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俺が魔剣、妹が聖剣に転生した件  作者: 梨野可鈴
第四章 忘れられた過去
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俺は魔王の武器として(05)


 翌朝――城の庭には、甲冑に身を包み、剣や槍、弓矢などを背負った兵士がずらりと整列していた。


 ノエルは城のテラスに立ち、マントをたなびかせてそれを見下ろす。少し緊張しているのか、汗ばむノエルの手が、俺の柄を握った。


(大丈夫だ、ノエル)

(……うむ、ケンゴ)


 ノエルもまた、心の中で俺に答える。小さく息を吸ったノエルは、堂々とした声で兵士達に呼びかけた。


「――皆の者、これから我々は、戦いに出る。敵は、古代遺跡のゴーレム。危険な戦いになるであろう。だからこそ、我々は民を守るために戦わねばならぬ!」


 ノエルの演説に合わせ、兵士達が声をあげた。

 鎮まるのを待ち、ノエルは続ける。


「だが――お前たち兵士もまた、我の愛する民である。よいか、誰一人として死ぬな。再び帰るのだ。これは――魔王ノエルの命令であるっ!」


 ノエルは俺を抜き、黒い剣を高々と掲げた。日の光を反射したと同時に、ノエルの体がふわりと浮かび、兵士達の頭上を飛んだ。兵士達の間にどよめきが起こる。


 ふっふっふ。驚いているな。

 何しろこれが、俺の新しい能力、飛行能力なのだ。


(ケンゴ……やっぱり怖いのだが……)


