俺は魔王の武器として(01)
俺達は、走って村に戻る。
武器を構えた二体のゴーレムが、村の建物を壊し、森に火をつけ、逃げ惑う人々に襲い掛かる。巨大な弓矢を持ったゴーレムは、次々に火矢を放って村を燃やし、巨大な鎌を振るうゴーレムが、炎の中で人々を追い詰めていた。
地獄絵図と化した村の中、火の粉を浴びながら、平然と歩いてくる、白い少女――シャデラリーゼル。
「お前! 一体何を!」
「魔剣は思ったより厄介だから、少し方法を変えることにしたの」
まるで感情のこもらない調子で、シャデラリーゼルは言う。
「その魔剣をこちらに渡しなさい。そうしなければ、あなたの大事な民とやらを、皆殺しにするわよ」
焼けた家が、ガラガラと崩れる。剣である俺の身にも熱気が伝わってきた。子供の泣き叫ぶ声が響いている。
「卑怯な!」
ノエルが怯まず叫び、俺を構えた。だが、シャデラリーゼルは動じない。
「魔剣をこちらに渡しなさい。でなければ」
シャデラリーゼルが、片手を上げて、鎌を持ったゴーレムに合図する。すると、ゴーレムは見せつけるように、捕まえた小さな子供を手からぶら下げた。
「なっ……!」
それを見たノエルは、固まってしまった。
俺もまた――どうしていいか分からない。
少しでも動けば――あの人質の子供の首は、鎌で落とされてしまう。
くそ……かといって!
「なりません、姫様! 魔剣を渡しては――」
ケルンが叫ぶ。分かっているのだ。
俺の中には、ラプラスという、古代の危険なゴーレムの魂が封印されている。
それを解放してしまえば、田舎の村が一つ、焼け落ちるほどの騒ぎでは済まない。
絶対に魔剣を渡してはいけない。そんなことは分かっている。分かっているんだが――!
「……っ!」
ノエルが苦しそうに、泣きそうに顔を歪める。
ゴーレムの手の中で、恐怖に泣き叫ぶ子供。目の前で襲われている民を見捨てられるノエルじゃない。
「早く、魔剣さんを持って逃げるっす! 奴の狙いはその魔剣っす!」
「ここは僕たちに任せて!」
キースとセラが、ノエルの前に立ちふさがるようにする。ケルンもまた、槍を構えた。
「そう――じゃあ、まあ、この子は殺してしまうとしましょう」
やりなさい。
シャデラリーゼルが冷徹に、ゴーレムに命じた。
ノエルが俺を握る力が、ぐっと強くなった。
――不思議なもんだ。俺が剣になったからかな。
ノエルが何を考えているか、ノエルの手の握り方一つで、分かる気がするんだ。
セラとキースが、必死に鎌を持つゴーレム目がけて駆けだす。しかし、振り下ろされる鎌には、到底間に合わない。
「いやああああ―――っ!」
ノエルが叫んだ。
弾けるような叫び声とともに、ノエルの周りの空気が爆発する。
空気銃という武器がある。
空気の圧力によって、弾を押し出す武器だ。――この世界にあるかどうかは知らないけど。
風を、空気を操って、俺は勢いよくノエルの手の中から飛び出す。
矢のように飛んだ俺は――ゴーレムの持つ鎌とぶつかり、火花を散らす。
魔鋼オリハルコンは、どんな物質より硬いんだってな。
一振りの剣と、巨大な鎌がぶつかった筈なのに、ヒビが入って押し負けたのは、ゴーレムの鎌の方だった。
鎌を弾き返した俺は、勢いを失って、回転しながら地面に落ちる。
シャデラリーゼルの、目の前に。
ちっ……あーあ、……何でこんなことしちまうかなあ、俺。
前世では普通の男子高校生で、ヒーローなんてガラじゃなかったのに。
きっとノエルのせいだな。ノエル、本気で民のためなら命を懸けるんだから。影響されたんだ。
俺は――魔剣。魔王の武器。魔王の意思に応えるってことか。
シャデラリーゼルの、陶器みたいな白い肌。その手刀が迫って――俺の意識は途切れた。




