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俺が魔剣、妹が聖剣に転生した件  作者: 梨野可鈴
第一章 剣に転生した兄妹
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魔剣になった俺(03)


 †††


 俺は、ノエルに運ばれ、ダンジョンを出た。俺のいたダンジョンは地下にあったらしく、階段を上って出た先は、森の中だった。


 ダンジョンの入口は、マンホールみたいな感じで地面に開いた、地下への扉だった。ケルンはそこを出ると扉を閉めた。


「黒の刃を守りし扉よ、道を閉ざせ」


 ケルンがそう唱えると、扉に描かれた紋様が一瞬赤く光った。

 ケルンは二度、扉を引っ張って開かないことを確かめた後、その上に軽く土を被せた。森の中で、扉は完全にどこにあるかわからなくなった。


(おお、今のは魔法か!?)


 ダンジョンの入り口を封印する魔法的な!?

 俺は再び、ファンタジー世界に転生したことを実感した。ああ、伊織が見たら感動しただろうな……。



「では姫様、戻りましょう」

「うむ、お腹が空いたな」

「村の者に、姫様の好きな焼き菓子を用意させておりますよ」

「よし! 早く行くぞ!」


 どうやら、これから二人は近くの村に戻るらしい。

 魔剣を手にいれたノエルは、上機嫌でスキップでもしそうだ。

 途中、過保護のケルンが、「姫様、魔剣をお持ちしましょうか?」と言っていたが、ノエルは自分で持つと言い張った。

 ……これは、子供が買ってもらったばかりのオモチャを離さないのと一緒だ。

 小さい頃の妹で見覚えがある。デパートに行くと床に寝転がって駄々こねたんだよな、伊織は。

 それを見ていた当時の俺も相当小さかったはずだが、そんなことを急に思い出した。


 しかし、俺はノエルとケルンを見て思う。魔王のノエルはもちろん、それに仕えるケルンも魔族なんだろうが、見た目は普通の人間と変わらない。


 この世界の人間にまだ会ったことはないから、正確には判断がつかないが、少なくとも、俺の前世で知っている人間に近い容姿だ。

 耳が三角に尖っているわけでもないし、牙や角やコウモリみたいな羽が生えているわけでもない。二人ともまあまあ美形だが、魔性の力で人を魅力するという程でもない。


 確か、人間から魔族を守るとかどうとか言っていたが、そもそも、魔族と、人間との関係についても分からない。

 この世界についての情報を知りたいが、剣に人格があることに気付いて講義してくれる人もいないだろうから、地道に周りの会話から推測するしかないか。


 俺がそんなことを考えているうちに、森を抜けたのだが――


「あ、あれは?」


 ノエルが指差した先を見て、ケルンが険しい顔をした。

 遠くに見える村から、煙があがっていた。


「な、火事か? 急いで助けに行かねば!」


 火事と聞いて、俺の心がざわついた。幸い、あまり苦しんだ記憶はないが、俺は伊織と共に火事で死んでいるから。


 ノエルは慌てて走り出すが、ケルンは咄嗟にその肩をつかんで止め、少し迷うような表情をした。

 多分、ケルンはノエルを村に連れていかず、ここで待たせるべきか迷ったんだろう。しかし、ノエルを一人にする方が危険と判断したのか、ケルンはノエルを肩車で担ぎ上げた。


「失礼します、姫様!」


 そして全速力で走り出す。

 うお、この従者すごい。鎧着て、旅の大荷物持って、おまけに少女一人担いで走ってるよ。

 ノエルは、唇を噛んで、炎のついた家を見つめていた。


「何があった!」


 ケルンは騒ぐ村人たちの中に飛び込む。カントリー風の服を着た、村娘らしい女性が、怯えた顔で振り向いた。


「た、助けて……!」


 彼女の指差す先には、火を吹き出しながら進む、煉瓦作りの人形――ゴーレムがいた。



 ゴーレムは、よく前世のゲームで見たような、煉瓦を組み上げて作った人形のような形だった。だが、実際対面すると、デカさに圧倒される。

 それだけではない。ゴーレムの両手の拳は、それ自体が松明のように真っ赤に燃えていた。


「ゴーレムだと……? しかも、炎の魔法を使うのか」


 ケルンはノエルを肩から下ろした。


「姫様は、村人達とお逃げ下さい!」


 言うや否や、背負っていた槍を構えると、ゴーレムに突っ込んでいく。

 ええ!? 大丈夫なのか!?


「ケルン!」


 残されたノエルは慌てた。俺も内心慌てている。

 ケルンは鍛えているし、それなりに強そうなのは確かだ。しかし、である。


(せめて、ノエルに渡した怪力手袋くらいは、装備していけば!?)


 あるあるだよな。ゲームでも、ボス戦の時に大事な道具がふくろに入ってて使えないとか、死んだ仲間が装備してたとか……。

 しかし、俺がそんなことを考えている間、ノエルは覚悟を決めたらしい。


「皆の者! 急ぎ、村から逃げるのだ! 女子供と老人は先に村を出よ、若い男は手分けして逃げ遅れた者がいないか探すのだ!」


 ノエル自身も少女だが――そこは、さすが魔王と言うべきか。しゃんと背筋を伸ばし、混乱する村人達に指示を出す。


 チラッと、ケルンの様子をうかがえば、感極まったような顔で頷くのが見えた。多分、ご立派です姫様……とか考えているのだろう。


 ケルンはゴーレムを引きつけ、相手の動きをよく見ながら、炎のパンチを避けることに専念していた。牽制のために槍を振り回すも、闇雲に攻撃することはない。

 なるほど、あくまでケルンは陽動で、その間にノエルと村人達を安全な場所まで逃がすつもりなのだろう。

 さすがにあの固そうな巨体を倒すのは難しくても、しばらく注意を引くくらいは、何とかなるかもしれない。


 ……しかし、ノエルは指を突きつけて宣言する。


「我が民を襲うなど許さん! ゴーレムめ、この魔王ノエルが相手だ!」


 いきなり何を言い出す!?

 視界の端で、ケルンがずっこけたのが見えた。


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