みに生きたいと願うのは、ごく自然な事なのに。

 結婚してくれる人が簡単に見つかるとも思えないが、意地でも見つけなくてはならない。


 僕の代でクーデルンの血を絶やす訳にはいかないのだ。

 妹のセレンがお嫁に行く可能性もあるが――駄目だ、考えたくない!

 セレンの結婚についての思考を脳裏から排除していると、どこか挙動不審ぎみのルピィさんに問い掛けられる――


「――ち、ちなみに、アイス君はどんな女の子がタイプなの?」

「僕の好きなタイプですか……そんな贅沢は考えたことも無かったです。う〜ん、強いて挙げるならば……そうですね、年上で背の高い女性とか良いですね」

「ふ、ふぅ~ん、ふぅ~ん……ふむ、ふむ、続けたまえ」


 何故か言葉遣いがおかしな事になっているルピィさんに促されて、僕は一番大事なことを高らかに謳い上げる――


「それから当然ですが――僕より強い人が良いです!」

「ハードル高すぎでしょ! いない、絶対にいないよ! そんな人間はっ!!」


 ひ、ひどい……! 

 僕だって高望みしてる事くらい分かっているのに、そんなにハッキリ言わなくたって……。

 途中までルピィさんは、ふんふんと頷きながら聞いてくれてたので、つい赤裸々に語りすぎてしまったのがいけなかったのか。


 もちろん外見を重視したりはしないが、同年代より年上の方が、背丈だって僕より高いくらいの方が……なんとなく頼りになる気がするのだ。

 それぐらいの願望は許してほしい……!


「……分不相応な高望みだってことは分かってますよ。でも、夢くらいは見てもいいじゃないですか」


 僕はちょっと拗ねていることを自覚しながらも、ルピィさんに反論した。

 第一、それほどの無理難題でも無いと思うのだ。

 僕より年上の女性なんて星の数ほど存在するし、身長だって僕はそれほど高い方でもない。

 ……ルピィさんだって僕より上背があるくらいだ。


「アイス君より強いって時点で、もういないでしょ。……いや、神持ちの女の子ならもしかしたら」

「いえいえ、僕は加護にはこだわりません。誰だって訓練さえすれば、僕より強くなります。……そう、ルピィさんだって数年くらい鍛錬を積めば、僕なんかよりずっと強くなりますから」


 加護は才能の目安でしかない。

 僕は父さんを救う為の仲間として〔神持ち〕を捜しているが、神持ちはあくまでも指標の一つだ。

 戦闘能力さえ高ければ、加護無しの人間だって喜んでスカウトするつもりなのだ。


「そ、そう? ……ま、まぁボクだってやられっぱなしは(しゃく)だから、アイス君に稽古をつけてもらうのもヤブサカではないね、うん」


 おおっ、ルピィさんの訓練意欲が高いぞ。

 これは素晴らしい――ルピィさんには最低限の強さを身に着けてもらいたいと考えていたが、本人のやる気が無いことには僕の独り善がりでしかなかったのだ。


「それはよかったです! 僕には色んな武器の心得がありますので、ご希望とあらば何でも教授しますよ。ルピィさんの戦闘スタイルなら……短剣――ナイフなんかが合ってるかもしれませんね。もちろんルピィさんが望むなら、ムチから鎖鎌まで何でも任せて下さい!」


 僕は物心ついた頃から、ありとあらゆる武器の扱いを叩き込まれている。

 ようやく、僕の鎖鎌(くさりがま)技巧が火を噴く時が来たのだろうか?

 なにせ使い方を習得したのは良いが、一生使う機会が無さそうなのだ。

 もしルピィさんが望むならば、懇切丁寧に教えてあげるとしよう。 

 もちろん鎖鎌は手元に無いので――イメージトレーニングで……!。


「……やっぱ、アイス君は戦闘職に就いた方が良いと思うな」


 ルピィさんの意見は聞き流した。

 得意な事とやりたい事は別物なのだ……!


 ――――。


「――いだだだっ……! いたいよ!! アイス君、頭おかしいんじゃないの!?」


 何をするにしても、まずは魔力操作の鍛錬からだろう――ということで、ルピィさんに魔力操作の基本を体感してもらっていたが、酷いことを言われてしまった。


「そんな……これは基本中の基本ですよ。料理で言えば『さしすせそ』みたいなものですから」

「こんな『さしすせそ』があるワケないでしょ! ボクが習ったイメージは『体の汗を拭き取る』ように体表の魔力を動かすって聞いてたのに、アイス君のは何なの!? 『皮膚を剥ぐ』ようにって意味分かんないよ!」

「ああ……それは教会で教えてもらったんですね? 普通の人ならそれでも良いんですが、魔力量の多い〔神持ち〕となると話は別です。膨大な魔力があるんですから、しっかり使わないと損ですよ」


 どうやらルピィさんは、街の教会で教えてもらった基礎に縛られているらしい。

 神持ちが周囲にいなかったのなら無理からぬ事であろう。

 今回は僕がルピィさんの魔力を直接操作して体感してもらったが、それが出来る人間すらいなかったに違いない。


「ホント、アイス君は……しれっとした顔で恐ろしい事をするね。こんなの無理でしょ……」


 早くもルピィさんは泣き言を漏らしている。どうやら痛いのは苦手らしい。

 しかし、これくらいで弱音を吐いてもらっては困る。


「大丈夫ですよ! 参考の為ということで、母さんに皮膚を剥がされた事がありますけど、実際にはもっと痛いですから!」

「――虐待! アイス君虐待されてるよ、それ!?」

「むっ……僕の母さんは虐待なんかしませんよ。ちゃんと治癒術で綺麗に直してくれましたから」

「……ご、ごめん。亡くなった人を悪く言うのは良くなかったね」

「いえいえ、分かってくれれば良いんです。本当に……皮膚を剥がされたところに塩を塗られると失神しそうになるくらいですから、魔力操作だけなら可愛いものですよ!」

「…………」


 ルピィさんは何かを言いたくて仕方がなさそうな様子で、もどかしそうにしている。どうしたんだろう……?


「はぁ……仕方ないなぁ。やりたくないけど、続きやろうか。……言っとくけど、ボクの反応が普通だからね!」


 どうやら僕が困った子供を扱うようにルピィさんに接していたのを、感付かれてしまったようだ。

 これは反省すべきだろう。


 妹のセレンが、同じ内容の鍛錬に呻き声ひとつあげなかったので、ついそれを基準に考えてしまっていた。

 セレンは優秀なだけではなく、とても我慢強い子だ。

 あの子と同等の水準で測るのも酷というものだろう。


 しかしこの魔力操作の鍛錬は、解術のような高度な術向けの鍛錬ではあるが、魔力を持て余している〔神持ち〕にも有用な鍛錬だ。

 是非ともルピィさんには、めげずに頑張ってほしいものである。


この後、20:30と21:30にも一話ずつ投稿予定です。

次回、三話〔ジレンマ〕

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