俺は魔王の武器として(03)
「この世界の人々を救う気はあるか?」
(……は?)
天気でも尋ねるような口調で、スケールの大きい事を尋ねてきたので、俺は思わず問い返してしまった。
「ラプラスの復活は時間の問題だ。復活すれば、あれは人々を滅ぼそうとする」
「仮に、もう一回魂を魔剣と聖剣に封印できたとしても、封印を維持するには、多くの人が犠牲になるっす……」
言いたいことは、想像がついた。
(俺の――いや、俺と妹の魂を使って、ラプラスを封印するんだな)
異世界から来た俺と妹の魂は、この世界で霧消することはない。
だから、ラプラスの魂を俺達の魂で包んで封印すれば、人々がラプラスの封印を維持するために、命を捧げる必要はなくなるはずだ。
「ラプラスを封印しても、お前達の状態には影響はないはずだ。封印によって外側に出た魂が、その器の人格となると考えられる」
ロイバンシュビッチの言う、小難しい理屈は分からないが、俺の答えは一つだ。
(ああ、分かった)
「いいんすね? 今の話だと、魔剣さんは元々、俺達人間や魔族には関わりのない存在なんすよ?」
そんなことない。
(関わりないなんてことはないさ。短い間だけど、俺はこの世界の人達と関わった。俺の存在で、たくさんの人が死ななくて済むなら)
それに、だ。
異世界転生ってのは、転生ボーナスが貰えて、その能力で活躍するってのがセオリーだが、俺は転生者であること自体が、この世界を救う鍵らしい。
英雄になれる――まあ、英雄の武器になれるだけかもしれないが――人々を救うなんて、そんなチャンス見逃すか?
(妹の方の意見も聞きたいけど、多分あいつも頷いてくれるんじゃないのかな)
話を聞く限り、俺達にデメリットも感じないし。
「そうか。決まったのなら急ぐぞ。魔族の兵が戦闘準備を整えているから、明日の朝には発つことになる」
「……ラグナロク、よろしく――頼んだぞ。魔族の、いや、全ての人々の命運がかかっているのだ」
(ああ、勿論だ)
ノエルはそれから、ちょっと目を伏せて言った。
「お主の使い手は、今、兵士の間で選んでいるところだ」
――――は?
ちょっと待て。持ち主ってどういうことだ。
(ノエルが俺を使うんじゃないのか?)
「それは……」
ノエルは口ごもって、俯いた。
俺が更に何かを言おうとした時、キースが俺から手を離した。
「ま、大体話は済んだし、明日に備えて、休んだ方がいいっすね」
そう言ってキースは、ロイバンシュビッチと共に部屋から出ていく。
「魔剣さん、よろしく頼むっす」
「う、うむ……」
ノエルが曖昧に頷く。
おい、キース、それは、ノエルに俺のことを頼んでいるのか? それとも、俺にノエルのことを頼んでいるのか?
ノエルの様子を見てみると――そういえば何となく、元気がない。
(とりあえずさ、ノエル。俺を鞘にしまって、適当な場所に運んでくれないか?)
「う、うむ、ラグナロク……」
(ああ、それ。俺の名前、健吾っていうんだ)
ラグナロク、はあくまで剣の名前だ。
いや、別にそう呼ばれていても不便はないし、カッコいい名前ではあるんだが、さすがにその名前で呼ばれて返事をするのは、中二病が過ぎるというか、何というか……。
「ケンゴ? うむ、分かった」
(そうそう。で、聞きたいんだが――俺って魔王が使う魔剣なんじゃなかったの? ノエルが使わなくていいのか?)
ノエルは、首を横に振った。
「だからこそ、なのだ」
(……。)
「我は魔王に相応しくない。この剣を持つ、資格などないのだ」




