最後の戦い(01)
セラはノエルを片腕に構えたまま、宙に立っている。今は、俺の風魔法で浮遊させている。
(お兄ちゃん、大丈夫?)
(助かった……だが、どうするか)
何しろ、目からビームを出しやがる。
「聖剣か魔剣、どちらかだけでも、ラプラスゴーレムに届けば……」
ぐっ、とセラが聖剣を持つ手に力を込めた。ラプラスはお構いなしに、口をがば、と開いた。何やら赤い光みたいなものがどんどん集まっていく。
(破壊光線が来る!!)
すぐさま、風を操って上空に逃げる。
(……お兄ちゃん、ラプラスの真上に行って!)
(分かった!)
俺はラプラスの真上に逃げるが、ラプラスの首はぐりん、とありえない方向に曲がり、俺達を追う。
「ノエル!」
ラプラスの真上まで来た時、セラは抱えていたノエルを前に突き出すように投げた。前に向かって飛び続ける俺の風魔法の範囲から外れ、セラと伊織は真っ直ぐにラプラス目掛けて落ちていく。
「セラ!?」
(ちっ……無茶しやがる!)
防御性能なら、聖剣の方が上だ。対して空中の機動力は、空を自由に飛べる魔剣の方が上。
セラと伊織は、破壊光線を発射しようとするラプラスに、真っすぐ上から突っ込んでいく。
(俺達も行くぞ!)
「う、うむ、うわああ!」
旋回からの、ターン、急上昇。俺とノエルは、戦闘機のようなアクロバティック飛行で、ラプラスに斜め下から迫る。
だが、ラプラスの頭は三つある。残り二つの首がこちらに向き、レーザーを放った。
(奴も恐らく全方位が見えてるはずだ、死角はない!)
「あ、あう」
ノエルは返事をする余裕がない。さっきからジェットコースターなどの比ではないほど空中を振り回されているからだ。悲鳴をあげてないだけ偉い。
「はあああ!」
セラが思い切りラプラスに聖剣を降り下ろすが、あと数メートルというところで、ラプラスの口から巨大な赤い光線が放たれる。
(う……うりゃあああ!)
伊織が、渾身の力を振り絞ったような声を上げた。こちらまでバリバリと振動が伝わるほどの衝撃だ。あの結界の能力を持ってしても、簡単には防ぎきれないのか。
「イオリ、耐えて……!!」
光線に飲み込まれ、姿は見えないが、苦しげなセラの声が確かにした。
くそ、こっちはこっちで、二つの頭の両面から発射される、計四本のビームを避けながらだから、簡単に近付けないんだ!
だが――さらにラプラスゴーレムの六本の腕が、ガチャガチャと奇妙な動きを始め――その手の上にそれぞれ、炎を生み出す。その炎が、赤い光線の中のセラ目掛けてぶつけられ、大爆発を起こした。
「ケンゴ!」
(ああ!)
ラプラスに近付くのを止め、俺達は吹き飛ばされたセラと伊織に向かって飛ぶ。ノエルの小さな手が、どうにかセラの手を掴み、俺達は空中に再び静止した。
「あ……ありがとう」
セラは、荒い息をしていた。あちこちから血を滲ませ、服もボロボロだった。だが、あれほどの攻撃を受けて、この程度の傷で済んだのは、やはり聖剣の力なのだろう。
(強すぎるよっ……!)
伊織は嘆くように言う。だが、諦める訳にはいかない。
(大丈夫、勝てるはずだ……!)
俺は、伊織やノエルに、何より自分に言い聞かせるためにそう言った。
相手は強いが、勝てるはずだ。かつて、ロイバンシュビッチとシャデラリーゼルの二人がかりで、ラプラスと戦って封印してるんだから、やれないことはない。
だが、そんな俺達を見透かすように、ラプラスは絶望的な言葉をこちらに投げる。
『あなた達が私を破壊する可能性を計算――あなた達は私に勝てません――』
「何を言うか! お前は一度負けているのだぞ!」
ノエルが噛みつく。
『確かに、過去、ロイバンシュビッチとシャデラリーゼル、魔剣、聖剣の四つの魔道具を合計した戦闘能力は、私を僅かに上回りました。しかし、今対峙しているのは魔剣と聖剣、そしてゴーレムより遥かに劣る人類が二人。加えて私は、個体シャデラリーゼルの人工魂を取り込み、計算性能を上げています』
(……なんだって?)
ラプラスが、シャデラリーゼルの魂を取り込んでいる?
「確かに……人工の魂は同化する可能性が高いって、ロイバンシュビッチも言っていた……」
セラは呆然と呟く。
ラプラスは、冷たい機械仕掛けの声で、淡々と告げる。
『あなた達、人に選択肢はありません。脆く、壊れやすく、過ちを犯す、魔道具より遥かに劣る存在は、世界のために消えるべきなのです。理想の世界のために、消えるのです』
「そんなこと……!」
『いいえ。現にあなた達は、私に今ここで劣っています』
――誰も、何も言い返せない。
傷一つなく、こちらを見下ろすラプラス。対してこちらは、疲労し、傷付いている。
(そんなのない……だからって、みんなみんな、殺していいはずない!)
伊織の言う通りだ。
だが――俺達は反撃できないでいる。
ラプラスがこちらに、三対の冷たい目をむけた。俺と伊織は、それぞれの能力で対抗しようとした、その時――
「――ラプラス!」
突然、黒い人影が、俺達とラプラスの間に割って入った。
ロイバンシュビッチだった。だが――何だ? どうにも何だか、違和感がある。
(ねえ、何か……怒ってない?)
同じ違和感を、伊織も感じていたらしい。
あの冷徹とも言えるほど無表情なロイバンシュビッチが、怒りをあらわにしていた。




