人化と王都
「皆、ここで俺からうれしいニュースだ! 俺は遂にっ、遂に……人化のスキル覚えちゃいました!!!」
「おおっ! 主、おめでとう!!」
「それはそれは……おめでとうございます、ベルゼ様」
「いや~、ありがとう、ありがとう! うむ、苦しゅうないぞ!」
俺は人化のスキルを得ることができて調子に乗っていた。
だから忘れてたんだ。
俺が調子に乗ると必ずしっぺ返しにあうということを……
「マスターおめでとう~。でも条件は大丈夫なの~?」
「へっ? 条件って?」
「あれ~? 知らないの~? 元の体が人型から遠ければ遠いほど~、ステータスやスキルに縛りがかかるんだよ~」
「たっ、例えば……?」
「そうだね~、私ならMP半減とスピード半減とかかな~」
ジュエルでそれかよ……
俺人型がどうこう以前に粘体のスライム何ですが? ……嫌な予感しかしねぇ。ステータス閲覧!
《ステータス閲覧が発動しました。
『人化』 ……人に化ける能力。化ける前の体の形により縛りの強さが変わる。》
ここまではジュエルも言っていたし気にしなくていい……
問題は縛りの方だ、ステータス閲覧!
《ステータス閲覧が発動しました。
縛り(ベルゼ=スライムクン)……HP以外の全能力値が百分の一になり、スキルもほとんど使えなくなる。アルスでのSS級冒険者並の力を持つ。》
もうやだ……。何で能力が百分の一になるだけではあきたらず、スキルもほとんど使えなくなるんだよ! いくらなんでもやり過ぎだ!!
「なあ、三人とも。何でだと思う……」
「ああやはりですか。ベルゼ様、残念ながら魔王というのが関係しているようです。ただでさえスライムというだけで人型からはほど遠いというのに、体が魔王では……それだけの縛りがかかるのは仕方がありません。」
「だが主よ、あまり心配要らないのではないか? SS級冒険者といえば各国(人間側の国)に二人ずつしかおらぬほどの実力者達で世界に10人といなかったはずだ。」
「えっ? そんなに珍しいんだ。」
「ああ、そのはずだ。」
「それならまあ大丈夫か……。んじゃまあ気持ち切り替えて人化してみっか!」
「人化!」
使った瞬間体の構造が変わり始めた。ぐにゃぐにゃぐにゃ……
人の形になるってのは意外と変な気分だな……ずっとスライムだったせいか?
やがて体の構築を終える。
「皆、どうだ?」
「あっ、主……なのか?」
「これはこれは……予想以上でした。」
「マスター、かっこいい~」
どうやら人化は成功したようだ。
しかし皆の反応が気になる。どんな姿なんだ?
「ベルゼ様、氷魔法で作り上げた鏡です。よろしければお使いください。」
俺が疑問に思ったのを感じたのかアスタロトが鏡を出してくれた。
んで俺の姿はっと……
まず当然のことながら肌は薄い水色から肌色になったのはいい。
問題は顔と体だ。
まず顔の方はというと、きれいな黒髪に中性的な顔立ち。ってかめちゃくちゃ美少年じゃねえか。
前世の俺とは似てもにつかねえが美少年なら問題なし!! 人化さんグッジョブ!!!!
一方体はとても線が細く、一見か弱そうに見える。
守ってあげたくなる可愛さだ。
「うん。最高だ! これなら外に出てもやってけるぞ!!」
俺は喜んでいたが、ふとジュエル以外の二人が妙に静かなことに気づいた。
「セシル、アスタロトどうした? 顔が赤いけど何かあったのか?」
「あったと言いますか、今もあると言いますか……」
「あっ、主……頼みごとがあるのだが。」
「何だ? 俺達は家族だろ? 遠慮せずに何でもいってくれ!!」
「そうかなら言わせてもらう……服を着てくれ!! 正直あなたを見ていると変な気分になってしまう!!」
「あっ、ずっとスライムだったから忘れてた!」
セシルが最後に変なことを口走った気がしたが、俺は気にせず服を着ることにした。
「あっ、でも服ないわ。どうしよう」
「ベルゼブブ様のがありますので早く着てください!」
美少年全裸事件(危なすぎるな)もセシルとアスタロトをなだめることでなんとか収束を迎え、牢屋の奥に置いてあった魔方陣で、遂にダンジョンを出ることに成功した。
「外だーーーー!!!!!!!」
「主よ、嬉しそうだな!」
「本当ですね」
「二人はマスターが裸だったとき嬉しそうだったけどね~」
「「それは言わないでくれ!(ください)!」」
それじゃあ町に向けてレッツゴー!!……
「……誰か道わかる?」
「ううん~」
「いや?」
「知りません」
はーい! 早速つんだー!! はあっ……
んじゃとりあえずあっちの方に行くか。
やって来ました!! 奥さん街ですよ、街! しかもとてつもない広さの。ここまで来るのに四時間もかけちまったぜ!
