古代文明の真実(01)
次の日の朝、俺たちは”忘却の村”に到着した。
森を抜けた先、というより、村自体が森の中を切り開いた場所にある。村の中央には小さな湖があるためか、霧がかかっていた。
小さな村なので、村長の家もすぐに分かった。ノエルとケルンは村長を訪ね、魔道具に一番詳しい者について聞いた。
「魔王様自ら、この村にいらっしゃるとは……」
「修理したい魔道具があるのだ。それに――心を持つ魔道具についても調べたい」
ノエルが言うと、村長はゆっくりと息をついた。
「……ノエル様は、十五代目の魔王でしたね……そう、あの戦争から、もう二百年も経つのですか……」
村長は立ち上がると、俺たちを連れ、森の木々の間に入っていく。
「ここは”忘却の村”。人々が忘れた歴史を、静かに守り続ける村――先祖代々語り継いできた役目も、私の代で終わるかもしれません」
「……?」
森の中を進むと、そこには小さな小屋が、村から離れた場所にあった。
「何か音が聞こえるっすね」
「……うん」
小屋からはカチカチと規則正しい音が聞こえてくる。時計の秒針の音に似ていると俺は思ったが、この世界には正確な時計がないみたいだからな。
村長は不思議な紋様の刻まれた小屋の扉に向かい、呪文を唱えた。
「――目覚めよ、記憶を尋ねる者あり」
呪文に応えるように扉は一瞬輝き、そして独りでに開く。
ケルン、俺とノエル、キース、セラの順に小屋に入る。四人も入ると狭いな。おまけに暗くて中がよくわからない。
「村長、ここは」
ケルンが尋ねた時、小屋の奥で人影が動いた。
はっとしてそちらを見ると、小屋の中にいた人影は――パチリ、と指を鳴らす。
暗かった小屋が光で満たされた。目に入るのは、小屋の奥で規則正しく噛み合って回る歯車。
そしてその前で、静かにこちらを見る、細身の青年。
貴族のような黒い服を着ており、髪は、まるで底の深い穴を覗きこんだみたいな漆黒、瞳は銀色だった。
「……俺が眠りについて、176年と58日。世界は滅びてはいない」
「何を……? どう見てもお主、若いではないか……?」
ノエルが言うが、俺は目の前の青年の、整いすぎた彫刻のような美しさに、あるものを思い出していた。
――あの白い少女と、似ている。
「あなたは……一体?」
「俺は楽園崩壊を見届けた、最後のゴーレム。作り手の名を貰い、ロイバンシュビッチと名付けられた」
ゴーレムと聞き、一同がはっと身構える。しかし、黒い青年は、無表情で口だけを動かす。
「尋ねよ。過去の記憶を保ち、悪魔ラプラスの復活を阻止するのが我が役目」
悪魔……だって?
「どういうこと?」
「……長き時の間に、失われたか」
黒い青年は、ぐるりと俺たちを見渡した。
「俺も長い眠りから覚めたばかりだ。まずはお前達の話を聞こう」
色々聞きたいことはあるが、まずは妹のことだ。
笛をピーピー吹いてから、風でセラの腰のあたりをつつく。
セラはそれで意図を察してくれたのか、布に包んでいた白銀の剣を、ロイバンスュビッチに見せた。
「――これは、聖剣か」
無表情だったロイバンシュビッチの顔が、わずかに強張ったように見えた。聖剣を取ると、目の高さまで持ち上げ、睨むように眺める。
「魔鋼オリハルコン製の剣を折るとは――魔剣によって折られたか? いや、聖剣と魔剣は互いに共鳴している。それはできないはずだ……」
違う! 俺がそんなことするか!
抗議しようとしたら、強く笛を吹きすぎたのか、裏返ったような甲高い音がして、ノエルが耳を塞ぐ。
「ま、魔剣ではない。白い少女のようなゴーレムに折られたのだ!」
ノエルは更に、その白い少女がゴーレムを操り騒ぎを起こしていること、さらに魔剣をも狙っていることを話す。
ロイバンシュビッチはまさか、と呟く。
「シャデラリーゼルが裏切ったか……? ラプラスの復活を狙うならば、魔剣を狙ってくるだろうが」
シャデラリーゼルってのが、あの白い少女の名前か?
さっきから何なんだ、その悪魔とかラプラスっていうのは。
「悪魔って……」
「それは魂を宿した魔道具――楽園の愚かな夢だ」
魂を宿した魔道具、という言葉に、ノエル達が反応する。
「長い話になる。聖剣を直しながら話すとしよう。話は、古代に遡る」




