俺は魔王の武器として(04)
ノエルは俺を持って、城の階段を上がっていく。
魔王城といっても、そもそも魔族は邪悪なものではないからな。おどろおどろしいものは何もなくて、石造りのきれいなお城だ。ヨーロッパの世界遺産とかにありそう。
廊下を進み、一番奥の部屋に向かう。立っていた門番が、ノエルのために扉を開いた。
「ここは……魔王の執務室なのだ」
部屋の中で、ノエルが俺の剣の柄を掴みながら説明した。部屋には他に誰もいないので、特に気にすることなく話せる。
大きな机と、それから何人かがお茶ができそうなソファーとテーブル。ゴージャスなシャンデリアや絨毯といった調度品は、さすが魔王様の部屋ってとこか。
(じゃあ、ノエルの部屋か)
「うむ……寝室は別にあるのだが……あそこにあるのが、歴代魔王の肖像画だ」
ノエルに言われ、壁にずらりと張られた肖像画を見る。校長室みたいだと思った。
(ということは、全部ノエルのご先祖様か?)
「そう……あの一番右が、先代魔王、我の父上だ」
(ふーん……何か、俳優みたいだな、イケメン)
ノエルのお父さんは髭を生やした、威厳のある、ダンディなおじさんだった。まあ、一国の王様なんだから風格あるよな。
「いけめん……とは?」
(いや、こっちの話。で?)
「うむ。父上は――とても良い王であった。民にも慕われていて、名君と呼ばれていて……若くして亡くなった時は皆が悲しんだ」
ノエルはことある事に、父親からの教わった王としての姿を守ろうとしていた。
「強くて、立派で――未熟で弱い我などとは、まるで違うのだ」
そう言うノエルの肩は震えていた。
(そんな事言ったって……まだノエルは子供だろ? 今のノエルとお父さんを比べたって仕方ないって。気にすることないんじゃないか?)
「だが、我は、自信がないのだ……!」
小さな胸を張って、必死で凛とした声をあげて。
それは全て、王として、民を率いていく自信がないことを隠すためのものだったと、ノエルはぽろぽろ涙を零しながら、しゃくりあげる。
(そんなことない。俺はずっと、ノエルを近くで見ていたけど――俺はノエルが、俺の持ち主で良かったって思ってた)
「我は弱いのだ! 魔剣を扱うには――」
(違う。弱いから、ノエルは優しいんだ)
もし俺を拾ったのが、俺を武器として使いこなすような人だったら。
俺は嫌だったに違いない。
(ノエルが本当は、震えながら戦ってたのも知ってた。だからこそ、ノエルが良かったんだ)
弱くても、優しい。いや、弱いからこそ、ノエルは――優しい。
(俺、こんな剣の体だけどさ、誰かを傷付けたり、まして殺すなんて嫌だよ。ノエルは俺を、誰かを守るために使ってくれた。ノエルが魔王で、本当に良かったんだ)
ノエルはぽかんとしていたが、ぐしぐしと涙を袖で拭いながら言った。
「だが……我はやはり、父上のようにはなれないのだ」
(何で?)
「父上は時として、より多くの民を救うためならば――小さな犠牲を受け入れることも、その責任を負うことも認めねばならぬ、と言っていたのだ。だが……」
シャデラリーゼルに村を襲われた時、ノエルは、目の前の村人の命のために、ラプラスの封印の鍵である魔剣を守り通すことを選べなかった。
「優しい……だけでは、王としては、ダメなのだ。我は、甘くて……」
ノエルが俺を握る手に、力がこもる。
(それもいいんじゃないか? 成長したノエルがお父さんみたいにならなくてもさ、それはノエルがお父さんより劣ってるってことじゃなくて、それがノエルと、お父さんとの違いなんだよ)
「……ちがい?」
ああ。俺は剣として話せない間、ノエルに言いたいことがたくさんあった。
ずっとどうしたら伝えられるか、考えていて――そのうちの一つだ。
(ノエルはノエルらしく、優しい魔王様になればいいじゃん。俺は魔剣として、それを見守ってやるよ)
ノエルは、俺の柄を握り、大きく息をついて、剣に静かに額をつけた。震えながら小さく頷くノエルの頭を、俺は空気でぽんぽんと撫でた。




