表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が魔剣、妹が聖剣に転生した件  作者: 梨野可鈴
第一章 剣に転生した兄妹
4/61

聖剣になった私(02)


 †††


「では、聖剣にふさわしい勇者の選定を始める」


 それを聞いた時の私の喜びといったらもう。

 ですよね! やっぱり聖剣には勇者ですよね!

 足があったらぴょんぴょん跳ねていたに違いない。私は喜んで――や、まあ、その喜びは外側からは全然見えないんですけどね――騎士さんに運ばれていった。


 それにしても、勇者を選ぶってどうやるんだろ?


 そんなことを考えていた私は、教会を出たところで、教会の前の広場にたくさんの人が集まってるのを見た。

 あ、教会の外ってこうなってるのね。久しぶりに見る、空の青が目に眩しい。

 騎士さんが私を掲げると、人々がおおーっとどよめいた。そこから騎士さんの長い長い前口上が始まった。


「”光の都”に集まりし、勇敢なる若者達よ――」


 騎士さんのお話から、おおよその事情を察する。

 どうやら、魔族が人間に対して、戦争を仕掛けそうな不穏な動きがあるとのこと。そのために、前々から、聖剣を持つことのできる勇者を募っていたらしく、我こそは! と思う人はこの街(そもそもここは、人間の国の王都らしい)に集まるように、付近の村々に声をかけていたらしい。

 神父さんが最近私をしょっちゅう磨いていたのは、この為だったみたいね。


 聖剣に選ばれし勇者が、魔族と戦うのか……なんか、うん、王道の展開だなあ。

 魔王とかもいるのかな。勇者と対になる存在といえば、やっぱり魔王だよね。

 勇者の仲間はどこで探すんだろ。やっぱり酒場?


 腕の中の聖剣が、前世のゲームを思い返してぼんやりしていることを知らず、騎士さんは声を張り上げる。


「勇者の資格は、この聖剣を抜き、使いこなすことができた者に与えられる」


 そう言うと、騎士さんがさっと手を振り上げた。

 騎士さんの部下っぽい人が、広場の前に、石でできた人形を、荷車に乗せて運んでくる。


 部下さんは、その人形を地面に下ろすと、背中をぼん、と押した。

 すると人形は生きているかのように立ち上がり、腕を振り上げる。


(わあーっ、ゴーレムだ! すごいよ、魔法で動いてるの?)


 集まっている人々は、ゴーレムに再び驚きの声をあげた。私も大興奮だ。

 魔法だよ、リアルにゴーレムだよ! ああ、お兄ちゃんにも見せてあげたかった……!


 なるほどね、私を使って、あのゴーレムを倒せればいいんだ。

 長い騎士さんの説明もようやく終わり、ようやく勇者の選定が始まった。

 騎士さんが、ゴーレムから少し離れた場所に置かれた、銀色のピカピカの台に、私を置く。


「では――勇者の名乗りを上げる者は、順に前に出よ!」


 すると、真っ先に前に出てきた人物がいた。

 む、なになに、私のパートナー候補はどんな人かな?

 そっちに意識を向けると、そこには、筋肉の盛り上がった、無精髭を生やし、――なんとなく不潔っぽい感じの大柄な男がいた。


(……い、いやだああああっ!)


「俺はドロンゴだ。勇者はこの俺で決まりだ」


 不潔男は毛がもじゃついた腕を私に伸ばす。

 いやいやいや! その三下っぽいセリフとか、そのビジュアルとか、どう見ても途中に出てくる山賊みたいな、噛ませ犬ポジションでしょ!


 え? ちょ、触らないで! 聖剣に宿る女子高生の魂が全力で、おじさんに触られることを拒否するが、私は自力では一ミリも動けない!

 げ、指毛もすごい! てか爪の中、黒っ!


(い、いやあーっ! 触らないでえっ!)


 おじさんの指が私の柄に触れそうになった瞬間――私の中から、カッ、と強い光が放たれた。

 放たれた金色のオーラが、おじさんを吹き飛ばす。


 ……ふへ?


 おじさんは広場にひっくり返っていた。それを見た騎士さんが、「次!」と声をあげる。


「ち、ちょっと待て、まだ俺は……」


 体毛の濃いおじさんは騎士さんに詰めよるが、騎士さんは相手にしない。


「ドロンゴよ、お前が聖剣に拒まれたのは明らかだ。諦めよ」


 ……おや。

 もしかして私が、あのおじさんを吹き飛ばした?

 そっか、私って聖剣なんだ……その気になれば、ああいう聖なるパワー(?)が出るんだ……。

 おじさんはとぼとぼ帰っていく。うなだれた背中に哀愁が漂っている。その後ろ姿に、周りの人がひそひそ話していた。


「剣の達人であるドロンゴが拒まれるとはのう……」

「勇者となるには、申し分ない強さだと思ったのに……」


 え、あのおじさん、そんなに強かったの?

 ……悪いことしたのかなあ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