聖剣になった私(03)
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はい。勇者選びは、難航しています。
あのおじさんの後も、勇者候補に名乗りを上げた人が、次々に聖剣――私に近付いてきた。それを私は、片っ端から拒否してしまっていた。
だって、聖剣に宿る、純情乙女の魂が、見ず知らずの男の人に触られるのを拒むんだもん。前世では彼氏もいなかったんだもん。
まあ、放課後や休日は家にこもってダラダラしてたもんね……。でも、お兄ちゃんだって彼女はいなかった、断言できる。
いや、神父さんや騎士さんも男には違いないんだけど……その人達には触られていたといえば、そうなんだけど……。だって、勇者候補の人たちって、汗臭くてむさ苦しいのばっかりなのだ。
一瞬持たれるだけでなくて、勇者として認めてしまうと、ずっとその人と一緒になるわけで、そう思うと、うん、ゴメン。
あと、自分に魔法っぽい力が宿っていることが分かったので、試しに使いたいという気持ちもあった。そうして何度も使用しているうちに、能力の本質は、バリアーを張る感じだってことが分かってきた。触られたくないものを、自分から遠ざける感じ。なお、能力は、『結界』と名付けました。
何回かやっているうちに、結界の力加減もコントロールできるようになってきて、勇者志願者が三十人目を超えたあたりで、派手に吹っ飛ばすなんてことはせず、やんわりとお断りできるようにもなってきた。
剣の周りに、うすーく結界を張るのだ。触った人はピリッとする程度で済む。
そんなこんなで私が、自分の能力を試すのに夢中になっていると、騎士さんが険しい表情で呟いた。
「むむ……集まった者の中に、勇者はいないというのか……」
あ。ヤバい、勇者候補を断りすぎたか。
「そうなると、私自ら聖剣を持って、地方を探し回らねばならないではないか……ようやく最近、結婚したというのに……」
ぶつぶつ言う騎士さん。私のせいで単身赴任になっちゃうんですか! も、申し訳ないです。
そろそろ本気で選ばないと、と私が思った時、広場の中心に進み出たのは――長い栗色の髪を三つ編みにした、綺麗な人だった。
「なんだ、女かよ」
広場の見物人の中から、そんなヤジがあがった。
私も、今までの勇者候補は全て男だったから、彼女の姿を見て驚いたのは確かだ。
だけど、場の雰囲気は明らかに彼女を馬鹿にしている。剣になった以上、性別は微妙だけど、私も女の端くれ、その言葉にはムッとする。
きっとここは、男女雇用機会均等法とかない世界なんだろう。だけどね、ゲームの世界では結構前から、勇者の性別が選べたのだぞ!
私は、凛とした表情で私を見つめる彼女を観察した。
彼女は、胸はないけど、背が高くてすらっとしていて、スタイルがいい。顔立ちは中性的で、色も白い。緑色の瞳は切れ長で、本当に美人だ。
(よし、勇者は彼女にしよう!)
きっと女の子同士の方が仲良くできる。
だって、剣と持ち主の仲がいいのは大切なことだもん。武器と使い手の友情が、強くなるのに重要と、相場が決まっているのだ。
進み出た彼女は、私の柄を握った。それだけで、人々から驚きの声が上がる。
何せ、今まで誰一人、剣に触れることさえできなかったのだ。
彼女自身も、一瞬驚いた顔をするが、すぐに左手で鞘を掴み、私を抜く。シャラン、と金属の擦れる音がした。
ようやく戦う資格を持った相手が現れたことに反応して、ゴーレムがゆっくりと腕を振り上げ迫る。
「はっ!」
彼女は私を振るい、ゴーレムに斜めに切りつけたが、ゴーレムは固く、一瞬動きを止めただけで、また向かってくる。
ぶつかった瞬間、ゴーレムの固さが私には分かった。あ、痛みがあるとかではなくて、何となくそう分かるのだ。
目がないのに周りが見えるのだから、皮膚みたいなものがなくても、触れたものの感覚は必要に応じて分かるらしい。新しい発見。
どうやらゴーレムは石の塊のようだ。余程の怪力でないと傷つけることはできないだろう。
しかーし、私には『結界』があるのだ。
彼女が再びゴーレムに攻撃する瞬間、結界を発動! 金色の輝きが剣を包み、人々がどよめく。
結界の中で彼女を守るイメージで、ゴーレムだけを弾き出す!
「えっ……!?」
一番驚いたのは、聖剣を握る彼女自身だったかもしれない。
軽く振るった剣が光り輝いて、ゴーレムを吹き飛ばしたのだから。
「な、名前はなんというのだ」
ゴーレムが倒れたのを見て、慌てて騎士さんが彼女に名前を聞いている。どうせ駄目だと思っていたから、名前を聞いてなかったみたいだ。
「セラです」
「セラ。そなたを勇者として認める!」
騎士さんが高らかに宣言する。
「勇者……」
まだ実感が沸かないのか、セラはその言葉を繰り返した。そして、私を不思議そうに見た後、ゆっくりと鞘に戻した。
よろしくね、セラ、と、私は心の中で話し掛ける。伝わってはいないけど、それでもパートナーには挨拶するものだよね。
聖剣に選ばれた勇者、ここに誕生っ!