聖剣になった私(02)
†††
「では、聖剣にふさわしい勇者の選定を始める」
それを聞いた時の私の喜びといったらもう。
ですよね! やっぱり聖剣には勇者ですよね!
足があったらぴょんぴょん跳ねていたに違いない。私は喜んで――や、まあ、その喜びは外側からは全然見えないんですけどね――騎士さんに運ばれていった。
それにしても、勇者を選ぶってどうやるんだろ?
そんなことを考えていた私は、教会を出たところで、教会の前の広場にたくさんの人が集まってるのを見た。
あ、教会の外ってこうなってるのね。久しぶりに見る、空の青が目に眩しい。
騎士さんが私を掲げると、人々がおおーっとどよめいた。そこから騎士さんの長い長い前口上が始まった。
「”光の都”に集まりし、勇敢なる若者達よ――」
騎士さんのお話から、おおよその事情を察する。
どうやら、魔族が人間に対して、戦争を仕掛けそうな不穏な動きがあるとのこと。そのために、前々から、聖剣を持つことのできる勇者を募っていたらしく、我こそは! と思う人はこの街(そもそもここは、人間の国の王都らしい)に集まるように、付近の村々に声をかけていたらしい。
神父さんが最近私をしょっちゅう磨いていたのは、この為だったみたいね。
聖剣に選ばれし勇者が、魔族と戦うのか……なんか、うん、王道の展開だなあ。
魔王とかもいるのかな。勇者と対になる存在といえば、やっぱり魔王だよね。
勇者の仲間はどこで探すんだろ。やっぱり酒場?
腕の中の聖剣が、前世のゲームを思い返してぼんやりしていることを知らず、騎士さんは声を張り上げる。
「勇者の資格は、この聖剣を抜き、使いこなすことができた者に与えられる」
そう言うと、騎士さんがさっと手を振り上げた。
騎士さんの部下っぽい人が、広場の前に、石でできた人形を、荷車に乗せて運んでくる。
部下さんは、その人形を地面に下ろすと、背中をぼん、と押した。
すると人形は生きているかのように立ち上がり、腕を振り上げる。
(わあーっ、ゴーレムだ! すごいよ、魔法で動いてるの?)
集まっている人々は、ゴーレムに再び驚きの声をあげた。私も大興奮だ。
魔法だよ、リアルにゴーレムだよ! ああ、お兄ちゃんにも見せてあげたかった……!
なるほどね、私を使って、あのゴーレムを倒せればいいんだ。
長い騎士さんの説明もようやく終わり、ようやく勇者の選定が始まった。
騎士さんが、ゴーレムから少し離れた場所に置かれた、銀色のピカピカの台に、私を置く。
「では――勇者の名乗りを上げる者は、順に前に出よ!」
すると、真っ先に前に出てきた人物がいた。
む、なになに、私のパートナー候補はどんな人かな?
そっちに意識を向けると、そこには、筋肉の盛り上がった、無精髭を生やし、――なんとなく不潔っぽい感じの大柄な男がいた。
(……い、いやだああああっ!)
「俺はドロンゴだ。勇者はこの俺で決まりだ」
不潔男は毛がもじゃついた腕を私に伸ばす。
いやいやいや! その三下っぽいセリフとか、そのビジュアルとか、どう見ても途中に出てくる山賊みたいな、噛ませ犬ポジションでしょ!
え? ちょ、触らないで! 聖剣に宿る女子高生の魂が全力で、おじさんに触られることを拒否するが、私は自力では一ミリも動けない!
げ、指毛もすごい! てか爪の中、黒っ!
(い、いやあーっ! 触らないでえっ!)
おじさんの指が私の柄に触れそうになった瞬間――私の中から、カッ、と強い光が放たれた。
放たれた金色のオーラが、おじさんを吹き飛ばす。
……ふへ?
おじさんは広場にひっくり返っていた。それを見た騎士さんが、「次!」と声をあげる。
「ち、ちょっと待て、まだ俺は……」
体毛の濃いおじさんは騎士さんに詰めよるが、騎士さんは相手にしない。
「ドロンゴよ、お前が聖剣に拒まれたのは明らかだ。諦めよ」
……おや。
もしかして私が、あのおじさんを吹き飛ばした?
そっか、私って聖剣なんだ……その気になれば、ああいう聖なるパワー(?)が出るんだ……。
おじさんはとぼとぼ帰っていく。うなだれた背中に哀愁が漂っている。その後ろ姿に、周りの人がひそひそ話していた。
「剣の達人であるドロンゴが拒まれるとはのう……」
「勇者となるには、申し分ない強さだと思ったのに……」
え、あのおじさん、そんなに強かったの?
……悪いことしたのかなあ。