 ノエルが困った様子で心を伝えてきた。だよな。今、ノエルは地上5メートルくらいのところを飛んでいる。正直、俺もちょっと怖い。

 この飛行能力というのは、新しい能力というか、風を操る能力の応用版というところだ。

 飛行機や鳥が飛ぶことができるのは、翼の上下で異なる速度で空気が流れ、揚力を生み出すためである。つまり、空気の流れをコントロールできれば、空を飛べるということ。


 ロイバンシュビッチに折れたのを修理してもらった時に、ちょっとしたメンテナンスも同時にしてもらったようで、能力の調整が今までよりうまくなった。

 そのため、風を器用に操って、自分の周りくらいなら自由に空を飛ばせてやれるようになったのだ。

 風の流れを調節して、ふわっと兵士達の先頭に下りた。


「さあ、行くぞ!」


 やっぱり空が飛べるってのは、カリスマがかっているのか。

 士気の上がった兵士達は、ノエルの掛け声に合わせて、一斉に進みだした。



 城を出てすぐのところで――こちらに向けて走ってくる人がいた。


「ノエル様!」


 どうやら国の兵士らしい。彼は持っていた荷物をノエルに差し出した。


「……これ、双子水晶じゃないっすか」


 ノエルの代わりに包みを受け取って開いたキースが言う。双子水晶は、確か前に村で見た。確か互いに姿が映る、通信用の魔道具だったな。

 兵士が頷いて報告した。


「ケルン様より預かって参りました。もう片方はケルン様の手元にあります」


 だが、双子水晶は真っ暗で、どうやら向こう側では布か何かに包まれているらしい。


「ふむ……この双子水晶、声は伝わらないのだな。困ったぞ」

「そうっすね……向こう側から覗いてくれないことには、呼びかけられないっすから。とりあえず俺が預かって、見ときましょうか?」


 だが、キースが言った瞬間、ちょうどタイミングよく、水晶がぱっと明るくなった。

 映っていたのは、明るい部屋。セラと、ケルンと――あっ、わかりにくいが聖剣の伊織もちゃんとセラの腰にいる。

 あと、立派な服を着た知らない中年の男の人。誰だ? ノエルも同じことを思ったらしいが、キースがすくに説明してくれる。


「――どうやら向こう側は、人間の国の城っすね。あの真ん中のおじさん、人間の王様っすよ」

「な、なに!?」


 慌てるノエル。唐突に首脳会談が始まってしまったからか……。


 向こうも、水晶を覗き込んだ途端、俺達の顔が映っているのに驚いたらしい。ケルンがすらすらと紙に文字を書いてこちらに示した。


『姫様、こちら側で人間の王に事情を説明致しました。すぐに可能な限りの戦力を遺跡地帯に向かわせてくれるそうです。』

『分かった。我々魔族も兵を遺跡地帯に向かわせている。人間の王よ、初にお目にかかる。私が魔王ノエルだ。協力感謝する』

『私にも民を守る義務がある。強大な敵の前に、一時的に手を組むこと、兵達にも納得させている』


 ――というやり取りを、水晶を介した筆談で行われた。

 なお、俺は文字が読めないので困っていたら、キースがさりげなく俺に触れて内容を伝えてくれた。気配りのできる奴だな。


『人間の王よ、そのことなのだが、この戦いが終われば、一度ゆっくりと話す場を設けてはもらえないだろうか』


 ノエルが紙に書いて水晶に示す。人間の王様は、じっくりとこちらを見ていた。


『人間と魔族は長く争い、そして断絶してきた。だが、その断絶により、我々はこの度のことで互いを疑った。ラプラスゴーレムの真実が明らかにならなければ、我々は無益な争いをしていたかもしれない』

『交流を求めるというのか?』

『そうだ。一時的にではなく、魔族と人間は、永く良き友として歩むことはできないだろうか』


 ノエルが提案したのは、魔族と人間の和解だった。

 俺にそれを伝えるキースの声が、少し震えていた。


 水晶の向こう側で、ケルンとセラも驚いている。


『――若き魔族の王よ。確かに私も人間と魔族の争いの真実を聞いた。我々の戦いの歴史が操られていたものであること、争う理由はなかったこと』

『ならば』

『だが、我々が長く争い、血を流したのは紛れもない事実である。その溝と憎しみは容易いものではない』

「だがっ!」


 ノエルは感情を高ぶらせ、水晶に詰め寄る。文字を書くのも忘れ、水晶の向こうに向かって叫んだ。


「我々のこの戦いは、未来を勝ち取るための戦いではないのか!? 我らに続く世代のために戦うのだ! ならば――続く未来のために、我々がその可能性を潰してはならないのだ!」

『……。』


 おいおいノエル、言っても音声は伝わらないぞ――という心配は無用だったらしい。ケルンが人間の王様に話している。キースが、ケルンは読唇術が使えるので大丈夫だと教えてくれた。なるほど。


『容易いことではないのは分かっているのか、魔族の王よ』

「甘いと言うのであればそれでも構わない。だが、我は諦めぬ。真の平和を勝ち取る、その日まで」


 王様は、しばらく考えた後、ぽつりと何か呟いたらしく、口が動いた。


「……容易いことではないからこそ、我々王がしなくてはならぬ仕事か……、と今、王様が言ったっすよ」

(――え、お前も読唇術使えるわけ?)


 キースが肩を竦めながら、こっそり向こうの話した内容を伝えてくれた。

 キースもケルンも、マジでできる奴だな……。


『良かろう、話の席を設けよう。だが全てはこの戦いの後の話。まずは目の前の敵を倒すことを考えるとしよう』

「……うむ!」


 ノエルは胸を張った。


「ところで、魔剣さんは、聖剣さんに伝えたいことはないっすか?」

(ん、ああそうだな、互いに直って良かったし。お?)


 水晶の向こうで、セラがさらさらと流れるような字を書いて、こちらに見せてくれた。どうやら伊織からの伝言らしい。キースが読み上げてくれる。


「えーっと、『お兄ちゃん、ノエルちゃん本当にいい子だね! しっかり守ってあげてよ! ラプラスの前で会おう、絶対この世界を守ろうね』……だ、そうっす」

(はは……了解)


 それじゃ、まあ。

 ラスボス戦に、向かうとしようか。


★キャラ紹介


■魔剣ラグナロク

 性別:男?

 魂を宿すことのできる魔鋼オリハルコンによって作られた魔道具の剣。

 古代文明において、人間を滅ぼそうとした魔道具ラプラスの魂の半分をその身に封印していた。

 異世界の男子高校生の魂を宿すことができたのは、オリハルコン製の剣が魂の器となりうる状態だったため。魔道具「心運びの石」を埋め込むことで、剣に触れている相手と意思疎通が可能になった。

 オリハルコンは世界の全ての物質より強靭という性質を持つため、魔剣ラグナロクを折ることができるのは、同じくオリハルコン製の物質のみ。そのため、風を操る能力を使わずとも、その素材だけで名剣。

 前世の名は「武藤 健吾」。



■聖剣エクスカリバー

 性別:女?

