古代文明の真実(04)
「何だって……!?」
さすがにその言葉には、全員が驚いて立ち上がった。狭い小屋がさらに狭くなる。普段冷静なケルンやキースでさえ、目を見開いている。
「さっきから、古代文明――楽園に住んでた人のことを、『人々』としか言わないっすね。それは――」
「そうだ。ラプラスが出現し、楽園が崩壊、封印されるまで、人々は人間と魔族に分かれてはいなかったのだ」
そういうことだったのか。
俺は疑問に思っていた。「人間」と呼ばれる人々と、「魔族」と呼ばれる人々には、見た目に大きく差はない。なら、その間に、どんな違いがあるのかと。
簡単なことだ。二つの種族には――違いなどなかったのだ。
「ラプラス封印後、私は魔法研究の記録を自分の中に保存した上で、世界に残っていた、魔法研究の記録を消し去って、眠りについた。ラプラスの悲劇が二度と起きないようにする一方で、万が一ラプラスが復活してしまった時のために、ラプラスに関する記録を残しておく必要があったからだ」
こうして、魂を持ったゴーレムの片方、ロイバンシュビッチはずっと眠り続けていた。
「魔道具に関する記録が失われたことで、現存する魔道具の価値ははね上がることは予想がつく。そして、シャデラリーゼルは魔道具を巡って人々が争うように仕向け続けた。魔剣と聖剣を、二つに分けた人々に与え、戦いの場で使用させることで、それぞれの剣には魂が供給されることとなった」
ちなみに、万が一にも魔族と人間の戦争において、魔剣と聖剣が直接対決し、互いを壊してしまうことがないように、二つの剣はお互いに対して、正常に作用しないよう、共鳴するようにしてあったのだという。
俺(魔剣)と妹(伊織)が戦った時に起こった、あの謎現象は、あらかじめプログラミングされていたことだったのか。
「戦争が、仕向けられたものだったというのか! ずっと続いた戦争の間に、どれだけ、どれだけの血が流れたと――!」
ケルンは言うが、ロイバンシュビッチは、銀の瞳で静かに見返す。
「そうでなければ、人々はとっくに滅びていた」
「く……!」
理屈は分かる。より大きな犠牲を防ぐために、小さな犠牲を起こし続けたのだ。
だが、それはあくまで理屈であって、実際に互いを憎んで、戦争していた側にとってはたまったもんじゃないだろう。俺としても、ケルンの気持ちの方に感情移入してしまう。
「どうしてっすか? 人の魂が輪廻転生によって消えるなら、消えない人工の魂とやらで包んで封印すればいいじゃないっすか」
「人工の魂は、ラプラスの魂と同調し、取り込まれてしまう危険性が高い。封印には使えない」
「……そっすか」
キースは黙った。重苦しい雰囲気が、その場を支配する。
最初に口を開いたのは、セラだった。
「まだ、分からないことがあります――では、シャデラリーゼルというゴーレムはどうして、聖剣を折ったのですか?」
「それは俺にも分からない」
ロイバンシュビッチは、聖剣を叩き続ける。
叩き続けられた鋼は、熱せられた鉄のようになって、折れた部分が繋がりつつあった。
「そもそも、魔族と人間の争いが、停戦状態にあるということ自体が、シャデラリーゼルの裏切りによるものだろう。シャデラリーゼルは、双方が滅びないように――しかし争いを止めないように裏から手を回し続けるようにしていたはずだ」
「……では、聖剣が折れたことで、宿っていた魂はどうなったんですか?」
「今の聖剣は、器としての形が壊れてしまった。恐らく、ラプラスの魂は、ラプラスゴーレムの本体の元に向かっているだろう」
ううむ……。今までの話から考えると、シャデラリーゼルというあの少女は、ラプラスを復活させようとしているってことか?
戦争を止めさせ、封印を弱めさせる。その上で、剣を折って、ラプラスの魂とやらを解放させる。
これは、非常に不味い事態じゃないのか?
「俺が聖剣エクスカリバーを直し、再び魂の器として使える形に戻す。急ぎ、楽園の跡地に向かい、ラプラスの魂を器に収め、その上で魔族と人間の戦争を再開させろ」
「――な、何を言っているのだ、戦争を起こすなど!」
ノエルはテーブルにバン、と手をついた。
「そ、そんなの駄目だ! 我は魔族の王だぞ! 民をそんな――傷つけることなどできない!」
「しかしそうしなければ、より多くの犠牲が出る」
「しかし……!」
ノエルが必死に言葉を探していた時だった。
ズドン、と小屋が揺れるほどの地響きがした。そして、悲鳴が聞こえる。
「な……何だ?」
一同が慌てて、小屋から飛び出す。
そこで見たのは、村から上がる火の手――そして、村を襲うゴーレムの姿だった。




