アスタロトと覚醒
「牢屋?」
十階層、そこはじめじめとした牢獄のような場所だった。
そんな牢獄の一番奥には巨大な鎖で何重にも拘束され、何かの魔方陣に捕らわれた赤い髪の着物美女がいた。
俺達は急いで鎖を外し、魔方陣は俺の暴食で食らった。
「えーと……アスタロトさん? 大丈夫か? って何急に泣いてんの?!」
「ついに……ついにここまでたどり着いてくれましたね。この時を何百年待ったか。アスタロトと呼び捨てでお呼びください。ベルゼブブ様よりこれらをお渡しするよう仰せ付かっております。」
アスタロトさん……いやアスタロトは、アイテムボックスから石を二つ取りだし手渡してきた。
なんだろう? 鑑定!
《覚醒石……覚醒魔王としての覚醒に必要な石。ただし一定以上の力がないと石に判断されると体が爆発する。覚醒魔王が次の代のためにひとつだけ造り上げることができる。》
《名付け石(暴食)……名付けができるようになる石のなかでも暴食の名を受け継げる特に優れた石。適任者でないと爆発する特別製。世界に七種類しかない。》
どっちの石も恐いわっ!! 使うの躊躇うぞこれ……
どっち先に食べよう? 正直両方とも食べたくないな~これ。
鑑定せずに食べりゃ良かった。……ああもうっ!! やってられるかどっちも食ってやる!
おりゃ!
もぐもぐもぐ……
《名付け石(暴食)が発動しました。名前を決めてください。》
名前か。俺のネーミングセンスは皆無だからなぁ……
カー君みたいにスライム君とか!
…………………。
あほらし、ちゃんと考えよ。
《承認しました。スライムクンに決定しました。名前変更……完了しました。》
はっ……えっ! ちょい待て!!!! ちょっと考えただけだぞ?! えっ俺スライムクンなの? 冗談だろ……
すっ、ステータス閲覧!
うっわー……名前がベルゼ=スライムクンになってる。
…………………あきらめよっ!
《覚醒石が発動しました。進化及びスキル統合を行いま……》
何だ? 急に眠くなって……やばい
「マスターだいじょ……」
「主!しっかりし……」
二人のそんな声を最後に俺は意識を手放した。
聖王セラムside
「!! はあ……ついに来たか。」
「もしや、ベルゼブブの件ですかな?」
「ああ、今神託があった。三代目ベルゼブブが覚醒したと……」
「それはなんとも……恐れていたことが起きてしまいましたな」
「うむ、しかしどうやら悪いことばかりではなさそうじゃ。性格はそれなりに温厚で要らぬことをしなければ問題ないらしい。ただ怒らせると国を簡単に滅ぼせるだけの力は手にいれたようじゃ。宰相この神託の内容を急ぎ周辺国へ知らせ、三代目暴食之王に手出しをしないよう忠告するのだ!」
「はっ!」
聖女セイラside
私はセイラ、セラム聖王国で聖女をしております。
突然ですが最近、私には1つ悩みがあります。
それは、後数か月で学園に通い生活をしなければならないということです。
昔の私は、自分の立場についてなにも知らずに外でいたずらばかりするような、活発的な女の子でした。
しかし大きくなるにつれ、周りの態度がよそよそしくなり、友達と思っていた子達は私からどんどん離れるようになっていきました。
私は戸惑います。
どうして皆離れていくの?
寂しい日々が続きました。
そんなある日、私のもとに一人の男の子が遊びにきました。久しぶりの同年代の子供です、私は当然喜びました。けれど……
「君がセイラか、可愛いね~。僕のお嫁さんにしてあげるよ!」
その子は私の体をなめ回すように見たあとそんなことを言いました。
気持ち悪い……
それ以来私は人に対して不信感を持ちはじめ、何度か似たようなことが続きやがて人をあまり信頼できなくなってしまいました。おじいさまに聖女としての仕事に集中したいので、その子達との婚約はなしにするよう説得しました。
しかし私ももうすぐ15歳、学園に通わねばならない歳になります。
けど困ったことに私は例え学園に行っても人を信頼できそうにありません。
どうすれば学園で人と関わらずうまくやっていけるだろうか?
