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俺が魔剣、妹が聖剣に転生した件  作者: 梨野可鈴
第一章 剣に転生した兄妹
5/61

魔剣になった俺(02)


 †††


「我は魔王ノエル! 魔剣ラグナロクよ、我を受け入れろ!」


 目の前の少女は、そう言い放った。


(魔王? この女の子が?)


 俺は自分をつかむ女の子を見る。可愛らしい女の子が魔王……いや、意外とよくあるパターンだから、それはいい。


 え、俺って魔剣だったの?


 改めて俺は自分の体を見下ろす。シンプルなデザインは、装備したら呪われそうな、禍々しい感じはしない。

 しかし、自分が収まっている鞘の中に意識を集中して、よく確認すれば刃の色は漆黒だったし、なるほど、闇属性な感じはしなくもない。

 まあ、人の魂とか宿ってるしな……。魔剣っぽいといえば魔剣っぽい。


 そして、名前はラグナロクか……。ゲームだと最強武器の一つになっててもおかしくない名前だな。神々の黄昏か……やや中二病っぽい感じもしてむずがゆいが、まあいいか。


 さて、ノエルと名乗った少女は、鞘ごと地面に突き刺さってる俺の柄をしっかりと握り、力を込めた。


(よし、魔王! 俺はお前を受け入れるぞ! 早くこの退屈な洞窟から連れ出してくれ!)

「むむ………むうっ……」


 力いっぱい俺を引き抜くノエル。しかしノエルは顔を真っ赤にするだけで――……一向に俺を地面から引き抜けない。


 ……。


 ノエルは一旦、俺から離れると――息を整え、俺に向き合い直した。


「……な、何故だ魔剣よ! 何故我を受け入れない……!」


 いやいやいや!

 俺は君を受け入れる気満々だよ! ただ、君が非力すぎるだけなんじゃないかな!


 再びノエルは俺を両手で掴み、一生懸命に引っ張る。


「ふんぬぅ……ううっ」


 しかし、幼い少女の細腕には、がっちり地面に突き刺さる俺は引き抜けなかったようだ。

 ノエルは泣きそうな表情で俺を見る。いや、そんな顔されても。俺が悪いの?


「うう……お願いだ……。我が、魔剣を持ち帰らねば、人間たちから、民を守ることができぬのだあ……」


 ふうむ。話と前世のテンプレ的展開から察するに、魔族は人間と争っているようだな。

 俺は元人間なので、やや複雑な気分だが、まあ、この世界の人間ではない。

 魔剣に転生した以上、このか弱そうな魔王の武器となるのもやぶさかではない――君が俺を持てればな。

 地面から引き抜けないようじゃ、振り回すのも不可能な気がする。


 そんなこんなで、俺とノエルが困り果てていた時、俺のいる小部屋に、男がやって来た。


「姫様!」


 男は、かなり大柄で、槍を背負い、鎧とマントで武装していた。整った顔立ちの男で、年は……二十代後半ってとこか? ブルーグレーの髪が印象的だ。元の世界ではありえないビジュアルの人々に、改めて異世界に来たことを実感する俺。


「な、ケルン! 魔剣の間には、王族以外は入れぬしきたりだろう!」


 ノエルは、男に慌てて言ったが、男――ケルンはノエルに跪く。跪いても、小柄なノエルと同じくらいの位置に目線がある。


「申し訳ありません、姫様。しかし、姫様があまり長く出てこられないものですから、何かあったのではないかと……」

「な、何もない! 今から魔剣を引き抜くとこだったのだ!」


 思い切り見栄を張るノエル。

 なるほど、お供がいたわけか。よく考えたら、こんな少女が一人でダンジョンの奥に来れるわけないもんな。

 ああ良かった、あの男なら俺を引っこ抜いてくれそうだ。


 しかしノエルは、「手出し無用だ!」と言い、真っ赤な顔で唸りながら、俺を引き抜こうとする。

 おい、ケルン、お前も微笑ましい笑顔で見てないで助けろ。

 するとケルンは、自分の嵌めていた手袋を外して、ノエルに渡した。


「姫様、あまり力を入れると、姫様の手が傷ついてしまいます。こちらをお使い下さい」

「む? し、しかしこれは……」

「私は問題ございません」


 ノエルは、受け取った手袋をしばらく見つめていたが、やがて、頷いてそれを嵌めた。

 そして再び俺に向き合うと――あっさりと俺を地面から引き抜いた。


「おっ? や、やったぞ!」

「さすが姫様。魔剣に認められたのでございますね」

「うむ! よし、早く帰って、皆に見せてやらねばな!」


 満面の笑みを浮かべるノエルに、それを慈愛に満ちた目で見つめるケルン。

 俺は調子に乗ったノエルにぶんぶん振り回されながら、二つのことを推測した。


 まず、あの手袋は、多分、持ち主を力持ちにする、魔法の道具か何かなんだろう。

 そして、ノエルがこんなにも非力なのは――ケルンが過保護なせいなんじゃないかと、思うのだった。


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