んじゃとりあえず通るか。
「身分証をお出しください。」
「身分証? 持ってるか?」
「ううん~」
「いや?」
「ありません」
……どうしよ? てかなんかデジャブだ。
「申し訳ありませんが身分証をお持ちでない方はお通しできません。」
その時アスタロトが何か思いついたように俺に言う。
「魔王の紋章を使われてはいかがでしょう?」
「それいいかも! 門番さん、これでいい?」
俺の手の甲に蠅の紋章が浮かび上がる。
「えっ? ひっ! しょ、少々お待ちください!!!!」
あれ? なんかやらかしちゃった?
はあ~い、僕魔王です!
今僕はお城の一室にいま~す! ……どうしてこうなった?
ここはどうもアルスラ王国の王都であり、これからアルスラ王と個人面談?的なことをするらしい。
御菓子と飲み物を用意してくれたメイドさん達が教えてくれた。
あっ、ちなみに皆は観光中だよ、いいなー!
「ところでメイドさん、このクッキー美味しいね。どうやって作ってるの?」
俺が訪ねると一人のメイドさんが答えてくれた。青髪のクールそうな人だ。
「そちらは最高級の砂糖をふんだんに使用しひとつひとつ丁寧に 私が、そう私が作り上げました。」
なんかこの人自分が作ったことをやけに推してくるな……それだけの自信作ってことか。
「そうなんだ、美味しいね! (ニコッ)」
「うっ、ああっ、もう死んでもいい……」
「邪魔者……じゃなかった、メイド長が倒れたわ! 即座に休憩室に運びなさい!!」
今邪魔者って聞こえたんだが……
気のせいだよね!
俺は気にせずお茶菓子を堪能した。
メイドAside
「邪魔者……じゃなかった、メイド長が倒れたわ! 即座に休憩室に運びなさい!!」
メイド長が倒れ、次は自分がお客様の相手をと皆必死です。かくいう私も同じですが……
何故こんな事態になったのか。
それは二十分ほど前のことです。
私達メイドは、今日もいつもと変わらず自分の仕事をこなすだけのはずでした。ですが王より、お客様が来るのでしばらく相手をしてくれという命令がでてしまいました。
もちろんここは王城ですのでお客様が頻繁にこられます。しかし今回のお客様は魔王様とのこと、一度でも失敗すればそれは死を意味します。
私達は心身恐々としてお待たせしているという一室に向かいました。
「こんにちはメイドさん達! (ニコッ)」
そこにいた、いえ、いらっしゃったのは美の象徴のような方でした。
「「「「よっ、ようこしょお越しくだしゃりました!」」」」
あっ、皆噛んだ……
そこにおられた方はとても魔王とは思えない優しく、気配りもできる絶世の美少年で、メイドである私達にもとても良く対応してくださいました。
「へぇーそうなんだ! 知らなかった! 教えてくれてありがとう。(ニコッ)」バタン!
そして何と言ってもこの笑顔!!!!
また一人仲間が倒れました。まさにキラースマイル!! かっこいいー!! こっち向いてー!
……失礼、少々興奮してしまいました。
それから一時間後、私達はほとんどの者が倒れ、息も絶え絶えとなっておりました。ガチャッ……
「お待たせしてすまない。ってうおっ! メイド達が気持ち悪い顔で倒れているではないか! ベルゼ殿、何かあったのか?」
「わかんない。 まあいいじゃん! それよりとっとと話し合いを始めようぜ! 俺もこの街観光したいし!(ニコッ)」
最後に笑顔を見た後、私は意識を失いました。
ああっ、悔いはない……バタン!
「メイドさん達こえぇ! 何でバタバタ倒れていくの?!」
「なるほど、わかったわい……女性なら仕方がないの。」
「えっ、マジ? 何で? 教えてくれよ。」
「まあそれはいいではないか。観光したいなら早く話を済ませたほうがいいと思わんか?」
「それもそうか。んじゃ話し合いを始めようぜ!」
大国の王と魔王の話し合いは、そんな感じにゆる~く始まった。
遅くなったぶん少し長めです