魔王と勇者の旅(05)
†††
「うっ……」
キースが呻きながら、薄く目を開けた。横にいたセラが、顔をのぞきこむ。
「良かった……やっと気がついたんだね」
「……セラ? 一体――」
キースが体を起こすと、パサリ、とキースの体にかけていた毛布が落ちる。上半身裸だったキースは、自分の腹の傷痕を見て、今までのことを思い出した。
「俺……あれから」
「ノエルとケルンさんが、魔道具で助けてくれたんだ。でも、傷は治っても、しばらく安静にしてた方がいいって」
そう言ってセラは、キースを再び横になるように促し、破れた上着を縫う作業に戻る。キースの上着は、白い少女の攻撃で、腹に大きな穴が開いてしまっていたからだ。
「……。」
森の木々を見上げながら、キースはぼんやりした頭で、横にいるセラに尋ねた。
「……見た、っすか?」
「…………。」
何を見たと聞かれているのか、セラはすぐに分かる。セラは血を洗って干した、キースの上着の穴を縫いながら、静かに頷いた。
「キース、君は」
「……お察しの通りっすよ。俺は、人間と魔族の間に生まれたっす」
キースはそう言いながら、自分の胸にある刺青を指でなぞった。
†††
お、キースが気がついたっぽい。
ノエルとケルンと、少し離れたところにいた俺は、ぴょろ~、と笛を吹いて知らせた。
「ラグナロク、どうしたのだ?」
……うん。やっぱり笛だけじゃ、コミュニケーションに限界あるよな。
しかし、ケルンがキースとセラの方をちらっと見たので、何となく意図は伝わったらしい。
「――あのキースという若者、人間と魔族の血をひいていたとは」
「……ケルン、魔族の祝福である月の紋章、そして人間の太陽の紋章が、同時に表れることがあるのか?」
話を聞いていると、魔族には月の、人間には太陽の形の刺青が彫られているということが何となーくわかった。
道理で、キースの体に太陽と月が両方彫られていたらみんな驚くわけだ。
ケルンは、失礼します、と断って、自分の着ている服の前をはだけた。
「我々魔族は、生まれた時より、体に月の紋章を持っていますね?」
「……うむ」
そう説明するケルンの胸には、三日月のような刺青がある。ノエルも服の上から自分の胸の辺りに触れた。
「同様に、人間には太陽の刺青があります。――これは、かつて人間と魔族が戦った際、魔道具にて刺青を彫った名残なのです」
「魔道具……?」
「戦争では、激しく争い、多くの死者が出ました。ですから、敵味方の区別、とりわけ遺体の区別をつけるのに、印が必要でした。魔法により刻まれた刺青は、その子孫にも受け継がれたのです」
「そうなのか……」
へー、そうなのか。
しかし、そうなると俺としては次の疑問が出てくる。
魔族と人間を見分けるために、月と太陽の印をつけた。
となると、その戦争以前において、魔族と人間の違いは何だったんだ?
そもそも、二つの種族は、印を見ないと違いがわからないレベルで似ているということだ。キースが魔族と人間のハーフだというなら、混血も可能だし。
そこのところを詳しく尋ねたいが、俺のコミュニケーション能力では無理がある。
ノエルは何やら考えこんで黙ってしまったし、ケルンも難しい顔をしている。
仕方ないので、俺はセラやキースの方の会話に意識を集中した。や、盗み聞きじゃないよ。でも暇なんだよな。
「すまないっすね、黙ってて」
「……ううん」
セラは、縫い終わった上着をキースに渡した。キースは礼を言って、その上着を着る。
……相変わらず器用だな、セラ。ボタンもろくにつけられない妹とは大違いだ。いい奥さんになりそう。
「キースが隠していた理由はわかる。……僕は魔族を嫌ってはいないけど、そうでない人も多い」
「そうでない人の方が多いっすよ……俺の親が奇特すぎるっす」
種族を越えて愛を貫いたのか。とはいえ、種族間の壁は大きいから、その苦労はどれだけのものだったか。
「キースのご両親は……その」
「ああ、父親が人間、母親が魔族っすよ――ま、俺の話は後でいいっす。それより……」
「どうしたの、キース」
キースは首を振ると、立ち上がった。ふらつくキースをセラが支える。
「気付いたことがあるっす。……いつまでも休んでられないっすね。そろそろ出発するっすよ」




