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神の女王と解放者~諸国漫遊記~  作者: 覚山覚
民国編

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二十話 温かな民国

 教国は内戦中ということを〔東側〕にいる時は実感することが無かったが、〔西側〕ではまさに噂通りの光景が広がっていた。

 割れて破片も放置されたままの窓ガラス。

 大通りにも路地にも漂う、鼻をつくような血と汗の臭い。

 東と西、同じ教国の中とは思えないほどの違いを見せつけられる惨状だった。


 ケアリィの暗殺を目論んだ人間は、おそらく西側の人間ではないかという話だ。

 ……たしかに、これほど荒んだ環境で生きていれば乱暴な手段にも抵抗が薄くなるのかもしれない。

 暗殺の目的としては、東側の聖女を暗殺する事で、新たな〔治癒神持ち〕が西側に誕生する事に賭けようという動きが西側にはあるそうだ。


 以前にも何度か暗殺未遂は起きており、実行犯がそう供述していたらしい。

 本来であれば、後顧の憂いを断つ為にも聖女を殺害できるような人間は抑えておきたいところだ。……だが、今回は起きてもいない暗殺事件なのだ。

 その犯人捜しは困難を極める。

〔裁定神の予知夢〕にしても、キセロさんが亡くなって以来観ていないそうなので、暗殺犯の特定はほぼ不可能だろう。……現時点では暗殺犯ですらないのだ。


 今の僕には、教国内の問題にかかずらっている余裕は無い。

 アイファに護衛を託して教国を後にするだけだ。

 僕の父さんの問題が片付いて気持ちにも余力が生まれたら、親身になって教国の――彼女たちの力になってあげるとしよう。


 僕は自分にそう言い聞かせながら、レットとルピィさんと一緒に荒廃した教国を駆け抜ける。

 これは教国内のトラブルに巻き込まれないようにする為であると同時に、レットの為でもある。

〔裁定神の予知夢〕の対象は、裁定神持ちからの距離に依存する。

 この、人の命が安そうな教国西側で滞留してれば、またレットは望まぬ夢を観てしまうかもしれないのだ。……長期滞留は避けるべきだろう。


 もちろんレット本人にそんな事を告げるはずも無い。

 ルピィさんあたりは察していると思うが、僕の意を汲んでくれているのか、何も言わずに付き合ってくれている。

 こうして僕らは半日も経たずに教国を駆け抜け――〔民国〕へと辿り着いた。


 民国――その名の通り、民主主義を標榜している国だ。

 僕の生まれ育った軍国や、隣の帝国などとは違い、国のトップが〔世襲制〕で引き継がれていく国では無い。

 民衆が議会のメンバーを選出して、その議会が国を運営していくというスタイルになっている。


 その有り様を初めて耳にした僕は、深い感銘に打たれたのだ。

 ……そう、平和と平等を重んじる僕の在り方とマッチしている!

 つまり僕はこの国に訪れるべくして訪れたわけだ。


 もちろん平和なこの国にも軍隊は存在する。

 その中核となるのは、やはり諸外国と同じく〔神持ち〕である。

 しかもこの国では一人の〔英雄的な神持ち〕を中心に、〔神持ち〕が徒党を組んで民国を防衛しているらしい。


 奇人変人揃いで協調性皆無と言われがちな〔神持ち〕が、集団行動を取っているのだ。……リーダーはよほど求心力がある人格者に違いない。


 そんなわけで僕の計画としては、まずは〔神持ちのリーダー〕に面会をして会話を交わし、それからリーダーを通して民国にいる神持ちの助力を乞う予定なのだ。

 ……なぁに、人格者のリーダーさんだ。

 僕が困っていると聞けば『うちの国から〔神持ち〕を五人くらい持ってきなよ』と快く協力してくれるに違いない……!


 なにはともあれ、まずは情報収集からだ。

 街の声もしっかり聞いておいて、リーダーが信頼に足る人物である事を確認せねばならないのだ。


「――情報収集ですが、ここは僕に任せてくれませんか?」

「アイス君が? 別にいいけどさ……」


 頼られるのが好きなルピィさんなので少し不満そうだ。

 だが、いつもいつもルピィさんに頼りっきりではいけないのだ。


 僕はルピィさんたちから離れて、大通りを歩く人々を観察する。

 今まで訪れたどの国より、この国の人々には笑顔が多いように感じられる。

 実際に治安も良く、生活も豊かな国なのだ。


〔金持ち喧嘩せず〕と言うが、あれは確かに事実だ。

 生活に余裕が無ければ心にも余裕が無くなる。

 軍国の貧しい辺境の村などは〔旅人=盗賊〕のような風潮すらある。

 ……見ず知らずの人に善意を施す余裕が無いのだ。


 そしてこの民国はどうだろう――僕と眼が合っただけで笑顔になる女性二人組。

 もちろん僕も、にこっと微笑み返す。

 興奮したような様子で囁きあっている女性たちに手応えを感じた僕は、親しげな笑顔を保ちながら話し掛ける。


「どうもお姉さんたち、こんにちは。もしよかったら……そこのお店で、お茶でも飲みながらお話しませんか?」


 きゃいきゃい騒ぎながらお姉さんたちは了承してくれる。

 うむ、さすがは民国。人々の心が温かい……!


「あちらに僕の連れがいますので紹介しますよ」


 レットとルピィさんを見て――女性たちは更に温かくテンションを上げる。


「やだ、君たちもカッコいいね。彼女とかいるんじゃないの〜?」


 おっと、いけない。女性たちは誤解をしている……!

 明らかにルピィさんも〔男枠〕に加えられているではないか!

 ルピィさんが爆発したら大変な事になるので、僕は急いでフォローを入れる。


「待って下さいお姉さん。こちらの方はこう見えても女性ですので、ゆめゆめ誤解無きようにお願いします」

「『こう見えても』ねぇ……あっさり女の子を連れてくるようなアイス君は言う事が違うね〜」

「いやぁ、僕だってやる時はやるんで……あいをうっ……」


 僕を褒めていたはずのルピィさんが突然の暴挙に及ぶ!

 憎しみをぶつけるように「このやろ、このやろ!」と僕の頬を限界に挑戦するように伸ばす……!

 なんてことだ……せっかく出来た新しい友人がドン引きして、僕から距離を置いているではないか。


 ……幸いな事に、出来る男レットが上手くカバーしてくれたので、僕らは約束通りお店に入店することは叶った。

 だがお姉さんたちは、僕との関わり合いを避けるようにレットとばかり話していた。……僕が連れてきた友達だったのに。

 いつものように意気消沈する僕を、いつものようにルピィさんが満足そうに観察していた。


明日も夜に投稿予定。

次回、二一話〔空神〕

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