そんな悩みを抱きながら、今日も私は職務をこなします。
セシルside
「主! しっかりしてください!」
「だいじょうぶですから落ち着きなさい二人とも、覚醒するために体の造りを変えているだけです。じきに目を覚ますでしょう。」
アスタロト殿からそういわれ私達は我に返る。
「そっ、そうか。すまない……」
「僕も騒いじゃってごめんね。マスターが起きるまで従魔空間にいるよ」
ジュエルが従魔空間に消えていったところで、アスタロト殿がおもむろに口を開いた。
「あなたはベルゼ様に仕える者、間違いありませんね?」
「ああ、そうですが?」
「ならば少し伝えておきたいことがあります。初代暴食之王様の側近としての言葉です、心して聞きなさい。」
「! ゴクッ……はい」
初代魔王の側近としての言葉となれば一言も聞き逃すわけには行くまい。私は気合いをいれ、続きをうながした。
「ではベルゼブブ様についてお話ししましょうか。、あの方を語るならまず、その圧倒的なまでの力についてがはずせませんね。あの方は、それはもうあり得ないほどに強かった。序列は二位ですが、あれはかの初代魔王様方が若かりしころにとある勝負を行ない決めたものです。ベルゼブブ様が死ぬ数年前には、その戦闘技術により大罪の中でもだんとつの強さを誇っておられました。実際、神で一番の実力者であるゼウス相手にも片手間で有利に戦いを進められるほどでしたから……。けれど私達が油断し人質にとられたせいであの方は亡くなられてしまいました……」
「……」
「長々と話しましたが言いたいことは簡単です。主の足手まといにだけはなっては行けません。 自分がいつでも主の盾になれるよう鍛え、寄り添い続けなさい。それだけです。」
「……しかしそれならば主より強くなればもっと安全に守れるようになるのではないか?」
「あなたは魔王を舐めすぎです。一度敵対してしまえば、どんなに本気で攻撃しても傷ひとつ付かず、微動だにしない。そして淡々と、そして確実に潰しに来る。あなた達が全く歯が立たなかったフェンリルでさえも一撃で消し去る。覚醒した魔王とはそういう方達です。」
私は、死に物狂いで頑張ればいつか追いつけるのではないか? 、とそんなことを思ったが言葉にすることはできなかった。
なぜなら心の奥底では納得してしまっていたからだ。
実際に、私達が全く相手にならなかったフェンリルが初代怠惰之王によって、片手間に消し去られるのを見てしまった。
そして一つの思いが浮かぶ。
もう私は必要ないのではないか?
そんな不安が唐突に沸き、恐ろしく感じはじめてしまう。
と、そこでまたアスタロト殿が話しかけてきた。
「あなたは今、自分がもう役に立たないのではないか、なんてことを考え恐怖を感じているでしょう。わかりますよ、私にもそんな時期がありましたから」
「えっ……?」
「大丈夫、どんなに魔王様方が強くても隙はできてしまうものです。そこをサポートできるように頑張ればいいのですよ。あなたは要らなくなんてない、この方のために必要な存在です。自信を持ちなさい。」
心が晴れるような気がした。
そして私は一つの決意をする。
「私、頑張ります。アスタロト殿、私に仕える者としての作法を教えてくれないか?」
「ふふっ、迷いは晴れたようですね。いいでしょう、ただし私は厳しいですよ? やるからにはびしばしやらせてもらいますからね?」
「ああ、望むところだ! 師匠!」
もう悩まない! 私は主に、ベルゼ様に必要としてもらえるように頑張ります。
だから……早く目覚めてくださいね。
これからもなんとか二日に一回は更新するようにします
ステータスをまとめるのでダンジョンを出るのは次の次になるかもしれません
ごめんなさい
セイラが人を信頼しなくなる理由が弱いのでつけたしました。