 魔剣と同じく、魔鋼オリハルコンによって作られた魔道具の剣。ラプラスの魂の半分をその身に封印していたが、折られたことにより魂の器とならなくなり、その魂を放逐した。

 魔道具「心運びの石」を埋め込むことで、剣に触れている相手と意思疎通が可能になった。ロイバンシュビッチの修理後、エクスカリバーもまた、能力の操作が繊細になり、結界を駆使することで、剣の装備者の身体能力をアシストすることを覚えた。

 前世の名は「武藤 伊織」。



■セラ

 性別:男

 聖剣エクスカリバーの所有者。聖剣エクスカリバーの能力「勇者モード」により、攻撃力、防御力、素早さともにトップクラスの戦闘能力を有する。美形の容姿が金色のオーラに包まれる様子は、まさに勇者。

 容姿端麗で女性に間違われるが、それを本人は決して快く思ってはいない。本当に身も心も男性。

 字が上手で、非常に達筆。故郷の村では手紙の代筆を頼まれるほどだった。



■キース

 性別:男

 魔族の母と人間の父を持つハーフの青年。魔道具「幻惑の弓」を所有。

 母からは軽い身のこなしと弓の扱いを、父からは冷静で深い思考能力を受け継いだ。読唇術が使えるなど、そのスペックはなかなか侮れない。魔族の血を引いていることを隠しながら王城に勤め、勇者の護衛に選ばれただけのことはある。

 実は六人兄弟の長男。



■ノエル

 性別:女

 魔族の王族の姫。魔剣ラグナロクの持ち主であり、魔道具「力の手袋」を所有。

 偉大な王であった父のようになりたいと考えていたが、弱い自分に自信を失くしていた。魔剣ラグナロクの能力により、空を飛ぶことができるようになった。

 魔族の行く末を真剣に考えた結果、人間との和平を持ちかける。

 


■ケルン

 性別:男

 魔族の戦士。魔道具「癒しの鎧」を所有。

 夜霧一族と呼ばれる魔族の名家の出身。高い戦闘能力を有し、魔王に忠実に使える一族。身体能力、家事能力、事務能力の優れたイケメン。完璧すぎるのが仇となってか、相手が及び腰になるのか、なかなか嫁が来ない。

 姉のファーラを人間に奪われたと思っていたことから人間を憎んでいたが、その姉の真実を知り、さらに人間と幸せに暮らしているのを見て、わだかまりは消えた様子。



■ファーラ

 性別:女

 魔族の女性。ケルンの姉であり、キースの母親。

 夜霧一族の令嬢であり、女でありながら優れた弓の使い手。

 人間であるキースの父親に恋をし、止める家族や家臣を「幻惑の弓」を使って押しのけ駆け落ちした。

 魔道具「心運びの石」はもとはキースの父が彼女といつでも話せるように贈ったものだが、結婚後もそれで始終話していたらしい。今でもラブラブ夫婦。



■シャデラリーゼル

 古代、ラプラスを封印し、それを監視するために作られた、魂を持つゴーレム。

 聖剣エクスカリバーを持ったシャデラリーゼルは、ロイバンシュビッチと共にラプラスゴーレムを倒し、その後、封印の剣に魂を捧げるために、人間と魔族の戦争を起こさせていた。

 白く美しい美少女の姿をしているが、全身が魔鋼オリハルコン製。鍛え方によってしなやかな動きを可能とする稀有な材料。



■ロイバンシュビッチ

 古代、ラプラスを封印し、その知識を保存するために作られた、魂を持つゴーレム。

 魔剣ラグナロクを持ったロイバンシュビッチは、シャデラリーゼルと共にラプラスゴーレムを倒し、その後、眠りについていた。

 漆黒の髪を持つ美しい青年の姿を持つが、その体はオリハルコン製なので、ロイバンシュビッチの意思に応じて鋼のように固くなる。そのため素手で剣をガンガン叩いて鍛えていた。

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