魔王と勇者の旅(06)
ノエルは心配そうにキースを振り返った。
「キース、本当に大丈夫なのか?」
キースは肩をセラに支えられながら歩いていた。
「大丈夫っす……それより、話しておくことがあるっすよ」
「それは……」
戸惑い気味のノエルに、キースは首を振る。
「や、俺の身の上話はどうでもいいっす。それより、あの白い少女の正体のことで」
「何か分かったの?」
セラがキースに聞き返す。
「――さっきの戦いで、俺は幻惑の弓を使ったっすよね」
幻惑の弓、その音色を聞いたものは催眠術にかかったようになるんだったか。
「あの時は皆もいたっすからね、全体に『俺を無条件に信用する』――そういう魔法を使ったんすよ」
「……ふん」
ケルンが鼻を鳴らした。
勝手に信用させるな、ということだろうが、しかし敵味方入り交じっているなら、賢い手段だろう。
道理で、ノエルやセラが、キースにやたら信頼を寄せていたわけだ。
「なのに、あの少女は、俺を攻撃した――音を聞いていたはずなのに、弓の魔力が効いてなかったっす」
「……確かに」
音を聞いてたのに、魔法にかからなかった?
いや――待てよ。
――そもそも、俺はどうなんだ?
「俺、以前言ったっすね、魔道具であるゴーレムには弓の魔力は効かないって。聖剣さんにも、効いてなかったのは明らかっす」
「まさか!」
ノエルが立ち止まり、キースを見る。
「あの少女は、彼女自身が魔道具なんすよ」
あの少女が、魔道具。
しかし、それなら、聖剣を素手で叩き折ったことも、あの尋常じゃない動きも説明がつく。
「あり得ない」
ケルンが言う。
「魔道具は、所有者の命令を受けて発動、動くものだ。あのように知能を持ち、自律して動く魔道具など聞いたことは――」
そこまで話して、ケルンもはっと気がついたらしい。
そう。ゴーレムのような魔道具は持ち主の命令を受けて動くのが基本。もしくは、手袋や鎧のように、装備すれば常時効果が発動するタイプのものがあるが、どちらにせよ自律してはいない。
だが、例外がここにいる。俺と、妹だ。
「聖剣さんも魔剣さんも、明らかに自分で考えて動いてるっすからね」
「ううむ……しかし、ラグナロクのこともそうだが、そんな魔道具のことを、聞いたことはなかったのだ。調べることが増えたぞ。”忘却の村”に急がねばならぬな……」
ノエルは森の先を見つめた。
俺も笛を吹いて答える。嫌な予感がしていた。
夜になり、また森の中で野宿になった。本当なら、もう村についていたはずなのだが、襲撃があったからな。
ノエルのためにケルンが天幕を張る。ケルンは天幕の外で見張り番だ。キースとセラも交代で火の番をしながら休む。
眠らなくていい俺が寝ずの番をすればいいのだが、ノエルは俺を抱えて天幕の中に入ってしまうので、それはできない。
天幕の中で、横になっていたノエルだが――ぱちりと目を開いた。
珍しいな、いつもは疲れてすぐ眠るのに。
「……ラグナロク、起きておるか?」
起きてるよ。ピョー、と小さく笛を吹いて答えた。
「うむ……眠れないのだ」
ピョ?(ん、どうした?)
ノエルは寝返りをうち、天幕の天井を見上げる姿勢になった。
真剣な、しかしどこか遠い目をしている。
「我は、魔族の王として、平和を守りたいのだ」
うんうん。
「決して欲を出して人間領に手出しをしてはならないと、父上に教わった。人間は侮ってはならないと、ひとたび争いになれば、共倒れになりかねないからと」
ケルンがノエルに教えた歴史は、俺も覚えている。人間と魔族は、魔道具を巡り、長く争ったんだったか。
「だから、人間と断絶するのが一番だと思っていたのだ――だが」
キースのように、人間と魔族の血をひく者がいる。
セラのように、魔族にも優しい人間がいる。
そんなことを、始めて知ったと、ノエルは話す。
「我は、何も知らなかったのだ……魔王として、我はどうしたらよいのだ?」
ノエルは、消え入りそうな声で俺に聞く。
いや、俺に言われても……、と言いたかったが、すぐに思い直す。
話せない俺だからこそ、ノエルは弱みを見せてくれたのかもしれない。常に強がって、魔王らしくあろうとして頑張るノエルを、俺はよく知ってる。
そよ風で、軽くノエルの頭をぽんぽんと撫でるようにしてやった。
大丈夫だ、ノエル。
そうやって悩んで、考えて――きっといい魔王様になれるさ。
「ラグナロク……ありがとう、……すぅ」
ノエルはすぐに寝息を立て始める。俺は、魔剣らしく、魔王の傍に仕えるとした。
★キャラ紹介
■魔剣ラグナロク
性別:男?
魔族が所有する魔道具の剣。風を操る能力は攻守ともに優れているが、剣に宿る魂は、血が苦手なため、本来はそこまで戦うのが好きではない。
前世でも、アクションゲームは得意だったが、ゾンビを撃ちまくるようなホラーゲームは嫌いだった。
セラが作ってくれた笛により、ある程度ノエル達と意思疎通ができるようになった。
■聖剣エクスカリバー(伊織)
性別:女?
人間が所有する魔道具の剣。魔剣に宿る魂と再会するが、白い少女に本体が折られてしまっている。現在は意識のない状態。
前世では運動音痴なだけでなく、手先も不器用だった。ボタン一つつけられないとは兄の言だが、その代わり勉強はそこそこ得意だった。
■セラ
性別:男
聖剣に選ばれた勇者。聖剣エクスカリバーの所有者。
栗色の長い髪、端正な容姿により、今のところ、魔剣を含めた魔族側三人には女性だと勘違いされている。また、本人も勘違いされていることに気付いていない。
人間であり、太陽の紋章をその身に持つ。
■キース
性別:男
弓使いの青年。魔道具「幻惑の弓」を所有。
幻惑の弓は、魔道具に効かない上、耳を塞いでいる相手には効果がない。そのため今のところ戦闘ではいいところなしだが、集団相手でも一気に無力化する非常に強力な魔道具。
また、キース自身も魔道具に頼らずとも、軽い身のこなしや正確な射撃の腕を持ち、戦闘能力は高い。
人間の父と魔族の母を持ち、太陽と月、二つの紋章を体に持つ。
■ノエル
性別:女
魔族の王族の姫。魔剣ラグナロクの持ち主であり、魔道具「力の手袋」を所有。
魔剣に意識があるらしいことは薄々気付いていたが、信じられなかった様子。
自分の民である魔族のことを大切に思っているが、人間に憎しみの感情を持っているわけではない。
セラのことを同じ年頃の女の子だと思って、多少憧れている様子。
彼女は当然、生粋の魔族であるため、月の紋章を体に持つ。
■ケルン
性別:男
魔族の戦士。魔道具「癒しの鎧」を所有。
幼い頃に姉を奪われた記憶から、人間に良い感情を持っていない。
そのため、魔族と人間の和平を願うキースとは反りが合わない。
かつて魔族と人間の戦争において、武功をあげた名家。そのため、ケルンの家には代々多くの魔道具が伝えられており、「癒しの鎧」「力の手袋」「幻惑の弓」は、全てもともとケルンの実家の持ち物。
■白い少女
ゴーレムを操る謎の美少女。
人間離れした動きをするが、その正体は限りなく人に近い形のゴーレム。
しかし、魔道具でありながら、命令を受けずに行動している。




