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十話 責めない心

「――裁定神、様……? し、少々お待ち頂けますか?」


 レットが加護を伝えて聖女への面会を申し入れたところ――大聖堂の門番が慌てて中に駆け込んで行った。

 基本的には、大聖堂の門戸は一般人には開かれていない。

 教国各所にある聖堂は、国民から旅の人間まで出入り自由となっているが、聖女が常駐する大聖堂は厳重な警備体制が敷かれているのだ。


「すごいねレット、()()()()だって。……いや、僕もレット様と呼ぶべきだね!」

「やめろ……」


 レットは苦虫を噛み潰したような顔で僕の提案を拒絶する。

 だが実際、レットの従者という設定を通すつもりなので、怪しまれないように敬称で呼ぶべきだろう。

 レットの嫌がる顔は見たくないが仕方ない……!


 ――僕とルピィさんは応接室で待たされていた。

 レットは加護を〔調術〕で調べてもらっている最中だ。

 さすがに『オッス、オラ神持ち』と言っただけで、即〔神持ち扱い〕されるような事はないようだ。

 当然と言えば当然の措置である。


 僕とルピィさんは加護を聞かれてもいないので、特に自己申告もしていない……ルピィさんがどんな虚言を並べるつもりだったのか、気にならないでもないが。

 ちなみに僕の持っている〔治癒の加護〕も、この教国では優遇されているので申告してみても良かったのだろう。

 だが従者が有用な加護を持っているというのも、無益に注意を引いてしまうだけになりそうだったので自制したのだ。


「――ルピィさん、聖女ってどんな人か知ってますか? 評判とか……」


 応接室での時間潰しがてらルピィさんに話題を振った。

 ……これはルピィさんを退屈させない為でもある。

 ルピィさんは暇を持て余すと、よく問題行動を起こしてしまうのだ。


「う〜ん……年に一回だけ、国民の前に顔を出して挨拶するだけらしいから、人となりまでは分かんないね」

「あれ? 〔治癒神持ち〕なんですから、病人の治療もやってるんじゃないんですか?」


 治癒神ということは、治療のエキスパートだ。

 聖女の練度にもよるだろうが、普通の治癒術士が匙を投げるような患者ですら、聖女には治せるポテンシャルがあるはずである。

 てっきり難病の患者が長蛇の列を作っていると思っていたのだが……。


「あ〜、ないない。教国の聖女はただのお飾りだよ。下手したら治癒術を使った事すら無いかもね」


 なんと、それは勿体ない。

 治癒術士にとっては〔治癒神の加護〕なんて垂涎モノなのに。

 聖女に会ったら治癒術のコツでも聞こうかと思っていたのに、これはとんだガッカリ聖女じゃないか……!


 ……いや、いかんいかん。

 勝手に期待して勝手に失望するなんて、向こうからすればいい迷惑だ。

 僕と聖女は同じ歳らしいし、新しい友達を作るくらいの気持ちでフレンドリーに攻めてみるとしよう。

 ――僕らがそんな会話を呑気に交わしていると、少し疲れた顔をしたレットが応接室に入ってきた。


「おう、待たせたな。……今から聖女に面会させてもらえる事になったぞ」

「なんだかあっさり叶ったね、もっと苦労するかと思ってたよ。さすがは神持ち、いやさ――レット様!」

「やめろ……まじでやめろ……」


 ふむ、レットが本気で嫌がっているようなので、これぐらいにしておいてあげよう。

 僕は友達想いなのだ……!


 しかし本当に、意外なほどあっさりの面会だ。

 仮にも国のトップに面会するというのに、事前にアポイントも取らずにいきなり会えてしまうとは。

 これがこの国における〔神持ちの威光〕という事だろうか?

 もしくは、聖女は治癒術で人を治していないとも聞くし……意外と暇なのかもしれない。


「とにかくアイス、問題起こすなよ? ……ルピィさんもですよ?」


 全く失礼な男である。

 僕もルピィさんもこれで空気が読める人間なのだ。

 僕らがいかに立派な従者を演じられるか、曇っているレットの眼にも焼き付けてみせよう……!


 ――――。


「――貴方が裁定神ですか。わたくしに挨拶へ訪れるとは殊勝な心掛けです」


 聖女の態度は実に尊大だった。

 まるで全ての神持ちの上に〔治癒神持ち〕の自分が君臨していると、言外に語っているかのようだ。

 ……しかしある意味では予想通りと言える。


 ただでさえ神持ちには自信過剰な人間が多いのだ。

 しかもこの子はただの神持ちではなく、幼い頃から国の象徴として崇められてきた〔治癒神持ち〕の聖女である。

 これぐらい傲慢な人間であるのは想定内だ。

 しかし、無礼な輩を前に――うちの〔ご意見番〕が黙っているわけがない……!


「――なんか生意気なヤツだね。あんなの放っておいて良いんじゃないかな?」


 もちろんヒソヒソ話ではなく、相手にも聞こえるほどの声量である。

 客観的に見ればルピィさんもかなり無礼で生意気ではあるのだが、そんな指摘が出来るはずもない……!


 幸いと言っていいのかは分からないが、この謁見室には人が少ない。

 まずは言わずと知れた〔聖女〕。

 第一印象はワガママなお嬢様だ。……先の発言により僕の受けた印象は補強されたと言える。


 次に聖女のすぐ横に立っている女性。

 雰囲気から察するに、聖女の〔付き人〕さんだろう。

 二十代前半ぐらいで、ちょっとキツそうな印象を受ける女性だ。

 ルピィさんの奔放な発言を受けて、キツそうな眼がさらに釣り上がっている。


 一番の問題が最後の一人だ。

 おそらく〔護衛〕の役割を担っている、槍を持った若い女の子である。

 年齢は僕や聖女と同じくらいだろう。凛とした顔立ちで、曲がった事がなによりも嫌いそうな、峻厳とした雰囲気を感じる。


 そしてこの子は――〔戦闘系の神持ち〕だ。

 僕の視たところ武器系の加護。

 槍を持っている事であるし、〔槍神の加護持ち〕と考えて相違無いはずだ。

 綺麗な顔立ちをしている子なのだが、今は眉間にシワを寄せてルピィさんを親の仇のように睨みつけている……。


 しかしこれはマズい。

 まだまともに会話も交わしていないのに、早くも険悪な空気が漂っている。

 もうレットは頭を抱えそうな顔をしているではないか……その顔にはちゃんと書いてある――『連れてくるんじゃなかった』と……!


 よし――ここは気張り名人こと、僕の出番だ!

 僕は、常に人の気持ちを考えているような気配り上手なのだ。

 この程度の危難のフォローなど造作も無いことよ……!


「まぁまぁルピィさん、そう結論を急いではいけません。ここは目を瞑ってあげなければいけない所ですよ? たしかにこの聖女は性格が悪いです。しかし……しかしですよ? 彼女はずっと箱入りで育てられてきた世間知らずなんですよ? 多少性格がネジ曲がってしまうくらいは当然の帰結じゃないですか。ここは寛大な心で許してあげましょう!」 


 ……完璧だ。

 聖女本人を非難する事なく、育った環境が悪いから仕方ないと結論付けたのだ。


 それはまるで、犯罪者に対してコメンテーターが、『彼は悪く無いのです、彼を取り巻く環境が悪いのです』などと言って、巧みに論点をすり替えるかのよう……!

 当の聖女も、感激のあまり言葉が出せなくなっている。

 口を小さく開けたまま、ポカンとした顔で僕を見ているのだ。

 ――そう、僕は君を責めはしない!


明日も夜に投稿予定。

次回、十一話〔深まってしまう疑惑〕

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