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十四話 超絶技巧

 あれから聖女たちとの話し合いの結果、僕らはしばらくここに留まるようにという事で――大聖堂内に客室を用意される運びとなった。

 結局のところ、僕とルピィさんはレットの邪魔をしただけのような気もする……いや、雨降って地固まるだ。


 ルピィさんや僕があの場をかき乱した事により、皆が体裁を捨て去って議論が活性化されたのだ……!

 そうだ――僕はいらない子なんかじゃない、世界の歯車として必要なんだ!

 ルピィさんも役立たず扱いを受けて落ち込んでいるかもしれない。

 こうしてはいられないぞ――


「――そうです! 僕にはルピィさんが必要なんです……!」

「え、ええっ!? き、急にナニ言ってんの、アイス君……?」


 おっと、つい感極まって思いの丈を口にしてしまった。

 戦力外通告のショックが後を引いていたせいだろう。

 思わずルピィさんを励ますのに気合が入り過ぎたではないか。


「これは失礼、考え事をしていたら感情が暴走してしまいました。いやはやお恥ずかしい……」

「も、もう! ビックリさせないでよ! ……アイス君はホント、いっっも唐突にワケ分かんないこと言い出すんだから」


 ルピィさんは膨れっ面をしながらも機嫌が良さそうである。

 ふむ、元々戦力外通告を意に介していなかったのか、僕による存在肯定で復調したのかは分からないが、元気なのは実にいい事だ。


「……相変わらずアイスたちは騒がしいな」


 わいわいやっている僕らに、同室のレットが苦言を漏らす。


「――これはこれはレットさんじゃないですか! いやぁ、さすがに聖女お気に入りのレットは言う事が違うね! 僕はもう、ただただ非を悔いるばかりだよ」


 話し合いから追い出された恨みが残っているので、ついつい皮肉で応対してしまう僕。


「ホントホント、ボクらがいないのをいい事に、レット君は聖女とヨロシクやってるんだもんね! いやぁ、スミに置けないなぁ〜」


 すかさず乗っかるルピィさん。

 ――そしてルピィさんの言う通りなのだ。

 聖女が僕とルピィさんを見る目は、贔屓目に見ても〔軽侮〕といったところだが、レットを見る目は〔信頼〕に満ちていた。


 聖女からすれば――レットは容姿に優れ、常に自分を立ててくれる同い年の〔神持ち〕なのだ。

 レットに対する態度を見る限り、聖女のお気に入りであるのは明白である。


「妙な小芝居はやめろ……それに、そんなんじゃねぇよ。アイスとルピィさんがあまりにヒドい振る舞いだったから、相対的に俺がマシに見えてるだけだろ……」


 むむっ、僕とルピィさんを同列に並べるとは、失礼にも程がある。

 たしかに結果的には、僕もルピィさんと同じように聖女たちを怒らせてしまった訳だが、僕はしっかりと礼節を遵守していたのだ。

 最初から喧嘩を売っていたルピィさんとは雲泥の差だ……!


「おいおい、失礼じゃないかレット。いくらなんでもルピィさんと一緒にしないでよ」


 さしもの僕もレットに反論してしまう。

 そして麗人ならぬ〔無礼人〕のルピィさんが――当然のように噛みついてくる!

 ――そう、ルピィさんには自分が無礼だという自覚が希薄なのだ!


「いやいや、それはコッチの台詞だよ! ボクはアイス君ほど挑発的なコトしてないからね!」


 さっきまでは結託してレットを攻めていたのに、またたく間に仲違いをする僕たち。……だが、これは譲れないのだ。

 僕のプライドに懸けて、ルピィさんのような無法者と一緒にされる訳にはいかない……!


「いや、二人とも酷いからな……とにかくアイス。明日の話し合いの間は、ルピィさんと部屋の隅で〔あやとり〕でもしてろよ」


 バカにしてる……! なんてやつだ!


