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時計様と声無し魔王  作者: 緋那詩 秋菜
1/1

時計の針は動き出し、

どさり


そんな音が鳴った気がして気だるげな青年は薬を作る手を止めた。

彼の名はシャル。黒に近い青の髪を持ち眼鏡の奥に同じ色の瞳を持つ昔有名だった魔術師だ。

今はポンコツ。

気のせいだと思い手を再び動かすも

「...なんだったんだろう」

気になるのがオチである。

集中力がないのはいつものこと、そう割り切り家の扉を開いた。

カーテンを閉め切っていた家ではあたらなかった日の光が彼を襲う。

まぶしすぎる久しい日の光は少々きつい。

目を細め彼は目の前を見る。

数十歩ほど歩けば彼の軟弱な足でもつくところにあるこの国を、この空を分かつ強大な風の壁。これのせいでどれほどの人間が悲しんだだろう。

反対を見やればシャルの住む森から遠く離れる街に不釣合いな細い円柱の風の壁。なかには時計塔がある。そして、時計様も。

しかし、それはシャルにとって関係のないこと。興味なんてもともとない。

これからのことに若干予想がつきつつも鬱蒼とした森を病的なまでに白い青年は歩き始める。彼の白さの原因は内職とも言える薬作りしかしない彼の生活にあるのだが。

開始早々、蔓や、虫にローブを引っ掛け時間をとり心が折れかけるも興味には抗えない。

そもそも、音からして近いと思ったのだが。大体あっちの精神で大雑把に動いたのがまずかったか。

「うぅう...どこなんだよー」

これで例えばダイヤとかが落ちててそれを見つけたら億万長者なのに...

そんな時きらりと何かが光った。

おそるおそる近づく。

「...人?ちぇっ...」

倒れている人間がそこにいた。魔力を感じないからまず魔法使いではない。媒体を使っている可能性はあるけれど。武器の類は持っていないから敵対する可能性は低いと。それにしたってこの人間不憫である。何の罪もないのにいきなり「ちぇっ」っだなんて。

安全性を確認し、じっと眺める。金に近い男にしては長すぎるプラチナブロンドの髪の毛。瞳の色はまぶたが閉じられ伺えない。

しばし迷う。場合によってはものすごい面倒くさい。というよりどう動いたって面倒くさい。置いていってもいいかな。それとも...

「やっぱり、まじめに動くべき...?かなぁ...?」

問える友人は今、いないけれど呟いてしまう。

一度ため息。

「よっしゃ、やるかぁ」

手をまるで指揮するかのようにふれば、まるで長老とかが持っていそうな長い杖が現れた。

青年の外見をしたシャルには合わないが、それを打ち消すほどのなにか強い力をもっていた。

ポン、と倒れた人物のことを軽くたたけばふわりとその体は浮く。今ではこんなことすら杖無しではできない。

とりあえず、この人間の治療だ。

歌詞も忘れた唄を歌詞無しに口ずさみながら帰っていく。

「...あれ、家どっちだっけ?」


~~~


大体同じころ炎のような瞳を持つ青年はとにかく必死に逃げていた。何かに追われて。

頭から血を流しながら。何かにつかまったら死ぬ。なんとなく、そう感じ、ろくに傷も直さず走っていた。

そもそも、追われる意味がわからない。なぜ?自分が何をした?

身に覚えなどひとつもない。

街に入り、人並みに隠れてもその人を殺してまで奴は追ってくる。曲がり角を右に曲がり、左に曲がり、柵を飛び越え、どこかに一時的に身を隠してもやってくる。

「ひゅっ...けほっ...」

弱い肺が悲鳴を上げているが無視をする。今止まったら死ぬから耐えろよ!そう必死に自分に語りかけて。

走る足ばかりに目を向けていた顔をふっと上げた。絶望するほど高い風の壁。はじめ見たときとても遠かったのにこんなに近くまで。どれほどの距離を走ったと言うのか。

西に逃げれば鬱蒼とした森、前は壁、後ろは怖い何か。

廃屋だらけの東しかねぇ!

振り向かず追ってくる何かの気配を感じるように勤める。

あと、四百メートルそこら。まだ、引き付けなくては。

三百メートル。あと、45秒でくる。

二百メートル。周りの時間が遅く感じる。

百メートル。あと、15秒。


手が伸ばされて、


五十メートル。8、7、6

今だ


身をかがめバネのように東に跳び、前回りして勢いそのままに立ち上がり走る。

追いかけてきた何かが驚いたのがわかる。寸前で気を緩めたのはまちがいだったな!

物陰に隠れ、これでもかと言うくらい息を潜める。

ばれるな、ばれないでくれ。

足音が聞こえる。木の踏まれる音。たんすか何かが破壊される音。存在を無くしたくなるくらいとにかく息を潜めた。

足音が過ぎ去り音がなくなっても、じっとし続けた。アレは、こうでもしておかないと来てしまう。必ず。

どうして追われるのかわからないまま逃げ続け、今、必死に隠れ、もう散々だ。

考えているうちにおおよそ三十分。ようやく深いため息をついた。

そして、緊張の糸が切れたのか、彼はゆっくりまぶたを閉じ、眠気に抗うこともできず、深い眠りに落ちていった。


一方で、赤い瞳の彼に逃げられた奴は口を開く。

「あーあ、逃げられてしもうた」

静かに、狂気を含んで笑った。


主演は揃い幕は開く。天をも分かつ風の壁。別れた彼らは何を願う。時計塔は時を刻む。

ただただ時間が過ぎ行くばかり。

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