私は勇者の武器として(06)
玄関先で話す内容でもないので、私達はファーラさんに家にあげてもらった。
中に入ると、子供が二人、部屋で遊んでいて、こっちを振り向く。
「おきゃくさんだー!」
「おきゃくさんだー!」
男の子と女の子。どことなく癖っ毛で、キースに似てる。多分、弟妹なんだろう。
無邪気に駆け寄ってくる子供に戸惑うケルンさん。対して、セラは笑顔で受け止める。おねえちゃん、と呼ばれた時に、セラの表情がまた強張ったけど。
「母さん達は大事な話があるから、向こうで遊んでなさい」
「はーい」
子供たちは素直でいい子だ。
あの子達のためにも、さあ、頑張らないとね!
セラは私――聖剣を抜いて、ファーラさんに見せた。ロイバンシュビッチに、柄と刃に、半円状のくぼみを彫ってもらっている。
「心運びの石を頂きたいんです」
キースの手紙を読み、セラとケルンさんから事情を聞いたファーラさんは頷いた。
「そういうことなら、お譲りしましょう。……今、主人もこっちに向かっています」
そう言ったファーラさんは、胸元に手を入れ、小さな半円状の、青い宝石みたいな石を取り出した。
「心運びの石は、対となる石を互いに体に触れあわせた状態でいる時、相手に伝わるよう念じた心の声が相手に聞こえるというものです。今、これを使って主人に呼び掛けていたので、すぐに来ます」
なるほど、旦那さんとペアで、常に肌身離さず持ってるんだね。
「すみません、大切なものを」
「いえ、今は私達夫婦は、いつでも会って話せますし――本当に大切なものは、この子達ですから」
旦那さんの石を待っている間、ファーラさんはケルンさんに、ファーラさん自身が今までどうしていたのかを話した。
「主人は、歴史学者なの。魔族と人間の戦争の歴史を調べるうちに、不審な点があることに気付いた彼は、魔族側からの記録を調べるため、こっそり魔族のフリをして魔族領に来たのよ」
旦那さん、ガッツあるね……。
ちなみに、歴史における不審な点っていうのは、シャデラリーゼルの介入のことだと思う。彼女は、戦争をコントロールするために、歴史の裏で暗躍していたわけだから。
「そこで私と出会って、私達は恋に落ちたのだけれど……人間との結婚に反対された私は魔族領を出たの」
名家のお嬢様だったファーラさん。体面もあり、対外的には、人間にさらわれたことにされたという。
「姉様、なんて無茶を……!」
「だって私のお腹にはもう、キースがいたのだもの」
「…………。」
なんか複雑な顔をしてるケルンさん。うん、まあ、身内の恋バナって恥ずかしいよね。
お兄ちゃんに浮いた話はなかったから、経験はないけど……。
そんな話をしていると、玄関のドアが勢いよく開いた。癖っ毛の眼鏡をかけた男の人が、息を切らしている。
キースは父親似なんだな、と思った。
「はあ、はあ……話を聞いて、びっくりしたよ、ファーラ」
「あなた。心運びの石は――」
旦那さんは、懐から、ファーラさんが持っているのとまったく同じ青い石を取り出した。
「君が勇者か。うちの息子が世話になっているね。ところで、石はどうしたらいいんだい?」
「こちらの、聖剣様の窪みに嵌め込んでください」
そうして、私の刃と柄に、それぞれ青い宝石が嵌め込まれた。
ちなみに、私と会話するだけなら、刃の方にだけ石を嵌め込んでもらって、もう片方は相手が持っているだけでいいらしい。
わざわざ柄に嵌め込めるようにしてもらったのは、剣として、戦闘中に持ち主と会話することが自然だろうという配慮だった。
とにかく、これで、やっとセラと話ができる。
セラ、ケルンさん、そしてファーラさん達が私の剣の柄に嵌まる宝石に触れたのを確認し、私は念じた。
(……聞こえるかな? 私だよ、セラ)
「聖剣、様……? はい、聞こえます、聖剣様のお声が」
(改めて、はじめまして、かな)
伝えたいことはたくさんある――だけど、真っ先に私は、教えなきゃいけないことがある。
この世界を、救うために。
(私の魂はこことは違う世界――異世界から来たの。私は、転生者なんだよ)




