古代文明の真実(02)
カン、カン、と機械のように一定のペースで規則正しく鋼を叩く音が、小屋に響く。ロイバンシュビッチが、自らの拳で、聖剣を叩いているのだ。
ロイバンシュビッチは、まるで人と変わらない見た目をしている。だが、人の体から発せられるはずのないその音が、彼がゴーレムであることを示していた。
そうして剣を鍛えなおしながら、ロイバンシュビッチは淡々と話し始めた。
「かつて、この大陸には魔法によって栄えた楽園があった」
「……今は、古代文明と呼ばれているのがそれだね」
「楽園に住んでいた人々は、魔法を使うための道具、魔道具を作り出し、便利で豊かな生活を享受していた」
その魔法技術のおかげで、生活水準は今よりずっと進んでいたんだろう。ロストテクノロジーって奴か、大体の想像はできるな。
「現在の人々は知らないことであるだろうが、魔道具は、魔法の力を宿すことのできる物質を作って作られる。それは特別な石や植物であったり、限られた種類の金属であったりするが、楽園においては、この魔法親和性の高い物質を探すことが非常に重要であった。そして人々は――魔鋼オリハルコンを見つけてしまう」
オリハルコン。
魔剣や、聖剣の材料になっているとは、なんとなく聞いている。
「魔鋼オリハルコンは、それまでに発見されたあらゆる物質より優れていた。丈夫でありながら、しなやかであったし、多くの魔法の力を宿すことができた。そして何より、魔法によって、魂を宿すことができたのだ」
「魂?」
それが悲劇の始まりであったと、ロイバンシュビッチは語る。
「非常に魔法の技術を高度に発達させた楽園の人々は、一つの問題を抱えていた。それは、知識の継承だ」
当たり前だが、人の寿命には限りがある。
研究した魔法の技術は、記録にして引き継がれ、その次の世代は、受け継いだ技術をさらに発展させていく。
しかし、それを繰り返すうちに、あまりにも高度になった魔法の技術は、人が理解できないほど高度になってしまったという。一人の人間が、勉学に一生を捧げたところで、先人の研究を理解するのが精一杯であり、さらにその上に魔法技術を積み上げることができないレベルに達してしまった。技術は頭打ちになるばかりか、場合によっては、今ある魔法技術についても理解できないという状態になった。
それなりに科学技術が高度に発展していた現代日本から来た俺は、なんとなく分からないでもない。ブラックボックスって奴か。
「むむ……」
話が急に難しくなってきたので、ノエルが頭を抱え始めている。セラも若干眉を寄せていた。
それに構わず、ロイバンシュビッチは淡々と話を続ける。
「人の魂は輪廻転生の節理に組み込まれている。そのため、不老不死が実現できないことは明らかになっていた。そこで、人々は、人工の魂を作り出し、それをオリハルコンで作ったゴーレムの器に宿させることで、永遠に失われない知識を作ろうとしたのだ。そのゴーレムは、”ラプラス”と名付けられた」
人工の魂……人工知能、AIみたいなもんか。
「それにより魔道具開発は飛躍的に進歩した。楽園の人々は、このままどんどん魔法の技術を発展させ、理想郷を作ろうとした――」
理想郷ね。……何か話がアブナイ方向に行ってませんか?
「しかし、理想を追い求めるあまり、作られた魂は一つの結論を導き出してしまう。理想郷を作るには、劣った人々は不要であり、全てを統制されたゴーレムによって管理すべきという考えだ。魂を持ち、自身で判断できるように作られたラプラスゴーレムは人の命令を聞く存在ではなかった。結果、暴走し、楽園の人々を全て消し去り始めたのだ」
それが、楽園――古代文明が崩壊した原因だったと、ロイバンシュビッチは告げた。
ノエル達は、揃って驚いた顔をしていた。
まあ、ずっと謎だった古代文明崩壊の歴史が、唐突に明らかになったんだからな。
なお、俺は、AIにはアシモフ三原則を組み込んでおけよ! と思った。聞きかじりのSF知識だけど。
「突如人々を滅亡させようとしたラプラスに対し、人々は激しく抵抗した。その中で、人として最後の魔道具職人であった、ロイバンスとリーゼルの兄妹がいた。彼ら二人は、ラプラスゴーレムに抵抗するため、オリハルコンを使って、四つの魔道具を作った。二つの剣と二つのゴーレムだ」
「それが、聖剣エクスカリバーと、魔剣ラグナロク、そして、あの白い少女と、あなたというわけですか……」
どんな物質よりも丈夫だという、オリハルコンを傷付けることができるのは、オリハルコンのみ。
残された古代人の必死の抵抗、そして二体のゴーレムが振るうオリハルコンの剣によって、かろうじてラプラスゴーレムを壊すことに成功した。
そして、これら四つの魔道具をオリハルコン製にしたのは、重要な意味があった。
「人の魂というものは、輪廻転生の節理に従っている。この節理というのは、寿命を終えた魂は一度霧消し、また新しい魂となって次の生命に宿るというものだ。しかし、人の手によって作られたラブラスの魂は消滅することがない。よって、器を壊したところで、何かのきっかけで新たな体に宿れば、ラプラスが復活してしまう可能性があった」
そうなれば、また大殺戮が起きかねない。
何しろ、ラプラスの持っている魔法の知識は、人々の手に負えるものではなくなっていた。
「そこでロイバンスとリーゼルの兄妹は、ラプラスの魂を二つに分け、オリハルコン製の剣――エクスカリバーとラグナロクに封印した。そして、永遠に復活することのないように、やはり人工の魂を宿したゴーレム――俺とシャデラリーゼルにその監視を命じた」




