私は勇者の武器として(02)
†††
大鎌ゴーレムが、鎌と腕を失くしたことで、バランスを崩す。
「う、うわああ」
片方の手から、子供が落ちてきたが、それは地面にぶつかる寸前のところで止まった。
金色の球体のようなオーラで包まれている――明らかに聖剣の力だった。
キースは素早く駆け寄ると、子供を抱え、急いで走り去る。
ちら、と一瞬だけセラを振り返る。セラは、小さく頷いて、魔法の力で、空を飛ぶような速さで駆け抜けていく。
(つ、強すぎっす――セラ、というか聖剣さんが!)
人間領で育ったキースは、一騎当千の勇者の伝承を聞いたことがある。聖剣に選ばれた勇者は、千の魔族を相手に戦ったとかなんとか。
あれを見れば、それが誇張でもなんでもないと分かる。
それほど、聖剣の力に護られたセラは無敵だった。
キースは子供を抱えて、ケルンのところまで走って戻った。
「ゴーレムはセラに任せて、村人たちを避難させるっす!」
「言われなくてもやっている!」
ケルンは、力の抜けたノエルを背負ったまま、村人たちの避難誘導を続けていた。だが、ここは森に囲まれた村。森の中に逃げても、もしそちらに火が燃え広がれば全滅しかねない。
「風上を目指して全力で走れ!」
ケルンは村人たちに指示を出す。その背中で、ノエルは何もできない自分に、唇を噛みしめていた。
†††
飛んでくる炎の巨大な矢を、セラは剣の一振りで弾き飛ばした。
「このままでは村が焼けます。あの火矢を使うゴーレムを倒します!」
聖剣様は、肯定したと応え、輝きを増してくれた。
セラは両手で剣の柄を握り、火矢ゴーレムの足元を駆け抜けた。振るった剣は触れないまでもゴーレムの足を砕く。
膝をついたゴーレムに、背中から更に斬りかかる。
斬るというより、叩いたような衝撃を受け、ゴーレムは弓を手放して地面に転がった。
(感謝します、聖剣様――)
かつて、自分の故郷の村がゴーレムに襲われて燃えた時、セラは何もすることができなかった。多少の剣の心得はあったが、魔法を使うゴーレムの前に、為すすべもなかったのだ。
無力さを痛いほど感じ、強くなりたいと願い、故郷の焼け跡を発った。
この力は、セラの力ではない。聖剣の力であることを理解している。
だが、借りた力であっても、何かを守れるなら――セラは、力の限り戦いたい。
二体のゴーレムを倒し、セラは燃え盛る炎の中、シャデラリーゼルを探す。
だが、白い少女の姿は、どこにも見当たらなかった。
混乱に乗じて、逃げたようだった。
†††
(セラ、ヤバいって! いつの間にか炎にめっちゃ包まれているんだけど!)
結界で守っているからあんまり感じてないのかもしれないけど、結構周りは大変なことになってるからね!
あの白い少女――逃げ足が速くてムカつく! 追いかけたいのはやまやまだけど、とにかくまずは火を消さないと! でもって、折れたお兄ちゃんを回収して!
ピッカンピッカンとハザードランプみたいに光りまくって、ようやくセラは自分の状況に気付いたらしい。
「えっ……あ、燃えてる!」
炎の向こうから、キースと女の子の声がかすかに聞こえた。
「セラーっ! 大丈夫っすかーっ!」
「セラ! む、むうう……! ラグナロクがいれば、風を操って、こんな火をどうにかするのに!」
ラグナロク……お兄ちゃんのことだ。魔剣ラグナロクは風を操れるんだよね。
あ、いいこと思いついたよ。でも、うまくいくかな。
一回折れて、で、気が付いてから、なんとなく調子がいいんだよねー。状況的に、私を修理してくれた、あの黒い服を着た男の人が、ついでにメンテナンスしてくれたんじゃないかな。だから、結界の力を前よりもうまく制御できるというか。だからきっとできるよね。
私は結界を炎で燃える村全体に広げた。それでもって、セラと自分の周りだけ、さらに二重で囲って守っておく。
そして、結界から――『酸素』を追い出す。
「え!?」
私が輝いたと同時に、一瞬で消えた炎に、セラがびっくりしていた。
うんうん、火事の時に濡れ雑巾をかけて、火を消すやつね。酸素を遮断すれば、火は消えるんだよねー。
「聖剣様……凄い……」
セラが呆然と呟いている。ふふふ、前世では理科も得意だったんだよ。
火が落ち着いて辺りを見渡せば、酷いことになっていた。家はほとんど焼けてなくなってしまっている。
瓦礫みたいに崩れたゴーレムの近くに、黒いものがキラリと光った。
「……ら、ラグナロク」
女の子――そうだ、魔王のノエルって子――が近付いて、拾い上げた。
「な、直るか? わ、私のせいで……ラグナロクがあ……」
ノエルちゃんは目から涙をぽろぽろ零している。
大丈夫、直るって、だって、私だってさっき、あの黒い男の人に直してもらったんだもん。
えーっと、あの黒っぽい人はどこにいるのかな。
キョロキョロと見渡すと、その黒い男の人が、森の中から歩いてきた。
「……ロイバンシュビッチさん、魔剣が」
「ああ――不味い事態だ。ラプラスが復活する」
ん? 何? ラプラス?




