魔王と勇者の旅(04)
ゴーレムの繰り出す斧の一撃を、ケルンは紙一重で避けながら、槍による攻撃を繰り出す。いくら傷が回復する鎧を着ているとはいえ、巨大な斧で裂かれたら即死だろうに、ケルンは勇敢だ。
しかし、この斧ゴーレム、今までのゴーレムよりも固い。俺も必死に風の刃を飛ばしているが、小さな傷をつけるのが精一杯だ。
ゴーレムを操っている白い少女の方にも風の刃で攻撃しているんだが――って、えええっ!?
その白い少女は、真空の刃を踊るように避けていた。動きが素早く、人間のそれじゃない。自分の身長より高く飛び上がって、軽々と着地するなんてこともやってのける。嘘だろ!?
「あの少女は素手で剣を叩き折っています、身体能力を上げる、魔道具を使っているはずです!」
セラは、暴風を吹き出す俺を持つノエルを支えていた。
「あの少女の相手はキースに任せましょう、僕たちはゴーレムを!」
そのキースの姿がさっきから見えないんだが!?
――と思っていると、森のどこかから、ハープの音のような、不思議な音が聞こえてきた。音の聞こえる方向は動いているので、どうやらキースは身を隠しながら、幻惑の弓をかき鳴らしているようだ。
「そうだな、キースなら大丈夫だろう!」
お、おお? ノエルもそう言うのか。
まあ、目の前の斧を振り回すゴーレムを何とかしないことには、どうにもならない。俺はゴーレムに意識を集中した。
しかしどうする。ゴーレムの図体があまりにもでかすぎるんだ。この前みたいにゴーレムの関節を狙うにも、攻撃力不足になっている。
もっと、ハンマーみたいな、でっかい武器で……そうだ!
ピーッ、と俺は長く強く笛を吹いた。これは警戒の合図だ。
はっとしたノエルが、ケルンに叫ぶ。
「ケルン、ラグナロクが何かするぞ、下がれ!」
「はっ!」
ケルンはバックステップでゴーレムから距離を取る。その瞬間、俺は巨大な真空刃を放った――ゴーレムの周りの木に向けて。
幹が切れ、ぐらりと木が揺れる。それを風で押し倒し、ゴーレム目がけて全て倒れこませた。
巨木が何本も倒れこんできては、さすがのゴーレムもバランスを崩す。
はっ、ゴーレムってのは一回倒れると弱いってのは学習済みなんだよ!
倒れたゴーレムの手に向かって、ケルンが槍で素早く突きを入れる。ゴーレムが斧を取り落とした。
「はああああ!」
さらに――さらにケルンは落としたゴーレムの斧を奪って持ち上げ、遠心力を使って思い切り振り回す。
振るわれた一撃は遅いが、倒れたゴーレムは避けることもできない。重い一撃が入り、ゴーレムの肩が外された。
†††
「斧ゴーレムまで……」
白い少女は、ゴーレムが倒されたのを見ると、素早く撤退を始めた。
その時、木々の間に姿を隠していたキースが現れる。
「こっちに来るっすよ」
キースは弓の弦を弾きながら、少女に呼びかける。
白い少女は、無表情でキースに近付いて行った。その笑みは、相変わらず、不気味で、俺は背筋が凍るような気がした。
「ふふふ……面白い音ね、でも、私には効かないのよ」
「……え?」
少女の突きだした真っ白な手が、キースの腹に突き刺さった。
何が起きたか分からないという表情で、倒れこむキース。血に汚れた手を一瞥し、少女はぞっとする笑みを浮かべた。
俺は少女をすぐに攻撃するが、ふわりと飛び上がり、木々の間に消えていく。
「今は退きましょう。でも、無駄よ。お前たちなどすぐに壊してあげるわ」
くそ、待て、どういうことだ! ……と声が出れば叫んでいただろう。
だが、少女は捨て台詞を残して消えてしまった。
「キース! しっかり!」
セラが駆け出し、倒れたキースを抱える。その腹からは、どくどくと血が――う、うわああ! 俺、血はダメだ――なんて言っている場合じゃない!
キースは意識を失っているのか、呼びかけに答えずぐったりしている。セラはキースの上着を脱がし、その上着で傷口を強く縛り始めた。
「くっ、止血しても――傷が深くて……! ここから一番近い村は!?」
「”忘却の村”だが、しかしここから森の中を歩いても一日は……」
「それじゃ、間に合わない!」
セラは悲痛な声を上げ、必死に止血を続ける。
そこに、ノエルが声をあげた。
「ケルン、何をしている! 早くその鎧をキースに着せるのだ!」
「……!」
そうか、癒しの鎧があった。それをキースに装備させれば、助かるかもしれない。
ノエルは俺を地面に置くと、力の手袋を外し、意識のないキースの手に無理やりはめていく。
「こ、これで細いキースでも鎧が着れるはずだから……早く!」
「ですが、姫様、この者は――」
ケルンは躊躇っていた。それを見たノエルは、必死に首を振る。
「嫌なのだ! キースが人間でも、私の前で、こんな風に死ぬのは絶対に嫌なのだ! 頼む、ケルン……!」
俺も風でケルンの背中をぽんと押した。
俺からも頼む。ノエルが泣くのなんか、お前だって見たくないだろ!
「……御意」
ケルンは鎧を脱ぎ、それを意識のないキースに着せていく。呆然とするセラに、ノエルが鎧が魔道具であることを説明すると、セラも急いでキースに鎧を着せるのを手伝った。
仰向けになり、されるがままになるキースの胸、鎖骨の間あたりに、刺青が彫られていた。それを見たノエル、ケルン、セラの手が、一瞬止まる。
「え……?」
ふうん、刺青? まあチャラいし、刺青くらい彫ってても俺は驚かないけど、何でみんなそんなに驚いてるんだよ?
太陽と月が重なったデザインの刺青なんて、なかなかお洒落だと思うけど――おい、どうしたんだよ?




