古代文明の真実(03)
ノエルが知恵熱を出しそうだったので、一旦休憩を取ることになった。
というか、疲れを知らないゴーレムのロイバンシュビッチに話をさせると、それこそこっちが止めない限り、永遠に話し続ける。
ノエルとセラは、まさか自分達の持っている剣がそんな大変なものが封印されていたものなのかと驚いている。というか、俺自身がびっくりだ。
オリハルコンが魂を宿す、ね……。
だから前世で死んだ俺や妹の魂は、この世界に来た後、魔剣や聖剣にくっついてしまったというわけなのか。
「俺、ちょっと外の空気吸ってくるっす」
「姫様、お茶を用意して参ります」
キースとケルンがそう言って外に出た。
小屋の中に残された俺とセラとノエルは、鋼を叩く音が響く小屋の中で、今までの話を整理することにしたのだった。
†††
キースは背伸びをして、深呼吸をした。
森に囲まれたこの村の空気は、爽やかな緑の香りがする。
「……キース、といったな。尋ねたいことがある」
キースは意外な相手に声をかけられ、振り向いた。
魔王の護衛の戦士、ケルンが、微妙な表情で立っていた。
ケルンは人間嫌いだったので、キースやセラに自分から声をかけることはほぼない。キースには半分魔族の血が流れていることは明らかになったが、むしろ混血の存在である方が、疎まれる存在かもしれない。
「何すか?」
「ファーラという名の、魔族の女性を知っているか」
キースは、ケルンの口から出た名前に一瞬目を見開く。頭をかいてため息をついた。
「……それで、俺の弓の出どころを聞いたんすね……」
「知っているんだな! 今どこにいる!」
いつも冷静沈着なケルンが、珍しく感情を露にして迫ってきたので、キースはやや驚いたが、真っすぐその目を見て返した。
「知っているも何も、俺の弓の師匠で……俺の母親っす。でも、今どこにいるかは、言えないっすね。分かるでしょう? 人間と結婚したんすよ。両親や俺みたいなのは、魔族からも人間からも疎まれる。家族のために、アンタに居場所を教えるわけにはいかないんっすよね」
キースはそう言ったが、ケルンはキースの肩に手を置いて迫った。
「ファーラは、私の姉だ!」
「……はっ?」
「我が家の宝であった弓と共に、人間に奪われていたと聞いていた」
キースは目を瞬かせた。
「いや、だって……え?」
「姉様は生きているのか? 今、どうしている?」
必死な様子で聞くケルンに、キースはふっと笑って答える。
「母さんは、元気っすよ。人間に奪われたって、俺の父さんにって的な意味っすか? 恥ずかしくなるくらい仲良いっす。たまに、駆け落ちの武勇伝聞かされるっすよ。止める家の者を、この弓で押さえつけて、夜中に走って家を出たって」
「そうか……」
ケルンは顔を覆い、長い息を吐いた。
そして、目の前の青年に、姉の面影を見出そうとその顔を真正面から見る。
「てか、そうすると……アンタって、俺の、叔父さん?」
「……。」
自分と姉は年が離れていた。それは承知している。甥や姪がいてもおかしくはない。
だが、立派な青年にオジサンと呼ばれ、まだ独身のケルンはやや顔が引きつった。
†††
「むむむ……とにかく、聖剣エクスカリバーと、魔剣ラグナロクには、それぞれ悪い奴が封印されていたのだな?」
うん、そこまで理解できたならいいんじゃないかなー。
セラとノエルが、今までの話を整理したところで、丁度良くケルンとキースが戻ってきた。
「ういーっす、お待たせっす。お茶淹れて来たっすよ」
「姫様、どうぞ」
ケルンとキースは、二人で全員分のお茶と菓子を運んできた。
ん? この二人、険悪な雰囲気だったと思ったのに、どうしたんだ?
「うむ。ケルンの淹れるお茶はいつも美味しいな!」
「ありがとうございます」
ケルンが礼をした。本当、家事もそつなくこなすし、スペック高いな……。
鎧を着ているところしか知らないけど、執事服も普通に似合いそうだ。
一息ついたところで、ロイバンシュビッチが続きを話し始めた。
「ラプラスゴーレムを、聖剣と魔剣に封印したところまでは話した」
相変わらず、無表情で鋼を拳で叩きながら、淡々と話すロイバンシュビッチ。
機械じかけの人形みたいだ。いや、実際そうなんだが。
「しかし、魂をオリハルコンの器に封印するには、ただ宿すだけでは足りない。それでは、ラプラスの器が、ゴーレムから剣に変わるだけだからだ。魂を封印するためには、上から別の魂によって包み込んでやる必要がある」
「魂ってのは、輪廻転生によって、一度消えるんじゃなかったんすか?」
キースが質問する。
おお、さすがキースだ、話についていっているのか、お前。
「寿命を終えた魂であればな。しかし寿命を終える前に、宿るべき体が消滅してしまった魂は、ある程度の時間、魂のまま存在し続ける。その魂を使えば、封印が可能だ」
「寿命を終える前に、体が消滅した? それって……」
「つまり、若くして傷や病によって死んだ魂だ。楽園崩壊時、ラプラスによって殺された人々の魂が大量に存在していた。それらの魂を集め、包み込むことで、ラプラスの魂を封印することができた」
しかし、とロイバンシュビッチは続ける。
「時が過ぎれば、それらの魂も転生するために消える。覆われていた魂がなくなれば、ラプラスの魂は目覚めてしまう。それを防ぐためには、定期的に聖剣と魔剣に対して、魂を供給する必要がある」
「魂を供給するって……でも、それって、本来死ぬはずじゃない人の魂ってことですよね?」
「そ、それでは、生贄ではないか!」
ノエルは身を乗り出す。だがロイバンシュビッチは表情一つ変えずに、淡々と話し続ける。
「そうだ。しかしそうしなければ、より多くの人々がラプラスの犠牲になる。だが、贄になれと言われ、身を捧げる人々がそう多くないことも予想がつく。そこで、考え出されたのが――世界の人々を二つに分け、争わせることだった」