「いくらレットでも、そこまでバカにされたら黙ってる訳にはいかないな! いいか、あやとりは由緒正しき娯楽なんだ。あやとり『でも』だなんて――そんな卑下するような発言は聞き逃す訳にはいかない……!」

「怒るところ、そこなんだ……」


 ルピィさんが意表を突かれたような呟きをこぼす。

 ……やれやれ、二人ともあやとりの無限の可能性に気付いていないようだ。

 一人でも複数人でも遊戯可能とする〔無限遊戯〕の力、いつかその眼に焼き付けてやる……!


 ――――。


 予知夢が示す日まで〔あと三日〕となった次の日。

 僕らは再度、話し合いの席を設けていた。

 ……といっても、僕とルピィさんは話し合いに参加していない。


 聖女も付き人も、『なぜ従者風情がこの大事な話に参加するのか!』という酷薄とした主張を崩そうとはしなかったので、僕の心は折られてしまったのだ……。

 彼女たちの差別意識は相当なものである。

 一国の代表がこれでは、この国の未来は暗い……!


 ともあれ、彼女たちが強硬に僕の介入を拒絶する以上、この場で僕が出来る事は何も無い。……もちろん、二人の生命を諦めた訳では無い。

 彼女たちを刺激しないように、陰ながら予知を防ぐべく暗躍するだけである。


 そう、僕が表立って評価される必要性は無いのだ。

 結果的に二人が無事ならば、僕の扱いなどは些細な事に過ぎない。

 そんなわけで、現在僕とルピィさんが何をしているかと言えば――


「――すごい! ルピィさんは上手そうだと思ってましたが……想像を絶する技術ですよ!」


 まさに超絶技巧!

 空前絶後のテクニックに僕は大興奮していた……!


「アイファ、アイファ! 君も見てごらん、これは一見の価値があるよ!」


 さっきからチラチラとこちらを盗み見ていた槍神――アイファにも声を掛けてしまう。


「な、馴れ馴れしいぞ、貴様っ! だいたい何を興奮している、たかが()()()()ではないか――っ、これは!?」


 ルピィさんの造り出した芸術作品を目の当たりにしたアイファは、軽んじるような発言を止めて息を呑んでいる。


「ふふ〜ん、どうだ! これぞ名付けて〔大聖堂〕!!」


 ――そう、ルピィさんの指が紡ぎ出していたのは、まさに〔大聖堂〕!

 信じがたい事に細い紐を巧みに操作して、僕らがいる大聖堂を忠実に再現しているのだ。

 これはルピィさんが得意満面になるのも無理は無い。


 僕はルピィさんへ――〔あやとり神〕の称号を送ろうと思う!

〔あやとり名人〕だなんて言葉で片付けていいレベルでは無いのだ……!

 僕がルピィさんにあやとりの素晴らしさを見せつけようと思っていたのに、逆に見せつけられてしまうとは……。

 あやとりには自信があったのだが、これでは比較対象にすらならない。


「しかしこれは本当に凄まじいな……一体何がどうなっているのだ……?」


 アイファはすっかり素直になって感嘆の声を上げている。

 そうなのだ、優れた芸術作品は世界の合言葉だ。

 思想や立場が異なれども、共通の感性で芸術に惹かれる心は繋がっているのだ……! 

 よし、この機会に僕らも更なる友情を育んでいくとしよう。


「――アイファ! 何をしているのですか!!」


 僕が決意を新たに定めた矢先に――空気の読めない聖女が叱責の声を飛ばしてきた。


「も、申し訳ありません、聖女様……」


 アイファは恥じ入るように反省している。

 なんたる理不尽だ。アイファは何も憚るような事はしていないのに……〔モンスター上司〕を持つ友人の苦労が偲ばれる。

 ……いや、ここでこそ僕の出番ではないか。

 友人として、しっかり慰めつつ励ましてあげるべきであろう。


「怒られちゃったね…………ドンマイ!」

「き、きっさまぁぁー!!」


 怒らせてしまった。

 おかしい……優しくアイファに同情しつつ、心を軽くするような軽快な言葉で励ましてあげたのに。

 アイファが騒いで掴みかかってきたせいで、レットが「またアイスか……」という呆れた目で僕を見ているではないか……!

 ……そんな困惑を隠せない僕を、ルピィさんが満足そうな笑顔で見守っていた。


明日も夜に投稿予定。

次回、十五話〔相互理解〕

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